ハメて一生?!

 あの激戦から一週間が経とうしていた。


 実はあれ以来、毎日送られてきていた詰将棋やら次の一手は途絶え、連絡もない状態が続いていた。


 あの師匠がだ。


 まさか破門?!と焦っていた僕であったが、週末が近づくと師匠から短い一文が送られてきた。



胡桃〉モンゲン過ぎたから、ケータイ取り上げられた。

胡桃〉明日もいっちゃダメて



 あちゃーそういうことかと僕は得心した。



 自分も幼い頃はよくゲーム機とか親に取り上げられたものだ。


 師匠の場合はそれが将棋なのだろう。



 僕は分かりました!と返しておくと、ぴろんとすぐに通知を告げる音が鳴った。


胡桃>画像の添付。


盤面を見るに詰将棋が送られてきた。


 自宅で並べているのだろう、持ち駒あたりに師匠のぷにぷにとしてそうな柔らかい指が写っていて微笑ましい。


 ぴろん、ぴろん


 続けて二枚。



 ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、


 うん?



 ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、ぴろん、



 おいおいっ、師匠マジですか。


 詰将棋の画像が湯水の如く追加されていくごとに徐々に自身の微笑みも引き攣っていくのを感じだ。


 それだけで一冊作れるんじゃないかというほどの量が添付されようやく通知音の濁流が収まる。


 最後におまけとばかりに、ぴろんとスマホが鳴る。


胡桃〉一週間分。たまってたぶん。


「絶対、一週間分じゃない!」


 誰もいない部屋に僕の叫びがこだまするのだった。






 あくる日の土曜日に送られてきた師匠厳選詰将棋108問をまるで煩悩を取り除くように一つずつ四苦八苦しながら説く日々に、明け暮れて嫌気―――もとい疲れた僕は気分転換に出かけることにした。


 これは今週に終わる気がしない。


 ちなみに人と人生において4×9(しく)+8×9(はっく)するから煩悩の数は108あるやよ。と昔おばあちゃんが教えてくれたなーなんて思い出すほどに僕は疲れていた。


 目的地も決めずにぼっーと電車に乗り、ぶらつく―――はずだった。


 休日の昼過ぎだというのにわりかし空いている電車の席に腰掛けると僕は手持ち無沙汰からスマホを取り出し、しばらく手で玩びながら、気づいたら画像フォルダを開き、そして詰将棋を解き始めていた!


 思考はすぐに巨大な渦潮に巻き込まれた船のように盤面へと吸い込まれいき、


 ~~駅!!~~駅!!という馴染みのアナウンスが聞こえ、慌てて閉まりそうな扉から飛び降りる。


 改札を抜け、駅前のその光景を見たとき、僕は自分が無意識にしてしまった行動に笑いが漏れてしまった。


 それは師匠と毎週ように会い研鑽している将棋教室の最寄り駅だった。


 まったく師匠の宿題に疲れたから、リフレッシュに来たというのに電車の中では詰将棋を解き、あまつさえ条件反射のようにこの駅で降りてしまった。


 少し前までならそんなことは考えられない。


 すっかり将棋脳なってしまったな~と思いながら、僕は観念して教室への道を歩き始めた。


 きっと詰将棋ばかりしていたので体が実戦を欲していたに違いない。


 不思議なもので目的も決まると、足取りの自然と早くなるものだ。


 足早に駅前のアーケード商店街を抜けて、大通りではなくショートカットに路地裏を通りかかると、元気な子供たちの声が聞こえてきた。


 元気なことはいいことだ。男の子二人に女の子二人、カップルか?

 

 まったく最近の子ませてるなーと妬み半分、興味半分で流し目で見ていると、なにやら雰囲気が違うことに僕は気づいた。


 遊んでいるというよりも、一人の女の子を三人が取り囲んでいるような、そんな雰囲気だ。


 もしかしたら、勘違いかもしれない。


 そういう遊びなのかもしれない。


 注意に言ったら、マッチョなお父様が出てくるかもしれないし、事案発生とポリスメンが集まってくるかもしれない。


 本当に龍捨てから詰むのか?!みたいな決断の一手が指せない。

 なのに秒読みが開始されたかのような緊迫感を感じて心臓が高鳴っていくのを感じる。


 ほかの人ならどうするのだろう、指感を信じて龍を捨てるのだろうか。


 僕と言う人間は、そういう時勇気が持てず、毒にも薬にもならない。手待ちのような一手を指してしまう。


 この場合でいうなら、立ち去るだ。


 きっと誰かがやってくれる。そう思ってしまう。


 いやそう思って自分と言う人間を守ってしまうのだ。タダ駒を張り付けるだけの受けにもなってない受け。


 そんな一手頓死のような、師匠ならあの琥珀色の瞳をキッと吊り上げて怒るようなダメ手を僕は―――今回は指さなかった。


 怖いのか壁に背をついて俯いている少女とそれを取り囲む三人、短髪のいかにもなわんぱく小僧が少女へと乱暴に手を伸ばし、持っていた巾着が地に落ちて聞きなれた駒と駒がぶつかる音が聞こえた時、僕は自然と足を向けていた。


「あっ~君たち」と恐る恐る声をかけると、

「ひぃっ!」

「お、おとな」

「な、なんだよ、おっさん!」


 三者三様の反応を示す子供たち、見たところは師匠と同じぐらいの年齢に見える。


「皆仲良くしないといけないよ?」


 声はかけたもののなんといっていいか分からず、思わず疑問形になってしまった。


「ご、ごめんなさい。そんなつもりはなくて」

「僕は悪くない」

「うるせー、おっさんには関係ないだろう!大人は口出すな。おまえらもいちいちあやまるんじゃねーよ」


女の子はオロオロと謝り、もう一人の男の子は首をぶるぶると振る。そしてわんぱくそうな少年は、その見た目同様に反抗的だった。


「関係はあるよ」

「あん?こいつにどんな関係があるんだよ!まさかおっさん、ロリコンなのか!」

「ロリコンってなんですの?」

「おまえみたいなちんちくりんが好きでたまらない。ビョーキだよ、かぁちゃんがそういうヘンタイがいるって言ってた!」

「ち、ちんちくりんって何よ―――ひぃっ!」


 僕と目があった女の子は、顔を青ざめさせて体を隠すように腕を交差させている。


 僕はロリコンじゃない!と思わず怒鳴りたくなる気持ちを押させ、出来るだけにこやかに笑う。


 男の子が後ずさりして、女の子はさらに顔を青ざめたが気にしない。


「僕もね。将棋を指すんだ」

「しょ、ショーギ?」

「そう、将棋。だからこんな風に将棋の道具を粗末にされるのは嫌なんだ。だから君対地に注意しにきたんだよ」


 そう言って僕はその場で屈み、将棋の駒を一枚一枚丁寧に拾っていく、多くの言葉よりも行動だ。そう思って。


 だが、現実はそう甘くはなく。


「よしお君、もう行こうよー」という男の子の声を皮切りに、逃げるように走り去ってしまった。


 やれやれ、説教と言うのは本当に難しいな。

 僕に部下とかがいればまだ違ったのかもしれない。


 僕は駒を拾って巾着に収め、立ち尽くす女の子へと渡す。


 触れれば折れてしまいそうなか細い指で女の子は巾着を受け取る。



 その女の子の姿を認識して、――――僕は思わず息飲んだ。


 僕の少ない語彙でその女の子を言い表すのなら、それは青いバラだった。


 路地裏のビルとビルの間から射すわずかな陽光を浴びて、透ける青みががった色素の薄い白髪。


 瞳は髪よりも深い、見上げった先に広がる雲一つない晴天の空よりもさらに青い紺碧の瞳。


 ビクスドールのような整った顔立ちの美しい女の子が、浴衣?だろうか袖口にそっと巾着をしまい込んでいるのを見ながら、まるでビクスドールに浴衣を着せているみたいだと、その女の子に対して人形然とした印象を僕は抱いた。


「……ありがとう」

「えっ!?」

「……何か?」

「いや。どうもご丁寧に」


 眺めていた人形が急にしゃべりたしたような印象を受けて思わず驚きの声をあげてしまった。女の子も不思議そうに目をしばかせている。


「ええっとじゃあ僕はこれで」


 と用も済み、JSと見知らぬおっさんが話しているのは色々と後ろ指指される時代だ。


 僕はその場を立ち去ろうと振り返ると、―――ひんやりと柔らかい感触が手に絡みついてきた。

 

 うん?と思う、ぷにぷにとしたマシュマロみたいな感触。これはどこかで……。


 ……そう、これは師匠の手と同じ感触だ!


 つまりJSの手だ!そう脳が認識した時女の子がしだれかかってくるように腕に絡みついてきたぁあ!!!!!


 人形みたいに可愛いJSがだ!


 WHY?!


 嬉しさよりも今にでもポリスメンが笑顔で出てくるんじゃないかという危機感に僕は焦った。


「あなたも将棋を指すの?」

「うん、まぁねー。最近始めたばかりなんだけどね、それより手を放してくれる?」

「そう……なら一緒に行きましょう」


 やんわりと告げてみたのだが、女の子は手を放すつもりはないらしい。

 それどころか、か細い腕は見た目によらずグイグイと引っ張ってくる。


「えっ~とどちらに」

「教室、あなたも行くんでしょ?」

「いや、まぁ行くけどさ。手を放していただけますと~」


 女の子は顔を俯かせながら、ぽつりとつぶやくように一言。


「でもあの子たちがまだ近くにいるかもしれないし」


 ……………あの子たち。先ほどのいじめっ子たちだろうか。


 女の子の薄い唇をかみ、身を震わす。


「あっ、いや泣かないで」


 紺碧の瞳は今にも雨が降り出しそうにうるうると湿りだした。


 ここで泣かれたら、捕まる!?


「分かった!分かったから!! 一緒に教室に行こう。ね!」


 危機感にまくしたてると、


「ふっふふ、じゃあ行きましょう」


 浴衣の袖口でもって口元を隠す子供に似つかわしくない上品な笑顔をうかべて歩き出した。


 幸い路地裏に人の往来はなくすぐに教室の入っているビルまでたどり着くことが出来た。


 EVで上がり受付にたどり着くと、受付のお姉さん、名前を久瀬 未来さんという女子大生!らしいのを最近知った。


「ああ、上総さん。こんにちは。……………と言っても今日は胡桃ちゃん来ていないんですよね~」


 久瀬さんが申し訳なさそうに頬に手を当てる。


 ナチュラルに師匠が目的だと思われている?!


 そんなことないですよ、久瀬さん。僕はシンプルに将棋を楽しみに来ただけです!


 それをどう分かってもらおうか心で言い訳もとい説明を整理していると、

ぎゅっと手が握られる。


「……胡桃ちゃん、ねぇ」

「あれ、この声。……………あっ、やっぱり雪未ゆきみちゃんだ!久しぶりだね!」

「どうも」


 ペコリと頭を下げる女の子、名前は雪未ちゃんというらしい。態度からして久瀬さんとは知り合いのようだ。


 それにしても見た目とは裏腹に名前は和風だ。ハーフだったりするのだろうか。


「久しぶりだね、今日はどうしたの?」

「指導対局に来たの」

「指導対局ぅ~???」


 クイクイといった感じに腕を可愛らしく引っ張られる。それを久瀬さんが目をぱちくりと目をしばかせ、僕を見て雪未ちゃんを見て、再度僕を見て、顎に手を当て一考。


 そしてまるで閃いたとばかりに手を叩いて、何事か得心したのか受付の準備を始めた。


 いや、ちょと待って!

 絶対、何か勘違いしていますよね!


「はい、受付完了です。今日は比較的に空いておりますからお二人のお好きな席をどうぞ」

「いや、あの久瀬さん、これは」

「はい、これカードです。まぁお二人で指すからいらないかもですけどね」


 押し付けるように手合いカードを渡され、さぁさぁーと背中を押される。


「分かってますって。胡桃ちゃんにはナイショにしておきます、からっ!」


 くっ、僕が好きなのは決してJSではなくむしろ久瀬さんのような女子大学生のほうが……言い訳を言う暇もなく教室へと押し込まれてしまった。


 振り向くと、まるで近所の世話焼きおばさんのように頬に手を当ててごっゆくり~と手を振っていた。


 うっー後で誤解を解けないと……………解けるのかな。


 僕は諦めて適当な席に腰を下ろす。


 席には将棋盤がすでにあり、駒が入った小箱が上に乗っていた。


 それを開けて駒をぺちりぺちりと並べる。

 パチリ、雪未ちゃんが王将を持って盤に打ち付けると綺麗な駒音がした。


 それを聞いてきっと師匠と同じぐらい強いんだろなーと僕は思った。


 こんなまだ年齢が一桁!(脅威だ)というのに、段位クラスの実力があるなんてな。


 さてどうしようか、師匠には封印されてしまっているが、ここは久しぶりに飛車を振ってみるか?なんてことを考えながら、やはりリアルの木の駒はいいなーと軽快に僕は駒を並べる。


 すぐに並べ終わり、「どうぞ」と雪未ちゃんが手でジェスチャーしてくれたので、先手番として僕はオードソックスに角道を開けることにした。


 さて雪未ちゃんも同様に角道を開けるよう―――えっ、僕は驚いてその指し手を二度見してしまった。ついでに雪未ちゃんの可愛い顔を見る。


 盤面を見つめる紺碧の瞳は変わらず雄大な空のようだった。


 僕から見たら明らかな失着だ。なにせ角道に歩を差し出してきたのだ。所謂タダ駒と呼ばれる。文字通りリスクなく取れる駒だ。


 恐る恐る駒を取る。


「へぇ~取るんだ。意外……かも」


 声にもならない声。気のせいかもと思えるほどの小さい声であったが、なぜかその時の僕にははっきりと聞こえた。〝取るんだ〟と。


 雪未ちゃんの触ると折れてしまいそうなほどに細い指が飛車を摘み角前へとパチリとスライドしてきた!


 なんだ、この戦法?!角を逃がせばその道ががら空きになり歩が取れるだけでなく飛車が成る。将棋最強の駒である龍王になられてしまうというおまけつきだ。


 どうすれば?! ぐるぐると回る思考の中、僕は前に出ることを選択した。


 歩を取って角を成りこむ。


 角を引いて龍王を作られるなら、こちらは角を成って馬を作る。


 馬も龍王と同格の将棋最強格だ。


 さぁ!龍王と馬どちらか強いか試そうじゃないか!


 血気に盛る僕を前に雪未ちゃんは動揺も見られずまるでそれが当たり前のように一定のリズムで駒を動かす。


 どうぞ龍を作ってくださいと開けた道を走らず、雪未ちゃんはここでオードソックスに角道を開けた。


 意表をついたかと思えば、今度は正着のような一手を指す。


 僕はそんな師匠とは全く違う棋風の雪未ちゃんを相手に翻弄されながらもない頭を振り絞って挑んでいくのだった。





 結果は聞くまでもないだろう。

 僕の0-8だ。一勝もできなかった。


 ……………まぁそれはいつものことか。

 そういえば僕は人生で一回も将棋でJSに勝ったことがない?!なんてことを思いながら、感想戦していく。


 雪未ちゃんが決まって言うのは、これ教わってないの?だ


「最初にやったのはパックマン、次が鬼殺し、早石田、燕返し、ドロンボー、つばめ返し、都成流、角頭歩戦法、」

「えっ~とそれは」

「全部戦法の名前よ…ハメ手とも呼ばれるけどね」

 雪未ちゃんはここでぽっと頬を赤めらせる。

 はたしてそれは雪未ちゃんの渾身の下ネタなのかしれないけど、僕にそれを気にする余裕はなかった。


 これが嵌め手という奴か、一見筋悪のようでいて受け方を間違えると一瞬で勝負を持っていかれる一撃必殺のような威力。


 その戦法たちの前に、師匠に習ってきた将棋感が崩れていくのを否応なしに感じる。


「胡桃ちゃんは素直で真っ直ぐすぎるのよ、教科書みたいに」

 

 まるで心を見透かされたかのような発言に僕は思わずドキリとしてしまった。

盤面から雪未ちゃんへと視線を向ける。


 青みがかった色素の薄い白髪の隙間から覗く、紺碧の瞳と目が合う。

吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳だ。


「ねぇ、私が将棋を教えてあげる」

「いや、それは……」

「私は勝つためにやる。ありとあらゆる戦法を、飛車を振ったら勝てないなんて言わない。正攻法でお勉強するのもいいけど」


 その言葉は不思議と心に、空のように広がり


「裏技で強くなるのも一緒じゃない?」


 深海のように深く染み込んでいった。


 確かに僕は強く……初段になるためにやってきた。

 だから、初段になれるなら1から勉強する必要はないのかもしれない。必要なことだけを最低限暗記して、まるでテストを受けるように効率的に勉強していくべきなのかもしれない。


 ……でもだ、僕は師匠との勉強の日々を、3級に上がったときのことを思い出す。

 確かに今日は惨敗だったが、師匠との勉強が間違ってるとも思えない。


「ふっふふ、なんてね」


 僕が断りを口にしようとしたとき、雪未ちゃんが微笑む。


「あなたには胡桃ちゃんがいるものね」

「そう、……………ですね。はい」


 一瞬の間、雪未ちゃんが悲しそうに目を伏せて、浴衣の袖口で口元を押させる。

いまにろ、時代劇のように芝居がかってオロオロと泣き出しそうな雰囲気だ。


 それに僕もああどうしようとオロオロとすると、まつ毛が上がり、


「ただ、……………ね」

「うん、うん、どうしたのかな?!」

「助けてもらったお礼もあるし、一つとっておきの奇襲戦法を教えたいの」

「とっておきの奇襲戦法?」

「そう胡桃ちゃんもびっくりする奴」


 師匠すらもびっくりする奴?!一体それはどんな……………。


 僕が興味から思わず身を乗り出すと、雪未ちゃんは「それは、これをこうやって、こうして……………」と説明をしてくれた。


 ……………そ、そこ?!


 ………そうする?!


 で、何の意味が?!



 確かにこれなら師匠はびっくりはするだろうが……………これは戦法として成り立っているのだろうか?


 説明を聞いてなおも当惑する僕の前で雪未ちゃんがおかしそうにクスクス笑う。


 いたずら好きのあどけない幼女のように、けれども妖艶な遊女のようにも感じる、なんとも不可思議で蠱惑的な笑いを取り出した扇子で優雅に隠す。


 そして広げれた扇子には、四文字の揮毫が書かれていた。


〝嵌手一生〟


「これで女子小学生をハメられるね」


 扇子から半分出た顔は雪の妖精のような愛らしさでもって、隠れた口元からは、危険な言葉が飛び出す。


 僕はそれを渇いた笑いでもって返すことしか出来なかった。

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