溢れるほどの純愛がここにあります

どんないきさつで出会おうが、どんな経緯をたどろうが、人と人が結びつき、かけがえのない関係を築く姿には、読者の心をとらえる力があると思います。本作はそういう作品です。
はじめはコメディタッチで進むのかと思いきや、少しずつ愛の分量が増えるにつれてやるせない想いの方が重量を増してきます。ひとを本気で思うとはこういうことだったかも知れない、と、いつの間にかどこかへ置き去りにしてしまった心を刺激されるようです。そして同時に、ここまで強く互いを大事に思える関係を羨ましくも感じます。
ぎゅっと胸をつかまれるような状況でもユーモアを絶やさない、その緩急の巧さも引き込まれる理由のひとつでしょう。
愛情を確かめ合うシーンはとても美しいです。そこにあるのは幸せの高揚感です。眉をひそめる類のものではありません。少なくとも一個人の読者としてそう思いました。
相手の幸せを思うことと自分の幸せとを秤にかける辛さ、難しさを、この作品の登場人物はとても分かりやすく、ぴったりとはまる表現で語ってくれています。でもその苦しみも純粋であればこそ。読者はおそらくこのお話のわき役たちのように、思わず彼らの背中を押したくなるのではないでしょうか。
非常にあたたかく、溢れるような豊かな気持ちになる読後感です。

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