第11話 危険な魔法

スタスタスタスタ

玲奈は道を歩きながら先程の春賀に言われた言葉を思い出す。


『君が選べばいい。どこに行きたいか、ね』

「、、、、、、、。」

(、、、、と言われても、、、、)

「はぁーーーーー」

「自分で選べ」と言われるほど難しいものは無い。

玲奈は大きくため息を吐く。



ガサッ

すると後ろから物音がする。

「!」

バッ

慌てて後ろを振り返ると


「!」

そこに居たのは白い毛並みをしたうさぎ。

人と接触したことにうさぎも驚いたのか耳を高くあげるとそのまま足早に

ぴょんぴょん

と跳ねて去っていった。

学園の東西には大きな森がある。おそらくそこから校舎の方向へと迷い込んできたのだろう。


(うさぎ、、、、、)

「はぁーーーー」

動物相手に警戒心を強くしたことに一気に疲れが押し寄せる。

(表の世界にあいつがいることがわかって変に警戒しちゃう、、、、)

「!」

「あいつ」を不覚にも思い出したと同時にその時一緒に現れた者のことを思い出し、玲奈はふと考える。

(そういえば広瀬翔、、、彼は何系なんだろう)

(夏木レンのように潜在魔法?)

(攻撃魔法?)

「彼は危険魔法系だよ」

「!!」

バッ

突如自分の考えを見透かした声が聞こえ、玲奈はすかさずそちらに向き直る。



「あ、ああ!ごめん!読もうとしたわけじゃないんだ!聞こえちゃったから!」

そこにはおずおずと言葉を紡ぐよく知った顔の男子生徒ー。


「!」

(この人って確か、、、、)


「仁、くん、、、?」

たどたどしくもその名前を呼ぶ。


「!!え、お、俺の名前覚えててくれたの?」

仁は驚きつつも嬉しそうに声を上げる。


「、、、、、うん」

反面、玲奈は学園に来た当初の記憶で申し訳なさにくれていた。


(吹っ飛ばしちゃったから、、、、)


「えへへ。嬉しい。そういえば自己紹介まだしてなかったな。俺、早乙女仁よろしくな!」

「、、、よろしく。仁くんは何系なの?」

「俺は心を読む魔法だから潜在魔法系。てか初めての時は勝手に心読んでごめんな。じゃあな!」


顔の前で手を合わせ謝罪するとそのまま足早に仁は去っていった。

タッタッタッタッタッタッ


その後ろ姿を見ながら素直であっさりとした彼の性格に軽く微笑みを浮かべる。


「、、、、、、。」

(彼も潜在魔法系、、、、、)


(そして)


『危険魔法系だよ』

そして思うのは彼から出たその言葉ー。


(危険魔法系、、、、)



玲奈の脳内に先程の春賀とのやりとりが浮かぶ。



〜回想〜


「あ、そうそう。実は6つ目のクラスがあるんだ」

「!」

何かを思い出したように去り際の春賀が足を止めて振り返る。

「危険魔法系クラス。種類を問わず、その能力やパワーが危険と判断されたものが集まるクラスで」


「!」

ドクン


その言葉に玲奈の肝は冷え上がる。


「秘密主義というかあまり内情が明かされない謎のクラスなんだよ」

「!」


(能力やパワーが危険、、、、、)


ドクン


『ばけものっ』

玲奈の中に浮かぶ過去の記憶。


(内情が明かされない、、、、、)

ドクン


『学園の人間の侵入を許すわけには、、、、、、』



玲奈の脳裏に様々な記憶が行き交う。

「っ!」


玲奈の顔は青ざめ、嫌な汗が頬を伝う。


玲奈にはわかってしまった。

そこがどういう所かー。

気づいてしまった。

そこがなぜ存在するかを。


(裏世界の入口、、、、、)


(まさかサタンはそれで、、、、、)




「玲奈ちゃん!」

「!!」

はっ

玲奈の意識は春賀の声によって現実へと引き戻された。

玲奈が顔を上げると、春賀は優しい声で安心させるように言葉を続けた。

「大丈夫だよ。さっきも言った通り君は自分でどこのクラスに入るか決めるといい。」

「!」

「誰も君を判断しない」


〜回想終了〜




「、、、、、、、、。」


(誰も、、、判断しない)

(自分で選ぶ、、、、、、)


玲奈は春賀の言葉を自分の胸の中で復唱した。

そんなことを言われたことがないからよくわからない、というのが本音であるが心無しかホットしている事にも玲奈は気づいていた。


そしてこれからどうしようか、と考えていると

「通してください!」

「!」


近くからよく知った声がする。

玲奈はそのまま声した方へと向かった。



すると年上の男子生徒が女子生徒の前に立ちはだかっている。


「へえー。キミ中等部の生徒だろ?結構可愛いじゃないか。こっちに来てお兄さん達と一緒に遊ぼうぜ」

「そうそう授業なんてサボってさ楽しいことしようよ」


そう告げる男子生徒に必死に声を上げる女子生徒。


「私は今から技術系クラスに行かなきゃ行けないんです!お願いします!通してください!」


(桃花ちゃん、、、)

そう、絡まれているのは梅宮桃花だった。


(あの制服は、高等部?)

男子生徒の見慣れない制服、年齢具合から玲奈は推測した。



「そう言わずにさ!」

ぐいっ

男子生徒の1人が桃花の細い腕を強く引っ張った。


その瞬間

「いや!!離してください!!!」


ドンッ

咄嗟に桃花はその男子生徒を押してしまった。


バサバサ

胸に抱き抱えられていた教科書やノートは重力で地面へと落ちる。


「、、、。」

「はっ、ごめんなさい」

桃花はそういい頭を下げるとかがみ、散らばった自分の教科書やノートを拾い上げ抱え直す。


男子生徒は押されたことで少し驚くものの次の瞬間桃花への目つきが変わった。

「ーてぇな。何しやがる。せっかく上級生直々に声をかけてやったのに。それを踏みにじるとはなぁ」

「ーっ」

「お仕置きが必要だなぁ」

男性が手を振りかざすと手のひらに水の渦が生まれる。


「水の滴るいい女にしてやるよ」

「ーっ!!!」

顔の前に手をやり、襲い来る水魔法に目をつぶった瞬間


バシャッ

水魔法を食らう音がする。


しかし音はしたのに冷たくもなければ濡れてもいない。


桃花は疑問に思い、うっすら目を開けた。


すると先にいたのは、、、

「玲奈ちゃん!!」

目の前には玲奈の濡れた後ろ姿がある。


桃花を守るように片腕を広げた玲奈の髪は濡れ、髪の先からしずくが垂れ落ちていた。


「なんだてめぇは?」

「この子だよ!最近中等部に新しく入って来たっていう子は」


後から別の男子生徒が声をかける。


「へえー、これが噂の広瀬翔のパートナーで仲良く最高峰階級。転入早々友達を庇うなんて友達思いだね。ならもっとその優しさを見せてみなよ」

「玲奈ちゃん、、、!」


上級生の会話に不安を感じた桃花は無意識に教科書を強く抱きしめると声を上げる。


「おい!伶斗辞めとけって!コイツその広瀬翔を打ち負かしたって噂の女だぜ!」

「あの糞ガキをねぇ。なら尚更やめられないね!」


怜斗と呼ばれたその男子生徒は先程と同じように手を上に挙げ、渦巻く水を作るとそれを玲奈に向かって振り下ろす。

「ーっ!」

桃花は目をそらした。



パキーーーン

鋭い光が放たれ、目を開けると頭上には刺々しく枝分かれする氷の塊があった。

手から放たれ伸び広がった水は玲奈の頭にかかる前に氷漬けにされてしまったのだ。

「こ、氷!?」

そこにいた者全員驚きを隠せない。


バキーン

バリバリバサ

頭上にあった氷は割れ、地面に落ちて砕けた。


「な、なんだってんだ!てめぇは」

自分の水を凍らされ伶斗と呼ばれた男性は戸惑いを隠せず、少女に言い放つ。

しかし、


<i457699|26842>


「ーっ!!!」

ぞくっ

顔を上げた玲奈の表情には怒りが溢れ、殺気が満ち満ちている。


濡れた髪を気にすることなく放たれるその瞳はまるで猛獣のように荒々しく、瞳だけで人を殺せるのではないかというほどの残酷さを帯びている。


ドテッ

恐怖から伶斗は腰を抜かし尻餅をつくとそのまま固まっている。


「れ、伶斗?」

「!」

怜斗は仲間の声に我に返ると

「、、、い、行くぞ。お前ら」

「え、おい、、、」

とたたたたたた

慌てて立ち上がり、そのまま逃げるように走り去っていった。



呆れて溜息を吐くと玲奈は振り返る。

「大丈夫?」

ペタペタペタ


「?」

振り返った瞬間、髪や顔、服を桃花がハンカチで拭いていく。


「あーあ。びちょびちょ。ごめんね、玲奈ちゃん」

「、、、大丈夫だよ。これくらいすぐ乾、、」

視線を落とすと桃花の手がカタカタと震えている。



「玲奈ちゃんのバカ!!あんな無茶して!!風邪でもひいたらどうするの?」

普段の優しい穏やかな彼女からは考えられない怒った姿。


その目は少し赤くなり、涙が滲んでいる。


玲奈はそれを見てふと思う。



(初めてだ)

(こんなふうに怒られたこと、今まで、、、)



「ご、ごめん、、、」

玲奈は口から咄嗟に謝罪の言葉が出る。


「、、、ううん。助けてくれて嬉しかった。ありがとう。」

その言葉とは裏腹に桃花の顔は暗い。


「、、、昔から割とこういうことってあったんだ。慣れっこになってたはずなんだけど、、、。」


「、、、、、、、。」

玲奈はそのまま何も言わず聞いている。


「、、いいな、私にも玲奈ちゃんみたいに誰かを守って自分も守れるそんな魔法が使えたら良かったのに、、、、。

私の魔法なんて何の役にも立たない」

「、、、、。」

「あ。ごめんね。変な事言っちゃって!急にこんなこと言われても困るよね!

じゃあ私もう行くね!」

そう走っていこうとする桃花に玲奈は唇に力を込めると言葉を紡ぐ。


「そんなことないよ!」

「!」

その言葉に桃花は振り返る。



「ずっと言えなくてごめん。私の傷、本当に桃花ちゃんの言ったとおり1日で治ったよ!桃花ちゃんが作った薬のおかげ」

そういい、玲奈は右手を見せる。

確かにそこは綺麗に治っている。



「本当に素敵な能力だよ。人の傷を癒す桃花ちゃんの魔法」

「ーっ!」

その言葉に桃花の目にはぶわっと涙が溜まる。

「ありがとう!!玲奈ちゃん!」

ニコッと太陽のように笑うとそのまま桃花は走って行った。


そんな桃花の姿を見送りながら玲奈は1人小さく呟いた。

「うん、、、素敵だよ、、。桃花ちゃんの魔法は。」

(誰も傷つけなくて済むから、、、)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る