あの夏の日々に、想いを馳せて――。

 病院で夫を毎日見舞う、妻の物語。この夫婦は老夫婦であり、夫は意識がない。
 まるで月日にも、場所的にも、置き去りにされたような病室に、妻は見舞う。
 窓の外は雨。
 だが妻が帰ろうとした時、懐かしい花火の音が聞こえた。
 夏の日の思い出。幼い孫娘と、西瓜、線香の匂い。そして元気な夫。
 皆で見たのは、夜空に咲く大輪の花。
 しかし、病室では、やはり雨が降っていて、花火もビルで隠れてしまう。
 空耳だったのか? 願望が錯覚を起こしたのか?

 病室の静けさと、夏のきらきらした思い出の対比が見事な作品。

 是非、御一読下さい。

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