7
八月に入った。明日から夏休みである。
皆帰宅し、外では部活動の音が聞こえるC組の教室。
そこに穂乃花、卓哉、花の三人がいた。
「そんな……」
穂乃花は悲しい顔で肩を落とした。
卓哉も同じく顔をしかめる。
花は二人にこう言ったのだ。
また引っ越すことになった。八月明けには転校する。と。
「どこに引っ越すの? 遊びに行くよ?」
穂乃花は涙を堪えながら訊く。
しかし、花はただ首を横に振るだけだった。
その帰り道。
急に雨が降り出した。
三人は急いで近くのバス停まで走り雨宿りをする。
卓哉は犬のように体を振って雨を落とす。花はただ真っすぐに向かい側を見ている。
穂乃花は小さなハンカチを出し花に差し出す。
そのハンカチを見た花は何故か顔をしかめた。
そんな花をよそに、穂乃花はそのハンカチで花の肩や顔を拭きハンカチを渡した。
「濡れたままだと風邪ひいちゃうから。そのハンカチはあげるね」
淡い黄色のハンカチ。小さな花の刺繍を隅に飾られたどこにでもあるようなハンカチ。
「ありがとう」
花は小さくつぶやいた。
卓哉が提案する。
「バスで帰ろうか。結構本降りになってきたし」
これを聞いた二人は首を縦に振る。
そしてバスが到着し、足早に卓哉は乗り込む。穂乃花もそれに続き、手すりに手を掛けた。
『ドアが閉まりまーす』
穂乃花は一つだけ開いている席を見つけ花を呼んだ。
「花ちゃんここに座りなよ」
しかし返事がない。
バスが走りだし車内が揺れる。
車内を見渡しても花の姿はない。
「あ」
卓哉が窓の外を見ながら声を上げた。
視線の先には花の姿。バス停に立ったままの花の姿があった。
「え? なんで」
二人は意味も分からず呆ける。
「花ちゃん
「さあ」
お互いに花の住所は知らない。
一緒に帰ったこともあったが、いつも最後まで一緒だったので、穂乃花は自分の家の先に花の家があると思っていた。
しばらくの沈黙の後穂乃花は口を開く。
「夏祭り。三人で行かない? それでさ、私たちの秘密の場所教えてあげようよ!」
左手をポケットに入れたまま卓哉は返事する。
「秘密の場所って裏山のか?」
「うん! あそこは花火がきれいに見える私たちの特等席じゃん。花ちゃんにも教えてあげたいの」
「そうだな。この町の思い出になる。いいと思う」
「決まりだね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます