第3話 玲奈VS翔

ヒュオオオオ

運動場強い風が吹き抜け、砂が舞いあがる。

「、、、、。」

「、、、、。」

無表情で一定の距離を保ち、玲奈と翔は見つめ合う。

ほかの生徒達は横の芝生の斜面や階段に腰掛けその光景そして結末を見ようとしている。

不安に怯えるものもいれば、楽しそうに見つめるもの様々いる。



「ハル!!生徒達が、、、」

綺麗な女性教師が職員室の窓から見た光景に声を上げる。

「ああ、やっぱり始まったね。翔君の入学試験」

コーヒーを飲みながら春賀が答える。

「ハル!?」

「お前、知ってたのか?こうなることを。なら尚更このままほっておいていいのか?相手はあの問題児の、、、」

「そう、問題児の翔くんだ。心配しなくても大丈夫だよ、三浦先生。危なくなったらいつでもすぐ助けに行く準備はできてるから。」

「!」

「、、、試してみたかったんだよね。きっと翔くんは賢い子だから彼女に何かを感じてこういう行動を起こすと思っていた。だからこれが実質彼女への入学試験なわけ」

「ちょっとハル、いくら何でも危険すぎるんじゃない?」

「ん?」

「たかが試験で子どもだけの本気手合わせは無茶よ。もしものことがあったら」

「大丈夫だよ。相手はあの玲奈ちゃんだ。そう一筋縄では行かないはずだよ。それにたかが試験じゃないよ。この学園、特に翔くんにとって彼女は今後を左右する重要な鍵になるかもしれないんだ。」

「ハル、貴方やっぱり、、、」

「、、、どうだろうね。」

「お前は本当に何を考えているのかわからない」

「ハハハ。そんな怖い顔しないでよ。僕は至って素直な人間だよ。」

「、、、どこまで予想できているの?ハル」

「力はほぼ互角。どうなるかまでは僕にもわからないよ。あの子達次第だね。」

春賀はそういい、窓の外に目を向けるのだった。



「突っ立っていても仕方ない。始めるぞ。徹!ジャッジしろ」

「は、はい」

「、、、、。」

芝生に座っていた徹と呼ばれた少年が離れて立つ2人のちょうど真ん中に立つ。


「翔本気だね」

「大丈夫かな?玲奈ちゃん」

「心配だなぁ」

「翔くんにかかればあんな子一瞬よ」

「やれー!翔さーん!」

「何だよ、おまえどっちの味方なんだよ」

(玲奈、、、、)


「よおーい!始め!!」

声と同時に徹は手を上に大きく上げた。


(調子乗りやがって)

ぐっ

翔の構えた左足に空気がまとう。

(魔法なんて不要だ)

(てめえにはこの一撃で、、)

ヒュっ

勢い良く地面を蹴ると、ものすごいスピードで玲奈との距離を詰める。

「早いっ!」

皆がそのスピードに驚く中、伊藤が興奮した声を上げる。

(十分だ!!)

右手に拳を作り、玲奈に殴りかかる。

「、、、、。」

ヒュッ

「ーっ!」

怯むでもなく無表情のまま片足に重心を傾け、後方に重心をそらすと豪速な拳を軽々と避けた。

拳は風を切り、空気を貫いた。

「へえーー」

レンがそれを見てほくそ笑む。

「ーっ!」

「、、、、。」

空いた左手で拳を振りかざすがそれも安安と横に避けられてしまう。

「くそ!」

ぶんっ

「、、、、。」

スチャ

痺れを切らした翔は回し蹴りを繰り出すも、再び瞬時に体制を低くされ、避けられてしまった。

ゴッ

拳を下に向け振りかざすも、瞬時に身体を翻すとクルクルクルと後ろ向きにバク転をし、簡単にかわされる。

スタッ

「、、、、。」

着地をした玲奈の表情は無表情のままで、これほどまでに動いたというのに息すら乱れていない。


「ーっ!!」

「す、すげえ、、、」

「今片手でバク転したよな?」

「何て運動神経だ」

言葉を失う伊藤の横で取り巻きの少年達は口々に声を上げる。


その光景を見て驚く芹本と呼ばれた少女の脳内に昔の記憶が蘇る。

【ねえ、見てみてみて!凄いでしょ?】

長い黒髪をもつ少女が高い木の枝上に立ち手を振っている。

【ちょっと!危ないわよ!早くおりてきなさい!】

下から見上げる薄紫のショートヘアをもつ少女は慌ててその声に言葉を返す。

【大丈夫だよ!えへへ。ホント心配性だなー】

何も気にしないというように少女は太陽のように笑うのだった。

(玲奈、、、、)


「運動神経だけじゃないよ。スピードもだ」

「レンさん」

(学園で屈指のスピードを誇る翔の攻撃を避けるなんて、、、ホント只者じゃないな)


「へえー。なかなかやるじゃねえか。レン以外で俺の攻撃を避けたのはお前が初めてだ」

「、、、、。」

「流石にお前のこと甘く見くびり過ぎていたみたいだ。次は本気で行く」

ボォ

翔の構えた右手に炎が宿る。

「わあ!出たわ!翔くんの炎魔法!!」

「久々に見たなー」

「翔さんに魔法を使わせるなんて、、、」

「次はそう簡単には行かないわね」

「やっちゃってー!翔くんー!!」


(やっぱり魔法は使える。さっきのは何だったんだ。まあいい)

「行くぞ!」

ぼぼぼぼぼ

翔の周りには多くの火球が舞い上がる。

バッ

手を大きく降った瞬間多くの火球が玲奈に向かって飛んでいく。

シュッシュッシュッ

何も気にすることなく玲奈は無表情のまま先ほどと同じように火球を避けていく。

「ー!」

ブワッ

後ろの気配に気づき振り返った瞬間、翔の手に纏った炎が玲奈に向かう。

たったっスタッ

間一髪ーーー。後ろにバク転した玲奈は炎を見事に避けた。

「相変わらず速いな。だが避けるだけじゃ俺は倒せない」

ブワッブワッ

手とともに振りかざされる炎を玲奈は無表情のままタンタンと弾むように避けていく。

ぼっ

「!」

玲奈の右に青い炎。

たっ

ぼぼ

「!」

避けようとした瞬間、その方向にも青い炎。

ぼぼぼぼぼ

そうして青い炎が1つ、また2つと玲奈の周りを囲んだ。

「ああ、玲奈ちゃん!!」

取り巻き達は声を上げた。

玲奈は青い炎に囲まれ身動きが取れなくなってしまったんだ。

「なんだあの青い炎は!?」

「貴方達本当に何も知らないのね」

「何だと?」

取り巻きたちの声に伊藤は呆れて溜息を吐く。

「あれは気体に近い酸素を多く含んだ炎よ」


ブワッ

玲奈の足元を青い炎の波が囲む。

「-!!」

玲奈は咄嗟に腕を口の前に持ってくる。


「少し触れただけでも致命傷を与えかねない」

「そんな、、、!」

「それだけ翔は本気だってことだよ」

「レンさんっ!」



「触れれば即、高温の炎がお前の身体を包む。逃げてみろよ。お前の能力を使って」

「、、、、。」

翔の向ける眼差しにも近くにある炎に臆することも無く、玲奈は無表情で翔を見つめている。

「、、、気に食わねえんだよ!お前のその目!!」

「まずいっ!」

レンが声を上げたと同時に、翔は手を地面に勢い良く下ろす。

ドオオオン

地面から青い火柱が上がる。

「玲奈ちゃん!!」

火柱でもはやその中にいるであろう玲奈の姿は見えない。

「翔!流石にやり過ぎだ!」

レンが立ち上がり声を上げる。

「、、、、。ーっ!」

無表情で火柱を見つめていた瞬間、

しゅううううう

白い湯気が上がり、パキパキパキパキと火柱が氷となって砕けていく。

「!!!」

「高温の炎に、、、、」

「ヒビ、、、、?」

ザワ


次の瞬間、シュシュシュシュシュ

砕けた氷が礫となって翔に向かい勢いよく飛んでくる。

「ーっ!」

「翔くん!」

翔は襲い来る礫をかわして避ける。

足元に目を向けると地面に鋭い氷が刺さっている。


「何だあれ!?」

「玲奈ちゃんはあの中か!?」

(氷の防御壁、、、)

今まで表情を崩さず見ていたレンがその光景に狼狽える。

砕けた火柱の中から巨大な氷の塊が顔を出した。

バキッ

花が咲くように氷の塊が開くと

シュンっ

先ほどの礫とは比べられない大きさの氷が翔目がけて飛んでくる。

「ーっ!」

避けるものの、その大きさと重力から氷はドオンと音を立て地面に突き刺さるとそのまま周辺に氷をはる。

ブワッ

次々と向かってくる氷を手から出した炎で溶かすも水となり翔に降りかかる。

「翔!」

「翔さん!!」

手で濡れた顔を拭いながら戦っている相手の方を見やると咲くように開かれた氷の中から無傷で少女が出てくる。

しかし翔は見逃さなかったーー。少女の毛先が白銀に変わっており、氷の壁から出てきた瞬間黒髪に戻った所を。


「、、、、ーっ、はあ。お前、氷の能力者だったのか」

「す、凄い!!玲奈ちゃん」

「か、カッコイイ、、、」

「でもなんで隠してたんだ?そう珍しくない能力のはずだよな?」

「、、、、、、。」


「、、だが所詮は氷。氷は火には勝てない。」

「、、、、。」

少し息を切らしている翔と違い、玲奈は試合開始前と同じ、何も変わっていない。

「余裕ぶってんのも今のうちだ。次で決めてやる」

「、、、、それは貴方よ。私の攻撃はまだ終わっていない」

戦闘が始まってから初めて玲奈が強く言葉を放つ。

「何?」

翔が上を見上げた瞬間

「ーっ!」

そこにあったのは大量の氷の塊。

鋭い先端は全て翔に向けられている。

(まだ氷壁の残りが、、、)


(いや、高温の火柱を一瞬で凍らせたのもそうだけど)

(あれだけの氷の残骸を宙に留めておける魔力)

(まさか、、、、、)

レンが一部始終見た情報で彼女へと考えを巡らせる。


そして

「、、、、。」

無表情で玲奈が手を振り下ろした瞬間、

ドドドドドドドド

一気に氷の塊が翔めがけて落ちてくる。

「っ!翔ー!!」

「翔くん!!!」

レンと伊藤は立ち上がり声を上げる。

他の生徒達は驚きのあまり固まっている。


サアーと風が吹き、砂煙をはらしていくと

しゅああああと白い湯気が上がった。

ポタポタポタポタ。

水が翔の髪を濡らし、地面に落ちる。

はあはあ

翔は息を切らし、身体はぐったりと前かがみになっている。立っているのが不思議なくらいの状況である。

そして服や足にもいくらか氷がかすったのか服に亀裂が入っており、間に血が滲んでいた。

「翔くん!!」

「翔!良かったぁ」

軽傷で立っている翔の姿を見て伊藤とレンは喜びの声を上げる。

しかし

ゴオオオオ

翔の周りに赤い空気、そして強い殺気が溢れ出る。

「まずい!翔!やめろ!!」

レンの顔が一気に歪みをます。

「何、何この空気、、、」

「なんかヤバイ空気だよぉ」

「翔さん、、、」

取り巻きの男子たちもその空気の変わりように動揺を隠せない。

「ーっ!」

その自分に向けられた殺気と魔力の強さから玲奈も驚きを隠せない。

「おい!徹!!」

「は、はい!試合、終了!勝者は橘 玲奈!」

ジャッジを行うものの、その声はもはや翔には届いてない。

「落ち着け!翔!!その力を使っちゃダメだ!」

ふっ

顔を上げた翔の瞳はワインレッドから紅に変わっており、髪にも少し赤みが帯びてきた。

「、、、、。」

玲奈はその姿を見て少し動揺するが、キッと強い視線で翔に向き直った。



「はい。そこまで」

「ーっ!」

突如現れた春賀が翔の腕をつかんだ。玲奈を含め皆驚きを隠せない。

ふっ

腕を掴んだ瞬間、翔に纏っていた赤い空気は消え、そのまま膝から崩れ落ちる。

「ちょっとオイタが過ぎたかな、翔くん」

春賀は気を失った翔を受けとめるとそのまま軽々と持ち上げた。

「大丈夫?玲奈ちゃん」

振り返り笑顔でそう語りかける春賀に玲奈は警戒心を強くする。

「、、、、。」

「流石に何が何だかわからないよね。そう言えば僕のことも話してなかったしね。僕の魔法は心理操作。こうして声や触れることで人を意のままに動かすことが出来る。当然心を読んで心自体を操ることもね。ま、純粋で免疫の無い子どもに使うと失神してしまう事が多いんだよね」

その能力を聞いて少し驚く玲奈を優しく見守ると春賀は続ける。

「そして翔くん。翔くんは見てわかったように様々な種類・形状の炎を操る火使いだ。火気の無い所でも火は起こせるし、大爆笑も可能だ」

「、、、、。」

脳内に入学当初の爆発が浮かぶ。


「さあて、と。みんな教室に戻るよ!遊びはおしまい。そろそろ次の授業が始まるからね」

春賀は芝生や階段で固まっている生徒に声をかける。

「えーーーーー」

「うわっまじだ!時間やべえ!」

「次アイツの授業じゃねえのか英語の、、、」

「うわぁサッキーの授業だ!マジ勘弁ー!」

「ってかそんなことより」

「玲奈ちゃーーーん!!!」

「!!」

取り巻きの男子達が一斉に玲奈にかけよる。

「大丈夫か?怪我とかしてないか?どこも痛くねえか?」

「何だよ!律!お前さっきまで翔さん応援してたじゃねえか!」

「そんな事よりスゲエな!お前!あの翔さんと互角に渡り合うなんて。じゃああれか玲奈ちゃんなんて馴れ馴れしいか?玲奈さん?玲奈様?」

「はっ、お前何言ってんだよ!玲奈ちゃん困って、、、」

ぷっ

「え?」

じゃれ合う男たちは想像しなかった声に動きを止め、玲奈を見る。

「ふふ」

玲奈は口を抑えて笑っている。

ぽーーー

男たちは驚きとその可愛さに顔を赤らめ見つめる。

「賑やかで、ふふ、ホント、、面白い。普通に、、玲奈でいいよ」

(うるさいけど、、、、)

(嫌いじゃない、、、、)




(玲奈ちゃんが笑った)

(しかも俺達に、、、)

(ヤバイ、可愛い。死にそう)

「玲奈さん俺と結婚してくだ、、」

ボカァ

「ふざけてんじゃねえよ!!行くぞ!!」

「いってぇ!殴ることねえじゃねえか!」

「玲奈ちゃんも急いで!次の英語教師めちゃくちゃうるせえんだ!」

そう言うと男子達は走ってかけていく。


その光景を微笑ましく見ていた奏斗も時間を確認し「あわわわわわ、急がなくっちゃああ」慌てて走って行った。


「翔くんがぁ」

「ふん。まぐれよ!今日は翔くんの調子が悪かっただけ。ハルに助けてもらったこと感謝するのね」

そう斜面の上で言い放つと、伊藤と気の強い女子達は去っていった。

そんな様子を気にするでもなく、玲奈も校舎へ向かって歩き出す。

「玲奈、、、、」

後ろから声に引き留められるものの玲奈は振り返ることなく歩き始めた。

「、、、、。」

その光景を見て、今まで玲奈を優しく見守っていた春賀が仕方ないと言うように声をかける。

「玲奈ちゃん。」

「!」

「素敵な魔法を持ってるね」

「!!」

思ってもみなかった春賀の言葉に思わず玲奈は振り返った。

春賀はニコッと優しい笑みを浮かべると

「そうそう」と思い出したように

「次の授業が終わったら職員室に来てね」

と声をかけた。

その言葉に軽く頷くと玲奈は再び歩き始めた。

「さあ君たちも戻った戻った。」

まだ残っているレン、芹本、少数の生徒に未定は声をかけた。

レンと芹本以外の生徒はその言葉に立ち上がり動き出した。

「僕は翔くんを保健室に連れていってくるね。君たちも早く戻るんだよ。相手はあのサッキー先生だからね」

スタスタスタ

歩いていく春賀を2人は無言で見つめていた。


(さあてと、流石にあの力も使おうとしたとなると彼が出てくるのは時間の問題かな)

そして春賀もまた翔を抱えながら脳裏に浮かんだ彼に苦笑を漏らすのだった。



「玲奈ちゃん!!」

玲奈の後ろから自分を呼ぶ声がする。

振り返るとそこにいたのは、走って追いかけてくる桃花と奈々子だった。

「!」

「はあはあ」

2人は全速力で走ってきたのか息を切らしている。

玲奈は足を止め向かい合う。

「玲奈ちゃん、、、どこいくの?教室あっちだよ」

桃花が指さした方には木の合間からうっすら中等部校舎が見えていた。

「、、、、。」

玲奈はそれを見てそのまま固まっている。

「もしかして玲奈ちゃん意外と方向音痴?」

「、、、、。」

くるっスタスタスタ

「わああ!ごめん、ごめんん!!そうだよね!この学園広いし迷っちゃうよね」

踵を返して歩き出す玲奈に桃花は慌てて声をかける。

「もう、桃花ー。そんなこと言いに来たんじゃないでしょ」

「あ、そうだった!」

「?」

後ろの会話を聞き、玲奈は足を止め振り返る。

「あのね、玲奈ちゃん!右手、出してくれない?」

「?」

兎のように跳ねるように駆けてくる桃花に不思議になりながらも言われた通り右手を出す。

「いたそ〜。やっぱり怪我してる」

「!」

自分でも気づいていなかったのか桃花の言葉に玲奈は驚く。

確かにそこは赤くなっている。

「広瀬くんの炎に一度かすってたから火傷してるんじゃないかって思って」

「、、、、。」

あんな速い攻防戦でそんな些細なことにも目がいっていたのか。可愛い顔に似合わない、その洞察力に玲奈は言葉を失う。


すると玲奈より少し背の低い桃花はスカートのポケットから瓶を取り出した。

そうして蓋を開け、中に入っている緑の固体を指につけると玲奈の右手に近づける。


バッ

思わず玲奈は手を引っ込め、体を後退した。

「あ、ごめんね。怖がらなくても大丈夫だよ。これお薬だから。」

「!」

「言ってなかったからそりゃビックリするよね。これ私が作ったの。私ね調合の魔法が使えるの。調合魔法の能力者なんだ」

「!」

「ーっていっても作ったもの全部薬になるか爆発するかなんだけどね」

「ちょっと!ななちゃん!それは言わない約束!、、、ホント、、失敗ばかりなんだけど薬だけは自信あるんだ。ダメかな?」

「、、、、、。」

玲奈はふわっと笑うと手を桃花の前に出した。

「!!」

桃花の顔がパアと明るくなる。

「ありがとう!!これ、万能薬なんだ!きっとすぐ治るよ!」

そう言って取り出したシートに指で薬を塗るとペタッと玲奈の赤くなった右手に貼り付けた。

「、、あったかい、、」

「ん?」

「、、、ううん」

「ふふ。今日私凄く感動しちゃった!玲奈ちゃん凄くかっこよかったんだもん」

純粋で優しく朗らかに笑う桃花を見て、玲奈は目頭が熱くなるのを感じた。

(梅宮桃花、、、、、)

(陽の当たる世界の人、、、、)

「ありがとう。桃花ちゃん」



「わっ!今私の名前呼んでくれた?嬉しー!」

「桃花、時間」

「え?わああああ!後一分しかない!!大変ーーー」

「もういちいち騒がしいなぁ、桃花は」

「ななちゃん、ひどーい」

「行くよ!ダッシュ」

「はーい!玲奈ちゃん!玲奈ちゃんも行こ!」

「うん」


走っていく3人の様子を木の影から誰かが見ていた。

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