EP7 海
―翌日―
「ふぁぁぁぁ…よく寝たぁぁ…にぃ…?」
寝ぼけた顔で隣にいるはずの兄、
「にぃっ…!?」
今にも泣きそうな顔で兄を必死に探す実の妹。
すると―――
ガチャッ―と部屋のドアが開いた。
そこには、兄⚫煌姫の姿が。
「ふぅぅぅさっぱりしたぁぁぁ〜」
とのんきに入ってきた。
「あ、海音。起きたか。おはよう」
「おはよう。にぃ…。それから―」
「それから?」
「にぃのばかっ…」
「へ?」
いきなりバカと言われて頭が混乱している。
俺…なんか怒らせるようなこと…したかな…
「まぁいいや。」
海音を見ると、少し頬を膨らませてプンプン怒っている。
「か、海音…今日海行かない?」
「……………行く」
少し表情が緩んだ。
「じゃあ10時頃に行くか。」
「ん」
今は朝の7時。あと3時間ある。なにしよう。
相変わらず旅館の中は広い。
食堂に行くまで時間がかかる。
と―――
「おお!おったおった!」
渋い声。でもどこか懐かしい。この声は―
「じいちゃん!?」
冷那月
じいちゃんはニコニコ笑いながら―
「海音と煌姫はこっちだ」
と言って、食堂とは別の方に行った。
歩いて約3分。
じいちゃんの家だ。
「こんな近かったっけ?」
思い出せない。
昔の記憶はほとんど忘れている。
「お前らはこれからここで朝ごはんを食べるんだぞ〜」
「「まじ…?」」
珍しく海音と息が合った。
「まじまじ♪」
じいちゃん…若者みたいなテンションやめようぜ…?
「んで、海音と煌姫は今日用事あんのか?」
「あぁ、海に行くよ。」
「そうか。なら――――」
……………。
なんか思い出したぞ。
確か、じいちゃんのとこに行ったら―
「魚釣ってこい」
こき使わされるんだった――!!
なんだよ!なんでそんなニコニコしてるんだよ!
なんで釣り竿とかあんの!?
一式揃ってるし…
まぁいいか。いい暇つぶしになるし。
俺はため息をついて―
「わかったよ…」
と、竿を受け取った。
「じゃあ、ご飯食ってけよ。わしは仕事に戻る」
「はいは〜い」
「がんばってね…じいちゃん。」
じいちゃんはニコッと笑って―
「おうよ!」
と言って、仕事に戻った。
「ご飯食べるか。海音。」
「ん。」
二人は朝ごはんを食べる準備をした。
↺↺↺↺↺↺↺↺↺
「ごちそうさまでした〜」
「にぃ…の手作り…やっぱおいしい…」
「ありがとな〜海音。兄ちゃん嬉しいぞ〜」
「じゃあ…にぃ…準備して…行こ?」
「ん」
――――
「海音…その格好…」
ビーチサンダルに浮き輪、水中メガネ、水着に麦わら帽子。
完璧に遊ぶ気満々である。
「………へん?」
「いや、ものすごく可愛いよ。」
即答。
あぁ…俺…遂に…シスコンになったのかな…あは…。
「行こうか。」
「ん」
旅館のすぐそばに、海への近道がある。
林の中の道から見る景色は、幻想的である。
歩いて約5分。
「着いた。」
白い砂のビーチ、きれいな海。
とてもいいところなのに――
「なんで誰もいないんだ?」
そう。誰もいない。
とても広い海水浴場。
観光客の1人や2人いてもおかしくない。
よし。この近くのことをなんでも知ってるじいちゃんに聞いてみよう。
そう思い、携帯をサッと取り出し―
「あ、もしもし?」
『どした?煌姫』
「なんで海水浴場誰もいないんだよ」
『ああ、そこね…
「へ?」
貸し切り…?
「じゃ、じゃあ、海音と2人っきりってことになるのか!?」
『そうだな。ところで煌姫ぃ〜妹を襲ったらだめだぞ〜?』
「…………」
何言ってるんだこの爺さん。
『じゃ、そ〜ゆ〜ことで。切るぞ〜』
プツッ―プー―プー―プー―…
「なんて言ってたの…?にぃ」
「旅館の貸し切りビーチなんだってさ。」
「え。」
珍しく海音がポカーンとしてる。
「すごいね…じいちゃん…」
「うん。すごい。」
「行こ…?」
「おう!行こうぜ〜」
「「……………。」」
話すことがない。
聞こえるのは波の音だけ。
静かだな…。
「じゃあ、俺釣りしてくる。」
「楽しんでくる…」
「気をつけてな」
「ん。煌兄も。」
「おう。またあとで」
そう言って、俺と海音は別れた。
海音は早速海で泳ぎ、俺はいい釣りスポットを探した。
「ここでいいか…ん?」
周りをキョロキョロしていると、後ろの方に[船貸出]と書いてある看板を見つけた。
「連絡先…え…」
携帯で電話をかけようとした瞬間気づいた。
「これ…うちの旅館の電話番号やんけ…」
船の貸出もやってんのかよ。すげぇな。
まぁいいや。
「じいちゃんにかければ問題ないか。」
プルルルルル―――ッ
『どうした?煌姫』
「船貸して」
『いいよ』
「どこにある?」
『今出してくる。ちょっと待ってて』
プツッ――
今から出す…?
いろいろ考えてたら、後ろからものすごい物音が聞こえた。
「は?は?は?」
と混乱していると下から棒のようなものが…
「丸太ッ!?なんでいちいち家から出すんだよ…」
船なんぞ家の中で保管するよりも、外で保管しておいたほうがいいと思ったのだ。
船が海の中に入ったことを確認した。
じいちゃんが見えた。
「借りるよー!!」
と大きな声で言った。
じいちゃんは何も返さず、グッドマークをして仕事に戻った。
「さて、行くか。」
ゆっくり船を進めて、沖に向かった。
「ここあたりかな…」
船を出して数分。
結構いいと思う場所で釣りをした。
「なにが釣れるっかなぁ〜?」
ウキウキしていた。釣りしてるときはいつも楽しい。
鼻歌を歌ってると、魚がかかっていた。
俺はカッ―と目を見開き―
「オラオラオラオラオラオラァァァァァ!!!!」
と言いながらリールを巻いた。
かかっていたのは―――
「やったー!魚だぁぁぁー!!!」
魚だった。よかった。ゴミとかじゃなくて。
「なんだろ…この魚…ま、じいちゃんに聞けばわかるからいいや」
じいちゃん、意外とものしりだからね。
そんなこんな釣ってるうちに3時間経っていた。
「よし。もどるか。」
時間はわからないが、お腹が空いてきたのでもうじき昼だろう。
「かのーん!かのーん」
心配になって叫んだ。すると、砂浜の方から手を振る妹が。
よかった。
砂浜の方に船を置いて、海音のところに行った。クーラーボックスと共に。
「そろそろ昼ごはん食べようか。」
「…ん。てかにぃ…それ…なに?」
「あぁ…魚だよ」
「へぇ〜」
「あ、俺これ届けてくるから海音はここで待っててくれ。」
「ん」
俺はダッシュでじいちゃんのとこに行った。
「じいちゃん!?」
「あぁ、煌姫。早かったな。魚はどうだった?」
「めっちゃ釣れた!午後も釣ってくるから、中の魚出しといて!」
「あいよー」
なんか…友達との会話みたい…。
まぁいいや。
「ほいこれ。期待しとるぞ〜」
空っぽになったクーラーボックスを渡した。
「せんきゅー!じいちゃん!」
「がんばれよー!」
若々しいな。じいちゃん。
俺はダッシュで砂浜に向かった。
「お待たせ!海音」
「にぃ…遅い…」
海音が少し怒ってる。でも…可愛い…
「ごめんごめん」
「許す」
「どっか食べに行くか。」
「ん」
近くに海の家があるわけない。
ということで―――
話あった結果、駅近くのうどん屋さんで食べることになった。
家でもよかったが、食料がない。
少し遠いが、買い出しするよりかはマシだろう。
俺と海音は無言のままうどん屋に向かった。
―――――――――
「いらっしゃ〜い…って、もしかして煌姫君!?」
「覚えてくれてたんですね!俺嬉しいです!!」
ここのうどん屋の店主は俺の知り合いだ。
まぁ、ここに来たのは数年ぶりなんだが。
「婆さん、いつもの頼むよ」
「あいよ」
「海音はどうする?」
「にぃと同じもの」
「あいよー」
ここで働いている婆さんは、とても手際がいい。
5分以内に完成する。
「お待ち遠様〜」
わかめうどん―にしたはずだけど、頼んでもない天ぷらがあった。
「婆さん、これは?」
「久しぶりに来てくれたんだからねぇ。サービスだよ。サービス。」
優しいな。
「ありがとうございます。じゃあ、いただきます。」
「いただきます…。」
婆さんはニコニコ笑っていた。
「「ごちそうさまでしたー!」」
「これ…おいしい…この店…覚えとく…!」
「あらやだ嬉しいわ〜この子可愛いわね〜煌姫君の彼女?」
「「えっ!!??」」
嘘…婆さん、俺らカップルに見えたのか…?
海音の方を見ると―――
頬を赤く染めた海音が、下を向きながらモジモジしている。
「いや、婆さん。俺ら…兄妹…」
すると婆さんは驚いた顔をして―
「えっ!?兄妹!?」
と言った。
「なーんだ兄妹かぁ…煌姫君もそろそろ彼女を作る年頃だと思ったのになぁ」
……………。
「婆さん、会計。」
無理矢理話をそらした。
「あら。もう行っちゃうの?」
「こっちもこっちで忙しいからね。」
「また来てね。会計1100円になります」
「勿論、また来ます!はい。お金。」
「丁度お預かりしま〜す」
「ありがとうございました〜」
海音は軽く頭を下げた。
「おいしかったな〜海音。」
「………」
海音の頬はまだ赤い。
「海音?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
可愛い。
ていうか思った。
妹に可愛いって連呼してたら…俺もうシスコン確定じゃね?
いや、俺のプライドが許さん。
俺はシスコンじゃな―――
「にぃ…どうしたの…?さっきから様子が変だよ…?」
と顔を覗き込まれた。
その瞬間、目があった。
「〜〜〜〜ッ!」
俺は恥ずかしくなって、顔をそらした。
海音は下を向く。
「い、行くか…。」
海音は軽く頷いた。
そのまま無言で海に向かったのだった。
〜〜〜〜〜〜
夜―。
「今日は煌姫が釣った魚で料理作ったぞ〜」
とじいちゃんはニコニコしながら言った。
「じいちゃん、なんかいい魚あった?俺、魚のこととか全然わかんないんだけど。」
「おう!そりゃあもちろん!」
「なら良かった。」
「あー…おいしかった〜」
「ね。おいしかった」
「……。海音、俺あとでちょっと散歩してくる。」
「……?私も一緒に―」
「いや。海音はここにいろ」
「どうしたの…?にぃ…まさか…」
「いや、そいうことをするわけではないぞ?ちょっとリフレッシュだ。」
「そっか…気をつけてね…」
「ああ。ありがとな。」
そう言って、海音の髪を撫でてやった。
散歩するために外に出た。
向かう先は――海。
もしかしたら、と思い行くだけだ。
小さい頃の約束を思い出して。
砂浜には、一人の少女がいた。
少女は俺を見て―笑った。
そして、こっちに向かって歩いてきた。
「久しぶり。煌姫くん♪」
「やっぱりか。」
「やっぱりってなによー」
「小さい頃を思い出してな。」
「あ。約束…覚えててくれたんだ…」
少女は泣きそうになる。嬉し泣きだろう。
「はぁ…てか、まだここにいたんだ。他のみんなは別の場所に引っ越したのに。」
「私はここが好きなの。」
俺は苦笑いして―
「そうか。」
と答えた。
「今日はもう遅い。明日にしよ。」
「わかった…ねぇ煌姫くん。」
いい年こいてまだ君付けか。
「私の名前を呼んで…?私がデレデレしてるようで恥ずかしい…」
モジモジしながら少女は言った。
「はぁ…わがままだな…。」
「えへへー」
可愛いから許す。
「また明日会おうな。みーちゃん」
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