EP9 祭とサプライズ

ここに来てから、いろんなことがあった。

いろんな…

なにかしたっけ?

幼馴染と再開したぐらいだろう。俺は。

そう思うと、海音は…。

まぁいいや。

ま、明日は頑張らないといけないな!

頑張るぞ!冷那月さなつき煌姫てるき、妹のために!

エイ、エイ、オー!

「あ、煌姫ここにおったか。」

「うわぁっ!?」

びっくりした。とにかくビビった。

じいちゃん足音なくね?気のせい?

「どした。そんなに慌てて」

「い、いや、なんでもない…よ?」

なんで疑問系になったんだ?

自分でもよくわからん。

「明日、海音の誕生日じゃろ。」

「え…。覚えてたの!?」

「もちろん覚えとるわ。なんたって、かわいい孫じゃからな♪」

「そっか。俺、てっきり忘れてるかと…」

「まぁ、何年間も会ってないからな。そう思うだろう。」

「うん…」

「ところで、明日、海音のサプライズは決まってるのか?」

「いやぁ…まだ決まってない…」

するとじいちゃんは、ニヤっとして―――

「なら明日、近くで夏祭りがあるんじゃ。」

「え。まじ?」

「まじまじ♪」

このノリどっかで見たことあるぞ。

ていうか、夏祭り!?

最高じゃん!

「それに決めたっ!」

「もちろん、2人とも浴衣を着るんじゃぞ?」

「へっ?」

「海音の誕生日なんだから、全部煌姫が奢るんじゃぞ?」

「へ?」

「最後に花火が打ち上げられるから、そこで海音とキスでも…」

「しねぇよっ!!」

い、妹と…キス…。

引きこもりだけど結構かわいくて、血が繋がってる妹の海音と…。

そ、そんなことよりっ!

全部俺が奢る…?

金は!?

ちょっと待っ―――

「はいじゃあこれ。じいちゃんからの小遣いじゃ。楽しんでくるんじゃぞ?」

と。諭吉さん2枚。

………。

やったー!!!

「ありがと!じいちゃん!楽しんでくるよ!」

「浴衣忘れんなよ?」

「もちろん!忘れないよ、じいちゃん!」

ん…?なんか今のセリフ、別れ際に言いそうなセリフだな。

気のせいか。

俺はルンルン気分で部屋に戻って、

そのままベッドにダイブして―――

眠りについた。


翌日。

「ふぁぁぁぁ…よく寝た…」

「にぃ、よく寝てた。」

「そ、そうか…?って、ええええっ!!??」

「ど、どうしたの?にぃ…そんなに驚いて…」

えーと。どういう状況でしょうか。

海音が添い寝して…!?

…………。

なんで寝たんだよ、俺ぇぇぇ!!!

「最近驚くことばっかで心臓に悪い…」

「……。いやだった…?」

「いいや、めっちゃ最高だった!ここに天使がいるのかと思っちゃった!」

「に、にぃっ…は、恥ずかしい…」

「かわいいなぁー!」

と言いながら海音の頭をなてなでした。

うん。俺、シスコン確定だわ(笑)

まぁ、そんなのどーでもいいんだけど!

とりあえず今日のことは内緒にしておいて。

「あ、海音。すまん。ちょっとでかけてくる。」

「え…。にぃ…。どこにも行かないで…」

え…。

「じいちゃんのとこに行くだけだ。すぐ戻る。」

「信じていいの…?」

「あぁ。兄ちゃんを信じろ!」

海音は黙って頷いてくれた。

「ありがとな。」

海音は黙ったままだ。

そして。

俺がいなくなった部屋で。

「にぃ…。私のこと…かわいい…って言ってくれた…」

と密かに嬉しがる海音。


「帰ったぞ〜」

「おかえり。にぃ。」

「ん」

「と、ところで…にぃ…」

「うん?どした?」

「今日…」

今日。今日は海音の誕生日だな!

「今日?これからなんかあるのか?」

「………」

あら…?

めっちゃ悲しそうにしてる…やばい…

「か、海音…?」

「――ッ!煌兄、ごめんっ」

と言って、部屋から出ていったのである。

ごめんよ。海音。

話したら…つまらなくなりそうで…。

ほんと…ごめん…。


一方その頃逃げ出した海音は。 


「ゆうじぃ!」

「んー?」

冷那月 幽慈ゆうじこと、じいちゃんの下に行った。

この呼び方だと、じいちゃんを呼び捨てしているようにも聞こえるが――

じいちゃんは全然オッケーらしい。

「にぃ…が…」

「うん?煌姫てるきがどうした!まさか、倒れたのか!?」

おいおいじいちゃん。そんな冗談ジョークはやめてほしいなぁ!

「ううん。違うの…。その…。私の誕生日…忘れてる感じで…それで…」

とうとう泣き出した。

「それで、ここにきたのか。」

海音は黙って頷く。

「うーん…。って、ヤバイヤバイ…すまんな、海音。ばあちゃんと相手してもらえるか?ちょっと仕事が…」

ちょっと泣き止んでから、

「わかった…。」

と言った。

「ありがとな、海音。ばあちゃんは、家にいるから。」

そう言って仕事に戻った。

「煌姫…なにも海音を泣かせるほど隠す必要なんてないだろ…まったく…」

と。独り言をつぶやいた。


海音は家に行った。

ガラガラガラガラ―。

「いらっしゃい。って、海音じゃない!久しぶりねぇ〜」

「久しぶり。ばあちゃん。」

「どうしたの?幽慈さんから、『煌姫と海音が来てる』とは聞いてたけど。」

「ちょっと…顔出しにね…。」

「ありがとうね〜。ささ、上がって上がって〜」

「うん…」

懐かしい。そう思っただろう。

昔と変わらない匂い。

畳とこたつ。そして、ちょっと小さめのテレビ。

家自体は小さいものの、庭が広い。

庭には、天然の芝生が生えてるスペースがあって。

ちょっと大きい木が生えてて。

木の下に、ベンチが置いてある。

花も咲いていて、とても綺麗な庭だ。

ほんと。なにも変わってない。

そう思いながら、窓の外を眺めていたら―

「お待たせ」

と、お茶と茶菓子を。

「どうしたんだい?さっきから浮かない顔をしているけど。」

「………。」

「なんでも言ってみなさい?」

「ばあちゃん。今日、なんの日かわかる?」

「海音の誕生日でしょう?孫の誕生日ぐらい覚えてるわよ」

「そっか…」

「煌姫となにかあった?」

「……。」

その通りである。

「そっか。」

「うん…。」

「う〜ん…。もしかしたら、なにか隠してるんじゃないの?」

「……?……っ!」

何かに気づいた様子である。

海音はお茶を飲み干し、茶菓子を持って―

「ばあちゃん、ありがとう!またくるね!」

そう言い残して、急いで戻った。

「あらあら。あんなに走っちゃって。悩みが吹き飛んだって感じね。よかったわ。」


部屋に戻った。

でも、いるはずの兄がいない。

「にぃ…?」

机の上に置き手紙があった。


海音へ。

少し出ていくから。

煌姫より。


それしか書いてなかった。

「に、にぃっ…!?」

急いで兄を探す海音。

「どこっ…!?」


「―――っくしょん!…誰か俺の噂でもしてんのか…?」

と。くしゃみを1回。山道を歩いていた、兄―煌姫。

「動かないと体が鈍るからな…」

近くにそこそこ標高が高い山があるので、そこを登っているとこである。


「ゆうじぃ!」

「ん?今度はどうした?」

「煌兄が…」

「煌姫がどうかしたのか?」

「部屋にいなくて…探しても…どこにもいないの!」

「……。海音。電話してみるか?」

「え?……うん。」

じいちゃんから携帯を受け取り、煌姫に電話をかける。

ピリリリピリリリ――


ピリリリピリリリ――

「ん?電話…?ていうか、圏外じゃないのが驚きだな。まぁいいや。」

ポチッ――


「もしもし?じいちゃ――――」

『てるにぃ。』

「はい。なんの用件でございすか、海音様。」

電話越しに海音の殺気を感じる。

やばい。これ…帰ったら海音からの説教だ…

帰るべきか…?いや、でも山頂まで登りたい…。

『てるにぃ。帰ってきて。すぐ。今すぐ。なう!』

……。

また来たときにしよう。

俺はとりあえず全力で走って帰った。

約10分ぐらいかかった。

部屋の前で呼吸を整えて―

ノックを3回。

恐る恐るドアを開けると――

「おかえり、てるにぃ。」

仁王立ちしている海音が。

「ご、ごめん…」

「うん?なにを謝ってるの?てるにぃ。」

「えーっと…その…海音を置いて出ていってしまってごめんなさい…」

俺は土下座でなんとかなるかなーと思ったが。

なんと!!!

頭を踏みつけてきたのである。

妹が、兄の頭を!

海音のドSか…。

ヤンデレとドS。

ちょっとやばいような気がする。

ま、対処法は知ってるけど。

「ねぇ。てるにぃ。今日、私の誕生日だよ?ゆうじぃもばあちゃんも覚えてるのに、なんでてるにぃが覚えてないの?なにか隠してる?ねぇ、隠してるなら全部吐いてよ。」

こんなときは…

キレるしかない…

「おい。海音。兄の頭を踏みつけるなんて度胸あるじゃねぇか。」

「……っ!」

「そんなに兄が嫌いか。踏みつけるほど嫌いなんだな。じゃあ、今までのは全部演技だったんだな。演技うまいねぇ〜海音。高校生になったら、演技部にでも入ってみれば?……って、言い過ぎたな…海音、泣くな。」

海音は今にも泣き出しそうな顔で―――ていうか、もう泣いてる。

「にぃのばかっ!」

「兄に馬鹿とはなんだ。」

「演技じゃないもん…」

「ん?なんか言った?」

「にぃの…」

「もうちょいはっきり言ってくれ。」

「にぃのばかっ!朴念仁!だいっきらい!」

と言い残して逃げて行った。

これが…兄妹ケンカというものか。

なんか…悲しいな。

このあとの祭…大丈夫かな…。

ていうか…探さないと。



「うっ…にぃっ…ごめんなさいっ…うっ…」

海音は誰もいないとこで泣いていた。

がむしゃらに走ったので、ここがどこかもわからない。

わかるのは…ここが外で、森の中であること。

「なんで…ここまで…来たんだろ…どこ………?」

兄にあんなことを言ってしまっては、合わせる顔がない。

海音は空を見た。

もうオレンジ色に染まっている。

夕方なのだろう。

帰りたいけど…道がわからない。

「にぃ…助けて…」

そう願った瞬間、近くで物音がした。

ここは山だ。

なにが出てもおかしくない。

「こわいよぉ…にぃ…」

「ったく。手間かけさせやがって。」

「ごめんなさい……?」

海音は顔を上げた。

そこには、ボロボロになった兄の姿が。

「帰るぞ。」

「あ、あの…にぃっ…」

「ん?」

「ごめん……なさい……」

「はぁぁ……。俺も悪かったよ。ごめんな。海音。」

「ううん…わたしっ…見捨てられたかとっ…おもっ…た…」

「可愛い妹を見捨てるなんてできるかよ。あと、このあと。でかけるぞ。」

「ど、どこにっ…?」

「内緒だ。」

笑った。


部屋に戻って煌姫からの第一声。

「よし。着替えろ。」

「…………………。」

俺、変態だ。じゃなくて。言い方を間違えた。

「すまん。言い方を間違えた。そこにかかってる服を着ろ。」

「び、びっくりした…てっきり…大人の階段をのぼ―――」

「らないよっ!?」

「だ、だよね…妹としたら…だめだしね。」

俺ら…なに話してんだ…?

「じゃ、着替えてな。俺の服は別の部屋にあるから。着替えたら、ロビーに集合な。」

そういえば、今まで自分の家のように過ごしてきたけど…

一応ここ…旅館だからね(笑)


さて。んー…

海音の姿が見えないなぁ。

早く見たいなぁ…海音の浴衣姿。

可愛いんだろうなぁ―

「お待たせ」

「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ……」

って、何言ってんの俺は!

「何言ってるの…?」

「あぁ、ごめんごめん。ゴッホの本名だよ〜今度のテストにでるかと思って、覚えてたんだよ。あっはは〜」

「普通に考えて、そんなことないでしょ。まず。」

言われてみればそうだ。

そうだな。

「にぃ。どこ行くの?」

「ん?それは―」

「祭りじゃよ」

「ゆうじぃ…?」

「近くで祭りがあるんじゃ。楽しんでこい。誕生日おめでとう。海音。」

「ゆうじぃ…にぃ…ありがと…」

照れくさそうに言う海音。

「プレゼント用意できなくてごめんな、海音。仕事忙しくてな…」

「ううん。いい…」

「海音。そろそろ行くか?」

「うんっ!」

「じゃ、じいちゃん。行ってくるよ。」

「気をつけてな」

そうして楽しく2人で歩いて祭りに行った。


「わ〜たくさん人いるね〜」

「そだな。はぐれんように、手…つなぐか?」

海音はポカーンとした顔になり―

「つなごっ!」

と言って手をつないだ。

「にぃ!遊びたい!」

「ん?いいぞ〜何して遊ぶ?」

「射的!」

「よし。行こう!」

海音って、射的好きなんだな。上手いんだろうな。

「あーもうっ!なんで落ちないのっ!?」

そう思っていた自分がいたよ。

「か、かのん…射的…やったことないの…?」

「うん。」

即答。

「射的…好きなの…?」

「いや?」

……。

やっぱり。

うん。わかってたよ。わかってたからいい。

「海音…貸してみろ…どれがほしい…」

「あれ」

と、指を指した方には…

『ゲームカセットどれでも1つ!』

と書かれた箱が。

さすが、引きこもり。

「海音。あーいうのは、大体中身が重いんだぞ?」

「え?そうなの?」

うん。そりゃぁ、ゲームカセット1つ数千円だからね。

多分…射的より普通に買ったほうが得だが…

まぁいいか。楽しめることができれば。

「しゃーない…ルールを教えるぞ〜」

と言って、お菓子を狙った。

「こうやって欲しいものに狙いを定めて…」

パンッと撃った。

狙って撃ったお菓子は後ろに落ちた。

「後ろに落ちたら自分のものだ。わかった?」

「うん!わかった!」


そして、激闘の末―――

「やったー!!カセットGET!」

大体8千円ぐらい消えてった。

まぁ、残り2万あるから全然いいけど。

「そういえば、お腹空いたな。」

「そうだね…」

「なにか食べたいものはあるか?」

「ん〜…にぃっ!綿菓子ほしぃ!」

「よし、行こう!」

結構人がたくさんいるから、移動するのに時間がかかった。

「人…多すぎ…」

「ほんとにね。」

「はい。綿菓子お待ちぃ〜」

「ども〜」

「はむっ!」

俺が持ってる綿菓子に可愛い効果音をつけて食べた。

可愛い。

「はい。これ。」

「にぃは食べないの?」

「うん。」

「食べないの…?」

「う、うん。」

「にぃっ…」

めっちゃ目をうるうるさせながら見てくる。

こんちくしょう!食べなかったら泣くじゃんか!

「た、食べるよ…」

「はいっ!」

俺は仕方なく一口食べた。

「甘いな。」

「お菓子だもん。」

祭りに夢中になっていたら、もう空は真っ暗になっていた。

8時23分。そういえば、打ち上げ花火が30分からあるって言ってたな。

そろそろ場所を取らないとな。

「海音。ちょっと移動するぞ。」

「?…ん」


そして、花火を見るのに選んだ場所は――

「に、にぃ…?私たち…兄妹…だよ?」

誰もいない神社である。

周りが暗いので、花火を見るのにピッタリだろう。

そんな俺のチョイスが。

…………。

「するわけないでしょ。ここに長椅子あるから、ちょっと座ろ。」

「…?ん。」

8時29分。

打ち上げまであと1分。

「ねぇ…にぃ…なにかあるの?」

「あぁ。」

「なになに〜?」

「まぁ、待て。もう少しで――」

と。

ヒュルルルル―――という音と共に、花火。

「わぁ…きれい…」

「だな」

「にぃ…まさか…隠してたのって…これ…?」

「あ、あぁ。なんか…すまんな。泣かせるほど隠したくもなかったんだけど…。」

「…………」

海音が考え込む。

「ねぇ、にぃ。ほっぺになんか付いてるよ?とってあげるから、ちょっとしゃがんで?」

「ん?あ、あぁ。」

しゃがんだ。

海音の身長に合わせる感じて。

そして―

ほっぺに柔らかいものが当たった。

……。

き、きs――――!!!!

「ありがと…にぃ…。」

頬を赤くして――

小声で――

耳元で―

「大好きだよ。にぃ。」

と――。


☆☆☆


「ただいま〜」

「ただま〜」

「おぉ!おかえり。煌姫、海音。」

じいちゃんが出迎えてくれた。

「楽しかったか?」

「ん?楽しかったよ!」

「同じく!」

「ん?海音、機嫌良くないか?」

「そう?普通だよ?ふ·つ·う!」

ルンルン気分で部屋に向かう海音。

少し距離が離れたところで―

「なぁ煌姫。なにかあったのか?」

「………。キスされた。」

「はぁ!?」

そりゃ驚くわな。

仕方ないよ。

「そうか…もうお前ら結婚しろ、結婚!」

「いや、俺たち兄妹だから。」

「そんなの関係ない!」

「関係ある!」

「なに話してるの?にぃ?ゆうじぃ?」

「「な、なんでもないよ!海音ちゃん!」」

見事にシンクロした。

「あはは!変なの〜先行ってるよ!」

「じゃ、そゆことで。俺も行くわ。」

「あいよ。」

「おやすみ。」

「ん。」


部屋に戻った。

海音はもう寝ている。

早すぎだろ…。

寝ている妹に―

俺は―

お返しとして――

軽くキスをした。

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