第5話 学園生活


「お疲れ様ーー!!どうだったー?初めての英語の授業は?」

職員室に明るいハルの声が響く。

「べ、、」

「別に。」

「!?」

玲奈の言葉を先読みするように春賀は言葉をかぶせてきた。

「って顔ではなさそうだね」

ニコッ

「、、、、。」

見透かされているー。玲奈は沈黙を余儀なくされた。


そんな玲奈を知ってか知らずかまた明るい声で春賀は話し始める。

「さあさあ、本題に入るね。貴重な休み時間を無駄にしたくないもんね。君を呼んだのは他でもない。これを渡したかったんだ」

「!」

スッ

「学生バッチと階級ブローチだ」

そういう春賀の手のひらには魔法学園の校章が入ったバッチとSのような文字が3つ書かれた黄金色のオシャレなブローチが輝いている。

「、、、、、。」

「遠くにいても会話ができる通信機、小型ライト付き。便利でしょ?」

「、、、、、。」

春賀はそう言ってバッチを持ち上げると、ライトをつけてみせた。

「それから、GPS機能もついてる」

「!」

ピクッ

その言葉に思わず反応した玲奈に気づいたのかフッと笑みを浮かべると春賀は言葉を続けた。

「、、、心配しなくても大丈夫だよ。生徒にも個人情報、プライバシーというものがあるからね。誘拐、脱走などよっぽどの事がない限り確認しないよ。」

「、、、、、、、。」



「手渡しが遅くなってしまったのには理由があってね。発行にはちょっとした手続きが必要だったんだ。君が本当に魔法を使え、この学園に相応しい人間か、そしてその魔法のレベルを知る必要があったんだ。本来僕達がそれを行うんだけど、翔くんがやってくれちゃったからね」

「、、、、、、、。」

玲奈の脳内に先程の光景が蘇る。

そしてそれと同時に春賀の「見ていた」「予期していた」とも言えるその言葉により警戒心を強くした。


「君の階級はSSS。学園で持っているものも少ない最高峰ランクだ。翔くん、彼も君と同じ階級だよ」

「、、、、、、。」

特に驚きも、嬉しくもないー。

玲奈は無反応を返す。

「上からSSS、下はBまである。Cは特別枠でchild。5歳までの子が対応となる。まあ少数派だけどね。5歳でもSランクを持ってる子どももいるから」

「、、、、、、。」

玲奈は黙ってそのまま話を聞いている。


「階級はこの学園で生活する上で重要となる。一度この学園に入った能力者はお盆や年末、年に2回の里帰り以外余程のことがない限り学園外に出ることは出来ない。だから生活する寮やお小遣い、食事等殆どは学園側が支給する。その時にその階級が目安となるんだ。」


「能力だけじゃない。その子の日頃の行い、悪事を起こせば当然階級は下がるし、逆にいい行いをすれば上がることもある。それが階級、生活にも反映されるというわけだ」


「まあこんな規則、悪循環だっていう人も多いんだけどね。大勢の人間をまとめあげる上で重要なんだろうよ。なんせ上が決めたことだしね」

「、、、、、、。」

(上、、、、、)

意味深なその発言に玲奈は少し顔色を変える。


そして説明を聞いていて生まれた疑問ー。

「まあくれぐれも玲奈ちゃんは最高峰だから落とさないように、、、、」

「広瀬翔のやっていることは階級を下げる悪事にはならないんですか?」

「!!」

ピンポイント、的を得た質問に思わず春賀は表情を変える。

「、、、、、、。」

玲奈はそれを見落とさない。


逃げられないと感じたのか少し間をあけたあと春賀が言いずらそうに言葉を返した。

「、、、、まあそうなんだけど彼の場合特殊なんだ。日常生活はボロボロだけどその分を補っているというか。それ故の日常生活っていうか」

「、、、、、、。」

「まあ能力がトップクラスで高いのも事実だしね」

「、、、、、。」

(やっぱり彼は、、、、、)

その返答に玲奈の中にあった仮定が確信へと変わる。


「じゃあ話は終わり。貴重な休み時間をとってごめんね。寮長には伝えとくから今日から寮に向かうといいよ」

「、、、、はい」


そう短く返事をするとそのままスタスタと扉へと歩いていった。

「失礼しました」

ガラッ

ピシャ


職員室から少女の姿が完全に消えると、緊張が一気にほぐれたと言わんばかりに大きく息を吐く。

「はぁ~~」

「大丈夫?ハル」

それを近くで見ていた女教師、服部和香子が声をかける。

「はははは、いやはや流石だなぁ。本当鋭い」


タッタッタッタ

職員室を出た玲奈は足早に廊下を歩いていく。



「翔くんの正体、勘づいちゃったかな~」



ーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーー


キーンコーンカーンコーン

「授業の終わった生徒は速やかに寮に帰りましょう」

夕暮れの空に授業の終わりを告げるチャイムと放送が響く。


シュンッシュンッ

木の幹を猛スピードで飛び越える影。

スチャ

その影はある1本の木の幹で止まり、屈むとそのまま下を見た。




ガヤガヤ

降園の時間になり多くの生徒達が歩いている。

その中によく知った顔ぶれー。

「玲奈ちゃんどこいっちゃったんだろう〜」

「授業終わったら急にいなくなっちゃったよねー」

「寮のこととか案内しようと思ったのに〜」

桃花、奈々子、奏斗である。


そんな会話をする3人の前にエプロンをした年配の女性が立っている。

その後には綺麗な大きな建物。

「おかえり、お疲れ様〜!夕飯の準備できるまで部屋で待ってなさい」

「「「はーい!」」」

「、、、、、、、、、。」

影はその光景を一部始終観察していた。




「、、、、、、、、。」

(ここが寮、、、、、、)

年配の女性、おそらくその貫禄からして寮長なのだろう。

その後に聳え立つ横にも縦にも巨大なその建物を見て、そこが寮であると気づく。


生徒達の流れがきれたのを見計らうとその影はそのまま木の幹から飛び出す。

タッ

スチャ

そしてそのまま慣れたように寮長の前へと着地した。


「!おかえ、、、、、」

突如目の前に現れた影に驚くもそのままいつものように声をかけようとした瞬間

「、、、、、、、。」

「!!」

顔をあげたその少女の姿を見て、寮長は言葉を失うとそのまま深々と頭を下げた。


「おかえりなさいませ。玲奈様。お話は伺っております」

「、、、、、、、、、。」



ーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー


「こちらが男子塔、こっちからが女子塔です。夜8時以降の塔移動は禁止されています。下の3階は共同スペースで食堂、談笑室、アミューズメントエリアなどがございます。」

寮の中ー。

玲奈の前を寮長が説明しながら歩く。

3階までは横に長い長方形の形をしておりその上に各塔がそびえ立っている。


そしてついたのは12階の角部屋。

キィ

「こちらのお部屋をお使い下さい」

1028と部屋番号が書いてある部屋の扉を寮長が開ける。

「、、、、、、、、、。」

「SSS階級のお部屋となっております」

そこは寮の一室とは思えないほど広い空間が広がっていた。

部屋の左端中央にあるベッドは2人で寝ても余裕があるほど広々としておりとても一人用とは思えない高級さを物語っている。


寮長はそのまま部屋の左手を指さして案内を進めた。

「トイレ、お風呂もそちらについておりますが下に大浴場もございますのでご自由にお使い下さい。御用の際は私どもにお伝えください」

「ありがとうございます。それじゃあ、、、」

説明を聞くと玲奈はそのまま扉に手をかけた。

キィ

「はい。ごゆっくり」

寮長はまた深々と頭を下げる。

「あ、」

扉を閉めようとしてあることに気がついた玲奈が手を止めて声を上げる。

「?」

「ここでは普通に接してください。みんなと同じように。私はそんな良いものではありません」

「は、はい」

パタン

思ってもみない言葉に寮長は驚きつつも了承を口にすると扉はそのまま静かにしまった。



ーーーーーーーーーーーーー


パフッ

「はぁーーーーーーー」

部屋に入るなり広いベッドに倒れ込むとそのまま大きくため息を吐く。


ゴロン

そしてそのまま仰向けになると広い天井を眺める。

(広い部屋、、、、、、)

(ベッドはフカフカで気持ちいいけど)

(こんな優待遇、、、、、)


『玲奈様』


(必要ない、、、、、、)



(マスター、、、、、、)

(どうして私を、こんな所へ、、、、、)



ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー


フッ

「!」

はっ


ガバッ

目を開け、慌てて玲奈はベッドから起き上がる。


「はぁーーーーー」

(いつの間にか寝てしまっていた、、、、)

玲奈は頭を抱え、落胆する。

窓から見える空はすっかり色を変え、闇夜に染まってる。

明かりのついていない薄暗い部屋、広すぎるせいか少し寂しさすらも感じてしまう。



その静寂に包まれた室内で何かが玲奈の耳へと届いた。

「!」


ガラッ

玲奈はそのまま音のする方へと歩き出すと鍵を開け、上下開閉式の窓を開けた。


すると2階下のバルコニーに小さな男の子と寮長の姿があった。

「うっ、うっ、うえ」

「ほら、もう泣かない。ほら見て、星が綺麗よ」

「うっ」

「きっとママもこの星を見てるわ」

「ママ、、、、」

「そう。同じ空の下にいるんだからきっとまた会えるわ。だから頑張りましょ!」

「う、うん!」

「さ、風邪ひいちゃいけないからお部屋に戻りましょ」

2人はそのまま会話をすると寮の中へと戻っていく。

その一部始終を見やり、玲奈はまた物思いにふける。


(あんな小さな子も、、学園にいるんだ、、、、)


(能力を持って生まれた人間が集められる場所、、、、、、)


玲奈の脳内にマスターに拾われた時の記憶が浮かび上がる。

『私と一緒に来ないか?』


(マスター、、、、、、、)

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