怪獣の襲来が、人々の日常になっている世界の物語。
この世界、テーブルの湯呑みがガタガタと震えると、「地震? それとも怪獣?」なんて呟かなくてはならない時代なのだ。
スマホに、地震ならぬ、怪獣の速報がイヤでも送信されてくると、人々は災害同様に速やかに避難を開始する。
しかし、どこの世界にも、逃げ遅れる人は必ずいるわけで……。
そんな人たちの安否を確認し、尻を叩いて避難を促す、正義感に溢れた民間人も少なからずいたりする……のだが?
それは、本当に正義感からなのか?
人の心理が秀逸に描かれ、人の真意に触れた時、この世界への失望感が、見事なほどに積み上げられていく。
しかし、人とは、常に葛藤するものなのかもしれない……。そう思わせられたラストは、殊更に素敵だと感じることができるはずだ。
※作品は絶対評価したいので星は全部二つです。なら三つでもよかったじゃないかって? ほんとそれ。
※最後まで読んだ感想です。当たり前ですが。
幼少の頃より無類の怪獣好きだったこともあって、こうした作品には目がありません。怪獣が台風津波地震と同等の災害として扱われる世界? そんなの面白いに決まってます。
怪獣は、伝統芸能。
設定としてはSFの中では割とあるものです。なので、どういった世界観を考察し、お見せしてくれるのかという部分にワクワクがあります。
できる限りネタをばらさないように書くと、某『怪獣黙示録』みたいなやべー雰囲気は、今のところありません。
どこか、非日常を日常としている。イカれた雰囲気が当たり前のように進行する伊坂幸太郎さんの短編のような―――そういえば、伊坂さんの短編にも怪獣モノがありました。
―――閑話休題、怪獣警報が出ているにもかかわらず、街はどことなくすっとぼけた空気で、モタモタと避難する人々や、怪獣に家族を踏み潰される人、生きてる人、死んでる人、救われたり救われなかったりする人がいる、まぁつまり、“普通”の世界です。
応援コメントに「ある種の共存共栄、コバンザメみたいな人類」みたいなことを書かせてもらいました。
どこまでも自然の中の人類。怪獣が出てもそれなりにやっていくのかなと、重低音のような無常観が貫く中に、パッと“燃える”瞬間があり、決して人間を突き放さない優しさを感じました。
【設定】☆
怪獣の出現を生業の一部に組み込んでいる人物を主人公にすることで、「怪獣が台風や地震などと同列の世界」を読者の頭にすんなり馴染ませることに成功していると思う。主人公の皮肉な境遇も物語の要素として◎。
【展開】
量的に少し物足りない。最後に主人公は行動を起こすけど、それを加味しても本作では「主人公がどういう奴か」しか描かれてない感がある。彼がこの先どうなるのかをもう少し読みたかった。
【表現】☆
細かいところまで配慮された丁寧な文章。「爺ちゃん」を地の文で「男性」と言う書き方がミスじゃないことが分かった時は、作者の周到さにハッとした。ドライな文体も主人公のキャラにマッチしてて、読むほど入り込んでいける。最後の一文が印象的。
リアリティを追求した怪獣もの、と聞いてどのような描写が浮かぶでしょうか。
怪獣の設定の生物学的正しさ?
軍隊の出動プロセスに対する考証?
怪獣をとりまく世論の形成?
劇中のタイムテーブルの厳密な管理?
従来の怪獣映画や特撮ドラマで見られた手法は概ねこんなところでしょう。
しかし、本作がリアリティを提示するやり方は上記のいずれにも当てはまりません。
怪獣が出現した「現場」に出入りしているのは軍人や救急隊員、メディア関係者といった「光の当たる側の人間」だけではない。災害現場のリアルを主人公の立場ひとつで描き出すアプローチはこのジャンルのマニアなら必読です。正直この発想はなかった。
そして、本作は同時にヒューマンドラマでもあります。
決して誇れる立場ではない主人公が災害現場でどのような行為を選択するのか、重厚な筆致に唸らされます。
怪獣オタクを自認するわたくしめですが、まさかこんな切り口があったとは!
『怪獣好きには書けない怪獣作品』だと、そしてそれ故に凄まじい緊張感を有するパワフルな作品だと、自信を持ってお勧めできる一作です。
詳細には触れませんが、主人公の立ち位置からしてぶっ飛んでいます。怪獣モノといったら、主人公は政治家、ジャーナリスト、研究者、自衛隊員など、『特殊な』人種が多いのですが、まさかこう来るとは……。
その日常的(かもしれない)立場と、怪獣という非日常がぶつかり合い、見事に融合しています。
本当に怖いです。怪獣。
これ以上の褒め言葉は、僕のボキャブラリーからは引っ張り出すことができません。
特異かつハイクオリティな短編をお望みの方は、是非ご一読を。