現実と善性の狭間。圧倒的リアリティで「怪獣」を描く災害パニック小説

リアリティを追求した怪獣もの、と聞いてどのような描写が浮かぶでしょうか。

怪獣の設定の生物学的正しさ?
軍隊の出動プロセスに対する考証?
怪獣をとりまく世論の形成?
劇中のタイムテーブルの厳密な管理?

従来の怪獣映画や特撮ドラマで見られた手法は概ねこんなところでしょう。
しかし、本作がリアリティを提示するやり方は上記のいずれにも当てはまりません。

怪獣が出現した「現場」に出入りしているのは軍人や救急隊員、メディア関係者といった「光の当たる側の人間」だけではない。災害現場のリアルを主人公の立場ひとつで描き出すアプローチはこのジャンルのマニアなら必読です。正直この発想はなかった。

そして、本作は同時にヒューマンドラマでもあります。
決して誇れる立場ではない主人公が災害現場でどのような行為を選択するのか、重厚な筆致に唸らされます。

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