第10話 マスターの命令


暗闇が包む部屋ー。

どこまで続いているのかわからないほど、そこは真っ暗で不気味さを帯びている。


マスターと呼ばれる影の人物の前に片膝をつけ、面会を乞う少女、玲奈。

そんな彼女に影の人物は問いかける。

「話、とはなんだね?玲奈」

「彼、成瀬翔のことです」

玲奈はそのままハッキリと本題を切り出す。

出たその名前に影の人物は沈黙を返す。

「、、、、、、、、。」


「彼はこちら側の人間ですよね?」

「、、、、、、、、。」

彼女の問いかけに答えは返ってこない。

こないのはわかっていたー。


玲奈はそのまま話を続けた。

「今日サタンが接触したのを見ました」

「ああ。妨害を図ったようだね」

その出来事のことは聞いていた、というように影の人物は答える。

その声の感情はとても読み取れない。

褒めているようでも怒っているようでもない。

玲奈も同じように感じつつも悪びれもなく自分が何故そうしたかの伝える。

「あんな状態で行かせても無意味だと感じたからです。そもそも何故サタンが表の世界に、、、、、」

「玲奈、よく話すようになったね」

「!」

自らの話を遮ってそう声をかけられ、少女ははっと我に返る。


「失礼しました」

そして謝罪を口にするとそのまま頭を深く下げた。

「いや、構わん。しかし、ここに勝手に戻ってきた来たことは感心しないな」

「!」

鋭い言葉が玲奈に向けられる。

「任務遂行の連絡はしていない。今お前は任務中だ。任務中に戻ってくるなど言語道断」

「あの、その事なのですが、、、、」

「任務への口出し許可をした覚えもないが、、、、」

玲奈の弁解を許さず次の言葉が発せられる。

「っ。失礼しました」

玲奈は焦りと謝罪から頭を上げられない。


「玲奈」

「はい」

「お前が望んだものはなんだ?」

「!!」

急な問いかけに玲奈は驚きを隠せない。

「私はそれを思い出させるために表にお前を送った。地上で生活してみろと」

「、、、、、、、。」

突然の言葉に玲奈は戸惑い、答えを返せず沈黙にくれる。

(望んだもの、、、、、、)



その戸惑いを知ってか知らずか、影の人物がまた少女へと言葉を放つ。

「成瀬翔の件だが、、、」

「!」

最初に玲奈が振った本題の彼である。

「ではお前が代わるというのか?」

「!!」

思いもよらないその言葉に玲奈は言葉を失う。

(代わる、、、、、)

(彼のために、、、、、)


しかし、玲奈の中で同時に、決まっていることもあった。

「マスターが任務遂行を望まれるのなら」

「はっ、よかろう。」

影の人物はその返答を受け、楽しそうにそう告げる。

「ではサタンを通して任務を言い渡す。その代わりお前は私が良いというまでここに戻ることを禁ずる」

「!!」

「出入りを頻繁にすれば学園の人間の侵入を許しかねない」

「、、、、はい」

それがどういうことか、玲奈にもよくわかっている。

「私の命令が聞けるな?」

「、、、、はい。失礼しました」

そう告げると玲奈は立ち上がり、そのまま踵を返し去っていったー。


カッカ

真っ暗な闇の中で彼女の足音だけが強く響いていた。



ーーーーーーー


玲奈が去ったすぐあと

「マスターよろしかったので?」

その光景を見ていたのか、高等部の制服である青いブレザーを着た長身の男性が影の人物へと話しかける。

「ああ。あいつは少し親離れした方がいい。それに」

「?」

「私はあいつが望んだものを手に入れた先に用があるのでな」

そう告げるその表情には不敵な笑みが浮かんでいた。


ーーーーーーーー


(私が望むもの、、、、)

(望んだもの、、、、、)


玲奈は表の世界に帰ってき、その足でそのまま外のベンチに腰掛けると、先程マスターに言われた言葉を考え続けていた。

暑さなど気にならないほど玲奈は思い耽っていた。


(マスターのために)

(マスターのお役に立つこと、じゃないの、、、?)

(思い出せない、、、、、)

(私は何を望んでたんだろう、、、、)



「玲奈ちゃん!元気ないね?どうしたの?」

「!」

突然頭上から自身を心配する明るい声が響く。

顔を上げるとそこにいたのは

(ハル、先生)

そう、春賀だった。

「別に、、、、、、」

「そ。」

「、、、、、、、。」

春賀は特に踏み込んでは来ない。

それが嬉しいはずなのに少し寂しい気もする。



「ふふ」

「?」

「今日は初めての合同授業だね」

そんな玲奈に春賀は楽しそうに声をかける。

「合同、授業?」

聞いたことがないその響きに玲奈は顔を上げる。

「そ。週に一度中等部と高等部が合同で行う授業のことだよ。全員が5つの能力別クラスに分かれてね」

「5つの能力別、、、、」

「この学園では魔法のタイプを大まかに5つの能力に分けているんだよ。説明するね」

そう言い、春賀はペンを取り出した。

そしてキュキュキュとペンを走らせて、空中に文字を書く。



書かれたのは「潜在魔法系」という文字。

それを指しながら春賀は説明する。

「まずは潜在魔法系。一般的によく知られる超能力は大体このクラスに入るんだ。例えば中身が見える透視能力。瞬間的にどこへでも移動できる瞬間移動能力。身近に起こることがわかる予知能力。まあオーソドックスな能力者ばかりだからクラスの雰囲気も比較的普通で真面目かな。身近な子でいうと雷を操るレンくんや具現化魔法を使う奏斗くんがそのクラスだね」

(夏木、レン、、、、)



そして次にその横に書かれたのは「技術魔法系」の文字。

「2つ目は技術魔法系クラス。略して技魔法。技術系魔法というのは何かを作ったり研究したり使用したりする時に効力を発揮する魔法のことだ。薬品を調合する能力を持つ桃花ちゃんやものを作ると必ず不思議なものができてしまう奈々子ちゃんは勿論技魔法系。あ、触れたものの記憶を読み取り情報をもとに作り出したり使用したりする紫乃ちゃんもそうだね。」

「、、、、、、、。」

その人物の情報に玲奈は思わず顔を曇らせる。

「他にも人を癒す音楽を奏でたり作ったものに魂を宿らせることが出来たりする子もいるね。」

(知らなかった、、、、、)

(そんな魔法もあるんだ、、、)

説明を聞きながら自分の知らないことが身近でもこんなにもあったということに玲奈は気づく。

「技術系クラスは自分の作業に黙々と没頭する子が多いからまあクラス全体がマイペースというか、つまりちょっとオタクっぽいかな?」

春賀は流石国語教師というように言葉を上手に選びつつも楽しそうに説明していく。


(そういえば、、、、)

そして説明を聞く中、玲奈はあることにも気づいた。

「ハル、先生は?」

そう、春賀の魔法について触れられていないということである。

「よくぞ聞いてくれました!人の操るフェロモンを持つ僕は典型的な体質魔法系。」

それを待っていたかのように春賀はウインクをしながらそう言うと、また空中に文字を書いた。

「体質、、、、、」

「そう。超高速で走るとか体質に大きく関係する魔法を持つ子や僕のようなフェロモンの魔法で動物と会話ができたり、惹き付けたり出来る子もそうだね。」

(フェロモン、、、、、)

玲奈はそれに思い当たることがあるかのように少し眉を寄せた。



「そして4つ目、」

「!」

キュキュキュ

「攻撃魔法系だ。ここは横の3つと比べてごく少数派で、3つのどれかと掛け持ちして属している子とかもいるね。だから行事などではあまりこのクラスとして出る子は少ないんだ。名前の通り攻撃に適応される魔法を使う子が集められるクラスで雷のレンくんもそうだけど、五大元素を司る子が多いかな。でもレン君は潜在魔法系でもあるし、一概に攻撃魔法とは言えないからね。使い方はその人次第だから。」

「、、、、、、、、。」

「ただテレポートの魔法を使う子たちは当然このクラスには入らないし、あくまで攻撃に返還できるかどうかで判別されるね。」


そして自身が書いた文字をそこに透明なボードでもあるかのようにトントンと指骨で叩くと最終の説明に移る。

「まあ、一概にわけ切ることは難しいんだけど、一応殆どの子は以上の4つのクラス、潜在魔法系、技術魔法系、体質魔法系、攻撃魔法系に振り分けられるんだ。そしてその4つのどれにも当てはまらない子が特別魔法系クラスだ。略して特魔系。バラバラの能力が混ざってて、人数も少ないけど破天荒というか変というか」

(所謂、「その他」なわけだ、、、、、)


キーンコーンカーンコーン

「予定が鳴ったね。さて能力別クラスの授業が始まるよ!中等部の子が高等部の生徒と一緒に授業を受けるわけで同じタイプの能力を持った先輩とも出会える。きっと有意義だ」

春賀はそう楽しげに告げると、手のひらを文字を書いた上に当てた。

そしてそのまま軽くスライドさせ、空中の文字を消し去った。

「、、、、、、、。」

(有意義、、、、、ね)



そして玲奈は本題を切り出した。

「先生、私は、私は何系に行けばいいの?」

「!」

「、、、、、、、。」

玲奈は答えをじっと待っている。


「んーーそこが問題なんだよね〜」

「!」

春賀は困ったように声を上げる。

「氷、だけでいえば君は潜在魔法系だけど、、、、属そうと思えばどこにでも属せる。」

「!!やっぱり、、、気づいて、、、、」

春賀の発言に思わず玲奈は眉を寄せる。

「そりゃあね。君には僕の魔法、効かないからね」

「、、、、、、、。」

確信を持ってのその発言。玲奈もそれはよくわかっている。

「防ぐ」「防がない」ではなく、はなっから「効かない」という相性がある魔法ー。



「だから」

「!」

グイッ

そういうと春賀は玲奈の手を取り、立ち上がらせる。

「君が選べばいい。どこのクラスに行きたいか、ね」

「、、、、、、、、。」

「ちなみに授業だから「行かない」ていう選択肢はないからね♡」

すかさず釘を刺される。

「、、、、、、、、。」

(読まれてる、、、、、、)


「よく考えて!きっとその選択が君にとっての第1歩になるよ!グッドラック!」


春賀はそう愉快に告げると

スタスタスタスタ

とそのままその場を去っていった。


「、、、、、、、、、、。」

残された玲奈はそのままその後ろ姿を見つめながらため息を吐いた。


(わからないことだらけだ、、、、、)




☆補足事項。

春賀が使っていたのは空中に絵や字が書けるペン、通称「空ペン」である。

先程春賀が説明した技術魔法系クラスが開発した商品であり、ストリートタウンにて大好評であり、売り切れが殺到中。

カラーも様々あり、教師が色々なカラーを持っていると生徒達のあいだで有名。

因みに春賀が使っていたのはブルーグリーンである。

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