EP4 海音が家から出ない理由

あれは…もう数年前のこと。

海音がまだ…小学1年生のときだ。


―――――――――――――


「煌兄!はやくはやく!」

無邪気な笑顔で手を振り俺を呼ぶ海音。

「危ないから気をつけろよ!!」

「わかってるって!!!」


そして――

事件は起こった。


海音が横断歩道に差し掛かったときだ。

横から車が来ているのに、海音は気づいていない。

俺は全力で走って、海音のとこに行った。

「にぃ!はやく!」

「海音!逃げろ!」

そう言ったのに…

海音は…

「えー?なんでー?なにか追いかけてきてるのー?」

と、のんきに。


車からクラクションが鳴る。

海音はすぐに気づいた。

でも、もう車との距離は数メートル。

車のスピードも速い。


そして…


ドン――――――――


と。鈍い音。


俺は海音がひかれる前に、思いっきり背中を押したのだ。

海音は前のめりになり、転んだ。

俺は…頭やいろんなところを打ち、出血。骨折。

意識が朦朧もうろうとしている俺の横で―――

「煌兄!死なないで…ごめんなさい…お願い…だから…」

と泣きながら俺を呼ぶ海音。

やがて救急車がきた。

俺は…海音が無事なことを確認して

救急車の音が聞こえて安心したせいか―


そのまま意識を失った。


――――――――――――――


気がつくとベッドの上で眠っていた。

横には、夕夏、時雨、海音がいる。

「煌姫…!?」

「お兄ちゃん!?」

「煌兄……!?」


みんな一斉に俺を呼ぶ。

俺はうっすら笑った。


「みんな…ごめんな。心配かけて。」


その一言でみんなが泣き出した。


「煌姫…よかった…」

「お兄ちゃん…うぇぇぇん」

「煌兄…ごめん…なさい…」


夕姉はホッとした感じで泣いて。

時雨は声を上げて泣いて。

海音は誤りながら泣いた。


俺の怪我は、全治三ヶ月だった。

その間に、海音は病院に来ることはなかった。



怪我も治り、俺は家に帰った。

「ただい…うわっ!?」

ただいまと言い終わる前に海音が抱きついてきた。

海音が…夕姉や時雨よりも早く?め、珍しい…。

「にぃ…ごめん…病院…行けなかった…」

「いいんだ。でも、どうして…?」

海音はそのままうつむいた。

すると…


「煌兄。買い物に行きませんか?」

「え?で、でも…今日の分買っちゃったし…」

「いいの!!とりあえず…買い物!」

「お、おう…」

海音はいつもはそんなに積極的ではない。

だから、嬉しい反面、なにかひどく心配している。


――――――――――――――


外に出た。

大通りに出た瞬間。

海音が震えだした。

「え?か、海音!?どうしたんだ!?」 

すると――

「ごめんね。にぃ…。私…車を見ると…力が…抜けるんだ…。頭も痛い。」

涙混じりの笑顔で言った。

海音のこの症状。それは、車恐怖症。

車を見ると頭が痛くなったり、力が抜ける、そんな症状だ…。

「嘘…だろ…?」

今の時代、車なんて必要不可欠な道具だ。

大人ならほとんどの人が乗っている。

海音が通ってる学校までの道は、よく車が通る道だ。

つまり――――

「これから…学校に行けにくくなる…のか?」

「うん…。」

「そっか。」


それが…海音が家から出なくなった理由。


―――――――――――――


時は戻り。

「海音?いるか?」

俺は海音の部屋の前に立っている。

すると―

「どうしたの?煌兄」

と可愛らしくひょこっと出てきた。

「ちょっとお邪魔しても…いい?」

海音の顔が、トマトに負けないぐらいの赤面になった。

「ちょ、ちょっとだけ…待ってください…」

かわいいなあ!

「いいよ。」

数分後。

「お待たせ。」

「ん。お邪魔しまーす」

綺麗だな。部屋。あ、いや、まぁ海音も…綺麗。

「どうしたの?煌兄」

「あ、いや、なんとなく…入ってみたかったんだ。」

「そ、そうなの…」

めっちゃ照れくさそうに下を向いている。

しばらく沈黙が続き―

「なぁ…海音」

「?」

首をかしげた。

「おいで。」

「えっ…………?」

いきなりのセリフに戸惑っている。

「膝枕。してやるから。早く。」

海音は体をビクッとさせて―

俺のとこへきた。

「お、お邪魔…します…」

と俺の膝に頭をのせた。

俺は海音の頭を優しくなでた。

海音は気持ち良さそうに目を細める。

そして―

こう思う。


早く―海音に普通の生活が…できますように…と。

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