第15話 友達とは


「なるほど、そんなことが」

職員室に春賀の声が響く。

自席に座る春賀の前には後藤、今井、プールでの女教師が立っていた。

「はい」

プールで起きたことを女教師が春賀に詳しく報告したのだ。



「ちっ、なんで春賀になんか、適当に謝っとけば済むだろう」

「!」

「て、ところかな?考えてること」

「ーっ!」

春賀に考えを見透かされ、後藤と今井は言葉を失う。


「君たちの行った事はれっきとした規律違反。いや、人の命を脅かそうとした時点で立派な大罪だ。とりあえずしっかり反省して。それから階級降格は免れないからね」

「「、、、、、、、、。」」

厳しい春賀からの言葉に2人は沈黙する。

「、、、、、、、。」

春賀はその様子を無言で見つめている。

すると

「先生、なんなんですか?あの新入生」

今井から唐突に疑問の声が上がる。

「ん?」

「あんな得体の知れない女、同じクラスにいて欲しくありません」

そして投げられたものは不満だった。


「氷魔法能力者であること、急に来たのに階級が最高峰のSSS。それだけでも驚きなのに彼女にはわからないことが多すぎます」

「それは、、、私も少し」

女教師もすごすごと手を挙げた。

「あらら。佐野先生まで。」

「なんなんですか!?知ってるなら教えてください!」

「んー僕もよくは知らないんだよねー」

「先生っ!」

知らない、は間違いではないが、知っていることもあるだろうに話そうとしない春賀のその言葉に3人から不満の声が上がる。

その様子を見て春賀は微笑みつつも真剣な眼差しで告げた。

「でも、誰にも語りたくない過去の1つや2つはあるでしょ?それを無理やり知ろうとするような事はしたくないなぁ。プライバシーも何も無いからね」

「、、、、、、、。」

返す言葉もない、その正論に3人はそのまま黙り込んでしまった。


キーンコーンカーンコーン

予鈴のチャイムがなり、春賀が声をかける。

「あ、次の授業が始まるよ。教室に戻りなさい」

「「はい」」

後藤と今井は返事をすると

タッタッタッ

扉へとかけていき

ガラッ

「失礼しました」

ピシャン

扉を閉会するとそのまま出ていった。


「佐野先生も次の授業準備して」

「あっ、はい。それでは」

タタタタタタ

春賀にそう言われ、佐野先生も自分の席へと戻り準備を始めた。


「ふぅーーー」

春賀は席にもたれかかると宙に大きく息を吐く。

「春賀先生」

「あ、榊先生!」

そこへ形相を変えた榊がやってきた。

「甘いんじゃないですか?」

「何のことです?」

「先程の生徒達のことです!」

「あー」

「あーって。」

拍子抜けするような春賀の発言に榊はため息を吐く。

「あの子達はあれぐらいでいいです。普段からそういうことをする子達じゃありませんし。よほど最近の学園に不満があるのでしょう」

「!」

天然と思わせつつもそれは策を弄してのことなのか、春賀のその鋭い発言に榊は息を呑む。

そして

「ま、梅宮さんの味わった苦しみはしっかり味わってもらうつもりですけど」

「っ!」

そう言い、一瞬見えた春賀の表情に榊は身震いするのだった。





「はぁーーだるかったなー久々の職員室」

「ほんとに!でも流石春賀!ちょろいったらありゃしない!」

後藤と今井はそう春賀を小馬鹿にした会話をしながら教室へと戻る広い中庭を歩いていた。

すると

ザアアアアアアア

「ん?」

「えっ?」

目の前から水の塊が波で押し寄せてきた。

「「波!!???」」


ザパーーーーーン!!!

そしてその波は2人を一瞬で包み込んだ。


「がばごぼがば」

「くっ、くるしっ!」

「何この水!!どこからっ」

水の中に閉じ込められ藻掻くも水は2人を包み込み離さない。


がはっ

ごばっ

「もっ、だめっ」

息を全て水の中に吐き出して、意識が失われそうになった瞬間、


パッ

水は2人を離してそのまま消えた。

ずぶ濡れで衰弱した2人はそのまま地面に腰をつける。

コンクリートの冷たさが今や心地いい。

へたっ

「はぁはぁ」

「死ぬかと思った」

2人は両手をつき、そう呟いた時、


「そ。それが桃花ちゃんが体験した苦しさ」

「ーっ!春賀!」

後方から聞こえた春賀の声に2人は慌てて振り返る。


「榊先生、それか問題児専門の彼にお叱りいただいても良かったんだけど流石に可哀想だと思ってね。体験魔法の使い手から魔法石借りてきちゃった☆」

「はぁはぁ」

楽しげに微笑みながらそう告げる春賀を荒れた息のまま睨みつける後藤と今井。


しかし、

「しっかり反省しなさい。次はもう、ないよ?」

そう告げる春賀の表情に全身が凍りつくの感じた。

ゾクッ

普段の穏やかな春賀からは感じ取れないその別人のような表情に震える足を奮い立たせながら

「ーっ!行くぞ」

「うん」

ダッ

2人はそのまま去っていった。


「ありゃりゃ。やりすぎちゃったかな?」

その光景を見ながらいつもの表情に戻った春賀は頭に手を回して反省を口にする。

「春賀先生」

「はーい?」

そんな春賀の後から声をかけてきたのは

「俺を引き合いに勝手に出さないでいただきたい」

不機嫌に眉を寄せた榊の姿だった。

「あーーごめんなさい」

「全く。それより先程のことですが」

「ええ。学園への不満それはおそらく彼女から来ているのでしょう」

春賀の発言にさらに眉を寄せると榊は吐き捨てるように呟いた。


「橘玲奈。やはり忌々しい」



ーーーーーーーーー

ーーーー


キーンコーンカーンコーン

「はー!やっと終わったー!」

「飯だ飯ー!」

「食堂行こうぜ!」

「おう!」

午前授業終了のチャイムを聞き、生徒達が喜びの声をあげる。

大きい中等部の校舎にも寮同様に食堂が完備されているのだ。

そのため昼食は食堂で食べる者、学園から階級別で支給されるお小遣いを使い寮でお弁当を作ってもらう者、売店で購入する者、様々である。



「玲奈ちゃん!」

「!」

教科書を机の引き出しに直す玲奈の後方から声がかかる。

(仁くん、、、、と)

そこに居たのは仁と仁とよくいる男の子2人ー。

何度か顔を合わしているが名前がわからない、という玲奈の表情を読み取ったのか2人は自己紹介を始めた。

「ああ、俺、律!薙田律」

「俺は守谷徹だ!そういや名前名乗ってなかったな笑」

(律くんと、、徹くん、、、)

「昨日の救出劇本当かっこよかったぜ!」

「ああ!泳ぎもだったけど惚れ惚れしたな!」

「早退してたけど昨日はあのあと大丈夫だったか?」

「う、うん」

玲奈は心配してくれていたことに驚きつつも返事を返す。

「おー!良かった!」

「でも後藤のやつどうしたんだろうな?」

「ああ。いつもはあんなことするやつじゃないのにな〜」

「妬みかー?」

「不満かー?」

「全くだらしねえよなー」


3人の呟きに玲奈は沈黙するしかない。

「、、、、、、、。」

それは、わかっているから。

彼らの矛先が誰に向いているかということを。



玲奈は席から立ち上がると同じように教科書を引き出しに入れているその後ろ姿に声をかけた。

「奈々子ちゃん!」

「!!」

ビクッ

「あ、玲奈ちゃん」

奈々子は身体を震わせると、そのまま玲奈に見返る。

その表情はいつもと少し違って戸惑いのような感情が渦巻いている。

「?」

「どうしたの?」

不思議に思いつつも奈々子の問いかけに玲奈は本題へと入る。

「今日、桃花ちゃん、お休み?」

「う、うん。まだ調子悪いみたい」

「、、、そう」

その返答に玲奈は寂しく感じるとそのまま顔を俯かせた。

「じゃ、じゃあね」

バッ

奈々子はそう言うとそのまま足早に教室を去っていった。

「?」

玲奈はその姿を不思議そうに見つめていた。



ーーーーーーーー


(なんなんだろう、、、、、)

タッタッ

廊下を歩きながら先程の共同不振な態度の奈々子に玲奈は疑問を浮かばせていた。


(あ、忘れ物、、、、)

考え事をしていたせいか教室に忘れ物をしたことに気づく。

「、、、、、、、。」

今まで無かったその不始末に沈黙しつつ


くるっ

玲奈は方向転換すると来た道を戻った。


タッタッタッ

玲奈が教室へ向かう足跡、

タタタタタタタタタタ

そして角の向こうからは廊下を走る別の足音が聞こえる。


そして玲奈が角に差し掛かった瞬間、

ドンッ!

「っ!?」

「きゃあっ」

ふたつの足音はぶつかり、その衝撃に小さな叫び声が上がる。


(この声、、、、、)

尻餅をつきながら玲奈はその聞き知った声に顔を上げる。



「ご、ごめんなさ、、、っ!!」

片方の生徒も謝罪を述べながら顔を上げる。

「!!」


目の前に現れたのは、そう

先程まで話していた彼女ー。

(桃花ちゃん、、、、、)


「桃花ちゃん、大丈夫?今日って学校休んで、、、」

会いたかった女の子ー。

玲奈は慌ててそこにいる彼女の光景に驚きつつも声をかける。


しかし

「大丈夫!」

「!」

「まだ調子悪いから今日は休んだんだけど、ちょっと忘れ物しちゃって、、、、」

その彼女は逆に会いたくなかったのか

目線を逸らし、早口でそう告げると

サッサッサ

落ちた教科書や筆記用具をかき集め、胸に抱えた。

「!」

「桃、、、、」

「じゃ、じゃね!」

タッ

声をかけようとするもそのまま桃花は目を合わせることなく逃げるように足早くその場を去っていったー。


「、、、、、、、、。」

去っていくその後ろ姿を玲奈はじっと見つめていた。



ーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーー


中庭の大きな木の下ー。

その木の影で膝を抱えて座っている黒髪の少女。

心地よい風が吹き、芝生を揺らす。

これほど気持ち良い日はない過ごしやすい気候だ。

しかし、彼女の表情はとても重く暗いものだった。

「、、、、、、、。」

「どうしたの?こんなとこしゃがみこんで」

「!」

頭上から聞こえる声に玲奈はゆっくりと顔をあげた。

(ハル先生、、、、、)

そこには優しく微笑む春賀の姿ー。


「日が苦手だから」

ふいっ

玲奈は目線を逸らすと、そう小さく呟いた。

「そ」

ストン

春賀は短く返答すると玲奈の横に腰掛けた。


「あー気持ちいいねぇ。そういえば能力別クラス特別魔法系に入ったんだったね。どう?楽しかった?」

「、、、、、はい」

「それは良かった!」

玲奈の小さくも肯定的な発言に春賀は喜びの声を上げる。

「、、、、、、、、。」

しかし、玲奈はそれに反応することもなくただただ暗い表情を浮かべている。



「あ、それから」

「?」

思い出したように春賀がまた声を上げる。

「聞いたよ、こないだのプールでの出来事」

「!」

「桃花ちゃん、助けたんだってね」

「別に、、、、、」

そんなことか、というように玲奈はまた視線を逸らした。

(横で死なれたら気分が悪かったし)


「そっか」

春賀はそんな様子の玲奈を優しく見守るとそのまま空を仰いだ。

「、、、、、、、、。」

「、、、、、、、、。」

暗い表情など似合わない程、今日の空は青く澄み渡っている。


サアアアアアアア

優しい風が頬を撫で服を揺らした。


少し考えたあと春賀は再び口を開く。

「桃花ちゃんね、魔法も日頃の態度もいい方なんだけどやっぱりなかなか結果に繋がらなくてね。調合も失敗しちゃうこと多いし。何とかしようとは思ってるんだけどなかなか階級が上がらなくて、たまにそれでいじめられたりしているんだ」

「、、、、、、、。」

玲奈は食堂での階級を気にする桃花の様子ー。

そしてプールで桃花が言われて傷ついていた言葉を思い出す。


「だからそういうの関係なく手助けとかができる玲奈ちゃんを僕は誇りに思うよ。本当は余計な刺激の原因になる階級もなんとかならないかとは思うんだけどねー」

春賀の言葉にしばし沈黙を続けていた玲奈が思い口を開く。

「、、、わからないの」

「ん?」

「陽の当たる世界の人の考え方が、わからない」

「!」

玲奈の意味深なその発言に春賀は苦笑を零す。

(陽の当たる世界、、、、ね)


「能力別クラスの授業に出て、自分が望んだものを感じることが出来て良かったと思ったのに。どうしてかうまくいかない」

玲奈が眉を寄せ俯きながらそう告げる。

その瞳は苦悩に満ちている。

それを見守りながら春賀は優しく言葉を返す。

「そう語っ苦しくならなくていいんじゃないかな?」

「?」

春賀の発言に玲奈は顔を上げ、春賀を見やる。

「うまくする必要は無い。君は、どうしたいの?」

「、、、、、、、、。」

その言葉に玲奈は考え、

(どうしたい、、、、、)

そして今までのことを思い出した。


『玲奈ちゃん』

いつも笑顔で自分のもとへと駆けてきてくれる桃花の姿ー。


『ごめんねっ』

そして昨日の悲しげな彼女の姿ー。


「、、、、、、、。」

「特魔クラスの人たちと分かり合えたのはそれはきっと彼らが裏表なく真正面から君と向き合ってきてくれたからじゃない?」

「!」

全てを見透かしたような春賀のその発言に玲奈は驚き顔を上げる。


「ここは外界との接触は遮られているけど、この中では自由なんだ。誰にも縛られないし縛られちゃいけない。だから君がここでどう生きていくかは君次第だ。誰にも遮ることなんかできないんだから。」

「!」

「過去、そして内に秘めているものもあると思う。すべてを吐き出すこと投げ出すことは難しいかもしれないけど、それに縛られてちゃ今を生きることはできないんじゃないかな?」

「今を生きる、、、、、」

「まあこれは受け売りなんだけどね」

春賀は少し照れくさそうに微笑んだ。


それは春賀が玲奈のように学生だった時、ある人に言われた言葉ー。

『ユーリ!今を生きろ!ここにいる以上お前は自由なんだ!誰にも縛られない、縛らちゃいけない。お前の生き方はお前自身が見つけるんだ』




「怖いの、、、、失うことが」

「!」

「傷つけることが怖い、、、、」

玲奈からの思いもしなかった言葉に春賀は目を見開いた。

玲奈自身も自らからそんな感情が生まれたことに驚いていた。


(今まで知らなかった、、、、、)

(優しくされて、ここに来て知った「失う」怖さ)


「初めてこっちで居場所ができて、仲間ができて、でもそれがいつか儚く壊れてしまうのが怖い。能力を知られて嫌われるのが、怖い、、、、」

玲奈は膝に顔を埋めると、かすれて消えてしまいそうな声でそう漏らした。


「そっか」

「!」

春賀は優しく微笑み返す。

「それは君が人間だからだよ」

「!!」


その言葉に玲奈は脳裏に焼き付いている言葉を思い出した。

『ばけものっ』


正反対の言葉を送られ、衝撃を受けた表情を浮かべる玲奈に春賀はまた優しく続けた。

「誰だって怖い。でも君と仲良くしたいと思っている人達の中には君の抱えるものを受け止めてくれる人もいるんじゃないかな?」

「受け止める、、、、、」

「僕はそのつもりだよ?同じ能力者として、そして担任として初めて会った時から君を受け止める準備は出来てる」

「ハル先生、、、」

その思いのこもった言葉に心があたたかくなっていくのを感じる。

「これからも大切だけど、今はどう?君は誰かのそんな思いを踏みにじったりしていないかな?」

「!」

「君が正直に伝えてくれて傷つくより、何も言われず突き放されて傷つく方が僕は辛いけどね」

「っ!」

スクッ

春賀の言葉に玲奈は慌てて立ち上がる。

「おわっ!急に立ち上がるね」

「桃花ちゃんのとこ、行ってくる」

そしてそのまま決意表明をした。

「!うん。行ってらっしゃい」

春賀は驚きつつも、優しく微笑んでその行動を称賛した。



タタッ

ピタッ

走り出したと思った玲奈が何かを思い出したように急に立ち止まる。

「ん?」


そして

くるっと顔だけ振り替えると

「あ、りがとう!」

「!!」

お礼を述べ、そのまま

タタタタタタタタタタと走り去っていった。


「!!」

突然お礼を言われ春賀はそのまま唖然としている。


そして

「ぶくくくくくく。ハハハハハ。本当不器用なところはあの人にそっくりだな、、、、、」

吹き出すように笑うとそのまま嬉しそうに後ろ姿を眺めていた。


「本当可愛くて仕方がないよ」

その呟きは心地よい秋風に乗って空へと消えていった。



ーーーーーーーーーーーーー

ーーーーー


寮のある一室。

ベッドやタンス、机といった必要最低限しか置いてない狭い部屋だが、居住者が可愛くアレンジしており狭さを感じさせない女の子らしい部屋だ。

しかし、今日はその居住者が太陽が殆ど地平線へと沈んで薄暗いにもかわらず電気をつけていないためそれもわからない。

そんな薄暗い部屋で2人の女子生徒が会話をしていた。


「桃花ーいい加減出てきなさいよ〜」

「んー。もうほっといてよぉ」

「そんなわけいかないでしょー?」

「ぐすっ」

「全く」

そう、ここの居住者は桃花。

ここは桃花の部屋である。

心配した奈々子が部屋に訪れたものの桃花はベッドの布団にくるまって出てこないのである。


「友達、じゃなかったのかな?」

「えっ?」

かぶさった布団の隙間から小さく声が漏れる。

「友達だと思ってたのは私だけだったのかな?」

「、、、さあね」

聞こえる泣き乱れた声に奈々子はすっぱり答える。

「さあねって何よ」

「だって私、玲奈ちゃんじゃないからわかんないわよ。知りたいなら本人に聞けばいいじゃない」

「そんなことっ、あんなこと言われたのに、、、聞けないよォ」

正論を突き立てられるも今の桃花にそれは不可能に近かった。

「もうっ!意気地無しだなぁ。あんたの友達としてのコンタクトが足りなかったのかもしれないじゃない!」

「ううーもうどうしたらいいのー?」

「だから聞きなさいって!本人に」

「ううー」

「今!」

「えっ!?」

思いもよらぬ言葉に桃花は涙が引っ込む。

「桃花ちゃん!!」

ガラッ

頭上から聞こえた声と窓が開く音に桃花は動揺を隠せない。

「!!!???」


ガバッ

慌てて布団から飛び出す。

すると窓を開け、窓枠に足をかけている玲奈の姿があった。

「えっ?えっ?ええええええええ!!??」

あまりのことに頭が回らず戸惑いの声が部屋中に響く。


トッ

そして玲奈が窓からベッドを超え部屋へと入る。

「えっ?玲奈ちゃん!?ここ7階だよ!?夜だよ!?窓から?えっ?どうやって!?」

運動神経がいくらいいとはいえどその常識離れした玲奈の行動に桃花は狼狽えている。

「ごめん、どうしても話したくて、、、」

一方で玲奈は特に気にすることなく普段通りに話を進めようとする。

「えっ?えっ?ええっ!!??」

行動、発言何が何だかわからず混乱する桃花に奈々子から鶴の一声。

「落ち着きなさい」

「は、はい」


そして奈々子は玲奈に向き直ると告げた。

「来ると思ってたよ」

「うん、ありがとう。あの時教えてくれて」


奈々子が教室を去っていく前、何かを思い出したように立ち止まる。

『あ、』

『?』

そして

『桃花に話があるなら夜に732号室に来て』

そう伝えたのである。



「まあ窓から来るとは思ってなかったけどね笑」

奈々子はそれを思い出しつつ、玲奈の行動に笑みを零した。


ーーーーーーーーーーー


落ち着いたところで桃花と玲奈は向かい合って座る。

奈々子は桃花の隣へと腰掛けた。

「、、、、、、、。」

「、、、、、、、。」

しばしの沈黙が部屋を包み込む。



先に切り出したのは部屋の住人・桃花だった。

「あの、その、話って、言うのは?」

「うん」

「?」

少し話ずらそうにしつつも玲奈ははっきりと告げた。

「私あの時「友達になったつもりない」って言ったでしょ?」

「うん」

「確かになったつもり、なかったの。なってもらったつもり、なかった」

「!!」

思いもよらなかったその発言に桃花は言葉を失う。

「転入してきたばかりだし、言ってないことだらけだし、、、、そもそも友達が何なのかわからなくなってた」

「玲奈ちゃん、、、」

「でも優しくしてもらえて本当に嬉しかったの」

「!」

「きっと誰にでも優しい世話好きな子なのかなって思った」

「そんなことっ」

その言葉に桃花は咄嗟に声をあげた。

玲奈もわかっていた。

わかっていたからこそ少し微笑むとそのまま言葉を紡いだ。

「でも違うってわかって、目を合わせてくれなくなって、気づいた」

「あ、あれはごめん!どう、関わっていいのか、わかんなくて」

その言葉に慌てて桃花は謝罪を述べる。

「いいの。私当たり前だと思って甘えてたからそうなったんだし」

玲奈のその悲しみや後悔を映すその瞳に桃花は居た堪れない気持ちになる。

「玲奈ちゃん」

「友達がどういうものかってやっとちゃんとわかった。言葉だけじゃなくてちゃんと意味を持って知った。だから今までの私は本当に2人の友達じゃなかったの」

「「!!」」

その真実に驚きつつも桃花と奈々子は玲奈の話を黙って聞いている。

「だから、今更遅いかもしれないけど。話せないこと多いかもしれないけど」

「!」

玲奈はそういうと2人の手をとる。そして

「私と友達になってください」

1番伝えたかったことを伝えた。

「ーっ!」

桃花はその言葉に衝撃を受ける。

「ほら、桃花!」

「う、うん!」

そして涙を目いっぱいに浮かべると奈々子と共に玲奈の手に手を重ねて包み込んだ。


「「こちらこそっ!!」」


3人の繋いだ手から温かさが広がる。

幸せの涙を浮かべる桃花と奈々子を熱くなる目頭で玲奈は見つめた。


(失う怖さを知った、、、、、)

(失いたくないと思った、、、、)

(だから守ってみせる)

(私のここでの居場所)

(この力が陽の当たる力となるならば)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白銀の氷姫 斎藤さくら @M-syousetu

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ