EP10 夏が終わる。

…。

昨日、キスされた。

……。

キスをしてしまった。

………。

妹にキスするとかあかん!

俺シスコンじゃん!

いや、俺はシスコンじゃないっ!

ぐぬぬぬ―――

「にぃ、なに唸ってるの?」

昨日のことは忘れました〜みたいにケロッと言ってくるなぁ…。

こっちはこっちでいろいろ大変だっつーの!

「な、なんでもない…」

「ふ〜ん?」

か、海音さん、目線が…その…痛いっす…。

「そんな怪しげな目で見るなよ…。な、なんもしてねぇよ…」

「ふ〜ん?」

………。

だめだ。

「ほんとに?」

「ほんとほんと」

「嘘ついてたらどうする?」

「好きなもん買ってやる」

「他は?」

「ほ、ほか…?」

「た、例えばその…にぃと1日手をつなぐ…とか…?」

「…………は?」

「あっ!いや、べっ、別にそんなこと思ってないしっ!?普通に好きなもの買ってくれるのでいいしっ!?」

ほぉー?

海音よ。

お主のキャラがわからぬ。

「はぁ…じゃあ好きなもん買ってやるよ。」

そう言ったら、海音はしょぼーんとした。

え…?

「じゃ、じゃあ、俺を1日自由に使うのはどうだ?」

すると――――

「ほんとっ!?やったー!うれぴぃ♡」

……。

可愛いなぁこいつぅ〜!

でも…なんで―――

「じゃ、嘘ついてたら…自由に使わせてもらうからね?」

「も、もちろん!」

……?

「じゃ、でも見ますか。」

え?

か、隠しカメラ…?

「にぃが入る前に設置しておいた。」

ということは………

「再生ボタン、ポチッとなっ♡」

そこには。

俺が海音にキスをした動画がバッチリと写っていた。

海音はそれを見た瞬間顔を真っ赤にして―

「にぃ…?」

とこっちを見た。

「ごめんなさい…」

即☆土下座。

「………。」

恐る恐る顔を上げた。

「かっ、海音…?」

「はっ!に、にぃっ!?べ、別ににぃにキスされたからって、喜んでるわけじゃないんだからねっ!?」

喜んでるのね。

海音、ツンデレにでも目覚めたのか。

まぁ、いい。

海音の可愛さが増すだけだから。

「ところでにぃ?」

「はい。」

「寝ている私にキスするんだね〜?」

「すみまてん…」

「もしかして…私が寝てるとき、ずっとキスしてた…?」

キャーッ♡と。

だめだ。

海音が壊れた。

「さ、にぃ。」

「はい。」

「1日自由に使っていいんだね?」

「はい。」

「いつでもいいんだね?」

「はい。」

……?

いつでも…?

今日じゃないの…?

「いつにしようかな〜♪」

……。

決めてないのか…。


今日は8月28日。

夏休みももう終わる。

しかし、俺にはまだ終わってないものがある。

それは―――――

「あ、宿題やってない…」

――――――。

あるあるですね〜

よし!

やろう!

椅子に座って机に宿題を置いて―

さぁ、やる――――


「にぃ!海行こ!」


………。

海音。どうした。

いつものテンションじゃないぞ?

とりあえず…残念だが断っておこう…。

「すまない。俺には宿題という名の敵がいるんだ。」

……。

なんか中二病っぽくないかい?

まぁいいや。

「えー…行こうよ〜てるにぃ!」

「いや…でも…」

「サーフィンやってるとこ見せたかったのに…」

は?

サーフィン?

海音、いつの間にそんなことできるようになったんだ…?

海音がサーフィンやってる姿…

見てみたいっ…!!!

いや、でも…宿題が…

あああああああああ…………

「海音。ほんとにごめん。俺…宿題やらないと…」

「そっか…じゃあ、行ってくる!!」

納得したのか。

優しい我が妹だな。

嗚呼、まい天使エンジェル


さ、宿題頑張ろ…。


――――


「ただいま〜って、にぃ?」

「zzz…」

「にぃ!起きろ!」

「ふぁっ!?はいっ!なんでしょう!?」

「はいこれお土産。」

と。

なんかの貝を渡してきた。

「じいちゃんに渡して?それ。」

「……。わかった。」

と言って部屋を出て行った。

「ていうか…寝てたのか…。今何時だろ…」

時計を見た。午後4時。

結構寝ていた。

明日の昼ぐらいにここを出て、家に帰る。

長いようで短い夏休みだったな…。

夕姉ゆうねぇ時雨しぐれにお土産買わないとな…。

お土産……。

じいちゃんに聞けばわかるか。

そう思って俺はじいちゃんのとこに行った。


じいちゃんがいつもいるとこに行くと―――

「うぉぉぉぉ!!!海音、凄いなぁ!」

と。

めっちゃ褒めてるじいちゃんの声がする。

「じいちゃん?」

「ああ、煌姫。見ろよ!海音、こんなものとってきてくれたんだぜ!」

――。

さっきの貝。

「なんていう貝なの?」

「アワビだ!」

アワビ…。

「それってすごいの?」

「ああ、もちろんだ!!これはな、高級食品なんだぞ!?」

「へ、へぇ〜」

高級食品ねぇ…。

「そ、それより、じいちゃん。なんかいいお土産ない?」

「ん〜?土産か?なら俺が作る飯でも持ってけ!はははははは!!」

じいちゃんのご飯…か…。

まぁ…いいのかな…。

帰るときになんか買ってこよっと。


「海音、帰る準備するぞ。」

「あいあいさー」

そう言って、荷物をまとめた。

「ねぇ、にぃ…。」

「ん?」

「学校…行ったほうがいいのかな…?」

「そりゃあ…行ったほうがいいだろ。せめて始業式には。」

「そっか…。」

海音、成長したなぁ…!!

兄ちゃん、嬉しいぞ!!

「あ、そうだ。にぃ、いつ帰るの?」

「明日の午後かな。夜には向こうに着くよ。」

「りょーかい」

「寝るか。」

「うん…。眠い…。」

「おやすみ」

「おやすみ。」


翌朝。


「にぃ。起きるのだ。」

「ん。」

「おはよ、にぃ。」

「おはよ、海音。」

普通に挨拶してるけど、一つツッコミたい。

「なんでお前、俺の布団で寝てんの…?」

添い寝。

ほんとは最高。

でも、聞きたくなる。

「にぃの寝顔を見たかった…から?」

何それ!超可愛い!!

許すっ!

「そ、そうか…。」

「うん。」

沈黙。

………。

「幼馴染には会わなくていいの?」

「え?」

「名前は知らないけど、会ってたでしょ?」

「あ、あぁ。」

なんで知ってるんだ…?

「別れぐらい言ってきたら?」

「そ、そうだな。」

俺は、みーちゃんに会いに行くことにした。


みーちゃんの家に着いた。

ピンポーン――――

――――――

「はぁい…って、煌姫くん!?」

「おはよ。みーちゃん。」

「おおおおおおはよ!な、なんかお見苦しい姿で申し訳ないです…」

「へ?全然大丈夫だよ」

「で、どうしたの?」

「あぁ、俺、今日の午後に帰るから。それを言いに来た。」

「そっか。」

「うん。」

「元気でね。」

「みーちゃんもな。」

「うん。」

「それじゃ、また。」

「またね…。」

悲しそうだな…。

「ね、ねぇ…。煌姫…くん。」

「ん?」

と振り向いた瞬間、頬に柔らかいものが当たる。

…………。

………。

「へっ…?」

「好きだよ。煌姫くん。」

その告白は――本当に唐突だった。

「ありがと…。」

「ほんとに…元気でね。」

「心配性だなぁ。みーちゃんは。」

「だって…だって…!!」

泣いちゃった…。

「だって…煌姫くんがまたどこかに行っちゃうの…いやだよぉ…」

「みーちゃん…。」

「ずっと一緒にいてほしいよぉ…」

「……。」

俺も男だ。

そんなふうに思ってくれてるなんて、嬉しいじゃないか。

俺は、みーちゃんの顎をくいっと軽く持ち上げて――

―――――キス。

頬にではなく、口に。

「〜〜〜ッ!!??」

「みーちゃんも、元気でな。」

みーちゃんの顔は、桃の色よりも赤かった。

りんごのように、赤かった。


「にぃ。キスした?」

……。

「は?」

「にぃのほっぺから、女の人の匂いがする。」

どういう嗅覚してんだよ。

「………。」

「何も言わない…図星みたいだね…にぃ…。」

うん。そのとおり。

察しがいいねぇ…。

「正確には、方だけどな。」

「そんなのわかってるよ。盗聴器仕掛けておいたから。」

……。

盗聴器。

そんなもの、どこで買ったのでしょう。

とても気になるなぁ!

「はぁ…まったく。にぃはキスされ過ぎ!ハーレムでも作ってウハウハしたいの!?」

ハーレム…。

ウハウハ…。

「まぁ…したいっちゃしたいけど…そんなこと、できるわけないから。」

「したいんだ…。にぃも思春期なんだねぇ〜」

「そりゃまぁ…いい年頃だからな…。」

「にぃ…。」

「ん?」

「ばーか」

……。

海音にバカと言われた。

結構傷つくなぁ…。

「…。ちょっと散歩してくる。」

「あ…にぃ…」

俺は気分転換で、散歩することにした。


「やっぱここはいいなぁ〜」

いつも住んでる町にはない景色だ。

頭に焼きつけなければ…。

たまーに吹く風が気持ちいい。

そういえば…少しお腹空いたな…。

ま、それもそうか。もうお昼だもの。

駅近くのうどん屋さんに行こう…。


「いらっしゃい〜」

「婆さん、いつものちょうだい。」

「あいよ〜」

相変わらず元気いいなぁ。

「そういえば煌姫君。もう帰るんだって?」

「あ、はい。今日の午後に出ようと思ってます。」

「そうかい…もうちょっとここにいてほしかったんだけどねぇ…」

「俺も…もうちょっといたかったです。でも、学校がありますし。」

「そうだよね…。学校だもんね…。」

「はい…。」

「はい。これ、お待ち。」

「ありがと。いただきます。」

「召し上がれ。」

おいしい。

いつもより、おいしく感じる。

なんでだろうね。


俺はあっという間に食べ終わった。

「ごちそうさま。これ、代金。」

「あいよ。あと、今日は特別だ。代金はいらん。」

「え…でも…!!」

「いいんだよ。」

なんて優しい婆さんなんだっ…!!

嗚呼。惚れそう。

「ありがとうございますっ!」

「うん。元気にしててな。」

「はい。もちろん!」

「また食べに来るんだよ。」

「冬休みに食べに来ます…。」

「そうかい。待ってるよ。」

「はい。それでは。」

そう言って、駅近くのうどん屋さんをあとにした。


「ただいま。」

「お、おかえり…にぃ…その…さっきは、ごめん…。」

「いいんだよ。」

「何時…出るの…?」

「3時ぐらいかな。普通列車に乗って、夜々祇ややぎからは快速に乗って帰るよ。」

「りょーかい。」

夜々祇かぁ。

なんか悪い思い出があったような―なかったような。

まぁいい。

あとは―

「あとは、じいちゃんたちに挨拶しに行って―ここを出るか。」

「ん。」


「じいちゃん。」

「ゆうじい…」

じいちゃんがいつもいるところに顔を出すと―

「ん?どした?」

やっぱりいた。

「じいちゃん。俺たち、今日帰るよ。」

「突然でごめん…ゆうじい…」

じいちゃんはポカーンとしている。

「そうか…。ばあちゃんのとこには行ったのか?」

「ううん…まだ。」

「そうか…。ちゃんと挨拶しに行けよ。」

「もちろん。」

「元気でな。」

「じいちゃんこそ。」

「ゆうじい…仕事頑張ってね。」

「もちのろん、じゃ。ははは!」

最後まで笑いをとろうとするなぁ…じいちゃん。


「ばあちゃん…元気にしてるかな…。」

「大丈夫だよ…にぃ…前に顔出しに行ったから。」

「あ、そうなの?」

「うん。」

「ならよかった。」

ばあちゃんが住んでるとこに着いた。

ガラガラガラガラ――

と、玄関のドアを開ける。

「ばあちゃん――?」

「あら、煌姫!久しぶりねぇ。」

「久しぶり、ばあちゃん。ごめん。顔出せなくて。」

「いいのよ。こうやって話せるなんて。嬉しいわぁ。」

ほんとに嬉しそう。

「ばあちゃん。俺たち、今日帰るんだ。だから―挨拶しにきた。」

「…………。そうかい…。」

ばあちゃんは少し悲しい顔をしていた。

でも、笑っていた。

作り笑いのように見える…。

「元気にしてるんだよ。煌姫、海音。」

「「うん…」」

「私からはそれだけよ。また、会いに来てね。」

「もちろん…。」

そう言って…ばあちゃんにも挨拶した。

あとは―

スイートルームの鍵を返して、帰るだけだ…。


旅館のフロントで鍵を返した。

お金は全部じいちゃんが払ってくれるらしい。

「海音。帰るか。」

「そうだね。」

そう言って―旅館をあとにした。


帰りは特に問題なく帰ってこられた。

無事に、家に着いた。

「ただいま。」

「ただいま…なのです」

すると――

「「おかえりなさい!!」」

中から夕姉と時雨が迎えてくれた。

「これ、お土産。」

「わー!ありがとう!」


もう―――

夏が終わる。

秋が来る。

長いようで短い夏休みが終わる。

時間には…逆らえないからなぁ…

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