7. 彷徨 — Wandering
「役立たずは生き返っても役立たずのままだな。もうお前の顔は見たくない。出て行け。好きなところに行って野垂れ死ぬがいい」
ボイルドの狙撃に失敗し、ウィリアムに罵声を浴びせられて見限られたミラに、行く場所はなかった。
マルドゥック市内を彷徨い歩き、夜は公園のベンチや川沿いで過ごす。治安のいい場所を選んだつもりだが、それでも何度も見知らぬ男たちに襲われそうになり、その度に必死に逃げた。
足が痛み腕からの出血も止まらない。エンハンサーとして生き返ったミラは定期的にメンテナンスを受けなければ長くは生きられない。
痛む足を引きずり病院の門を叩いても、市民としてのIDを持たないミラを受け入れる病院はない。肩にカラスを載せ、黒いコートに身を包み、真っ白な顔でふらふらと歩くミラを、街の人々は遠くから見つめるが、決して声をかけようとはしない。
—このまま死ぬのか。
朦朧とした意識のまま歩き続けるが、恐れは無かった。
本来死ぬべきときよりも、少しだけ長く生きることができた。そのことを喜ぶべきなのだろう。拒絶されたことは残念だが、死ぬはずだった自分に生を与えてくれたあの男ーウィリアムにも感謝すべきなのだろう。
ミラは重い足取りながらも晴れ晴れとした気分を抱えて市街を歩き、いつしか歓楽街に差し掛かっていた。
街の空気が濁る。道の両脇に娼館とバーが並び、煙草とアルコールと香水の臭いが立ちこめる。あちこちで娼婦が男と交渉し、ヤクの売人らしき男が何気ない素振りでカモを探している。
一軒の娼館の前を差し掛かった時、一人の娼婦がミラの前に飛び出して来た。
まだ若い。十代前半だろう。子供と言ってもいい年頃。漆黒の髪と瞳。年齢にそぐわない服装と男を惹き付けるための香水や指輪。
「失礼、ミズ?」
少女をかわし、横を通り過ぎようとしたところでミラは倒れ、そのまま意識を失った。
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