第7話 パートナー

キーンコーンカーンコーン


「、、、、、、、。」

(今日は、、、いない、、、、)

教室に入った玲奈は通路を挟んで右隣の机にいる黒髪の少年の姿がないことに気づく。


(そして、、、、、)


(私の正体に勘づいてる、もうひとつの世界を知っている人間がいる)


「今日翔君はーー?」

「お休みっすかねー?」

伊藤の問いかけに翔の取り巻きが答えた。

「、、、、、、、、、。」



「はーい!皆さんおはようございます!」

そんな中、教室に入ってきた春賀の明るい声が響く。


「!」

「じゃあみんな席についてねー!HR始めるよー!」

友人の所へ話に行っていた生徒達や立ち歩いていた生徒達もその一言で自分の席へと移動する。

おそらくみんな春賀の魔法の餌食になりたくないのだろう。


それを見計らって春賀は本題へと入る。

「今日はみんなに重大発表をしたいと思います!」

「?」

「!!」

ザワ

「なんだ?」

「、、、、、、、、。」

「重大発表」という言葉にそれぞれが反応を示す中、



バンッ

「!」

扉が音を立てて勢いよく開いた。

全員の注目がそこへと向かう。

そこに居たのは息を切らし、ボロボロに傷ついた制服を身に纏う成瀬翔の姿があった。


「翔さん、、、、」

「どうしたんだ?あの傷」

「しかもすげえ機嫌悪くねえか?」

その姿に生徒達が小さな声でつぶやきはじめる。


(そう、彼も)

(この世の暗闇を知っている、、、、)


「(任務帰り、、、、てとこね)」

「(それにあの傷、、、、アイツ、か)」

学ランの中にパーカー着ているため首元はよく見えないが頬から首にかけて走る黒い残痕。

その傷に玲奈は思い当たりがあった。



「おはよう、翔くん」

「、、、、、、、、。」

春賀が教室へと入ってきた翔にそう声をかけるが、翔はそちらを向くでも挨拶を返すわけでもなく春賀の前を通り過ぎていく。


「結局あの後彼に捕まっちゃんだね」

通り過ぎる間際、翔にしか聞こえないような小さな声で春賀がそう呟いた。

「うっせぇ」


パンパン

その反応を特に気にするでもなく春賀は手を2回叩いて鳴らすとまた明るい声でクラスに呼びかけた。

「はーい!じゃあ気を取り直して話を戻すねー」


タッタッ

「やべえな」

「うん、今回は特にだな〜」

コソコソ

自分の席に着こうと通路を歩く翔ー。

その姿に生徒達から小さな呟きが漏れる。


特にそれを気にするでもなく翔は顔を上げる。

すると自身を見ていた玲奈と目が合う。

「、、、、、、、、。」

「、、、、、、、、。」

感情を移さない瞳とイラつきとも言える怒りの瞳が一瞬交差する。

沈黙だがそこにはどこか強い緊張感が走っている。

しかしそれは翔が座る横の席の少年の声によって阻まれた。


「翔、お疲れ様。大丈夫?」

「、、、、ああ」

友人である彼の声に視線を離し、そう答えると翔はそのまま席についた。


それと同時にまた春賀が話を進める。

「みんなにはそれぞれパートナーがいると思います」

「パートナー?」

「パートナー制度のことか?」

「パートナー」という言葉にそれぞれがまた各々の反応を示す。

「そう!それ☆みんなが入学した際に時に助け合い、時に指導し合うために決めたと思います」

生徒の声を聞きつつ、「パートナー」が何であったかをわかりやすく説明する。

その説明を受け、思い出したように生徒達は話し始める。

「そういえばそうだったな」

「俺、お前とだっけ?」

「忘れたー笑」

「そして今回、新入生の橘玲奈ちゃんに学園のことを教えたり、生活を指導するパートナーを決めたいと思います」

ざわつく中でも通る春賀の声。

「、、、、、、、、。」

(パートナー、、、、、)

(そんな煩わしいもの、私にはいらない、、、)

春賀のその言葉に玲奈は心底煩わしく感じた。


「誰か立候補者いませんかー?」

ザワ

「俺やりたいけど、もう既にパートナーいるんだよな〜」

チラッ

仁はそう呟くと、パートナーの方を見やる。

「なによ」

するとそこには同じように仁を見て、不機嫌そうにいている伊藤の姿があった。

「いーえ」

「やれやれ」と言ったように仁は前に向き直る。


「俺もお前とだしな〜」

「私も〜」

同じように他の生徒も口々に既にパートナーがいることを漏らす。



「はいはい」

パンパン

「そうなんだよね。大方決まってる子が多いのよ。だからこっちで決めちゃったので発表します!」

「!」

今までのはなんだったのか。そうツッコミを入れたいような発言をすると、そのまま春賀は右手を出して指名した。


「広瀬翔くんです!」



!!!!!!!!!!!!

ザワッ

「「「「「「えっ!!??」」」」」」

「、、、、、、、っ」

その思ってもみなかった名前にクラス中が困惑する。

当人の玲奈もそれには言葉を失ってしまった。


「じゃあ僕用事あるから後よろしく〜」

それを知ってか知らずか春賀はそういうとそのまま足早に教室を出ていった。


パタン

「、、、、、、、。」

廊下に出て教室の扉を閉めると春賀は1枚の紙を取り出した。

「学園本部 生徒調査依頼書」と書かれたその紙には玲奈の名前、顔、性別等が書かれていた。

(さて、吉と出るか凶と出るか、、、、)

「ふふ」

それを見ながら春賀は楽しそうに笑みを浮かべ、そのまま歩き出したのだった。



ーーーーーーーー


春賀が去った後のクラスは昏迷に満ちていた。

「、、、、、っ」


(どうして、、、、、よりにもよって、、、)


突然衝撃的な発言をされ、玲奈も眉を寄せていた。


「えーー?なんで?」

「どうしてー?」

クラスの生徒達にもわけがわからないと言ったように疑問を口にする。

「ちっ、知るかよ」

当の本人である翔もより不機嫌になっていた。


ガタッ

そしてそのまま椅子から立ち上がると教室の後ろ扉に向かって歩き出した。

「どこいくんだ?翔?」

すかさず翔の友人・夏木レンが声をかける。


「出る」

短く一言顔も動かさず伝える翔にレンも短い反応を返す。

「あっそ」

「来ねえのか?」

その反応に今度は翔が問いかける。

「今日はいいかな〜」

「はっ、相変わらず読めねえやつ」

そう吐き捨てるように呟くと翔はそのまま扉を開けて出ていった。

「待ってください、翔さん!」

バタバタバタバタ

その後を取り巻きの男3人が慌ててついて行った。


レンは特に気にすることなく机に頬杖をつくと悪戯な笑みを浮かべ、玲奈を見やった。

「だって残った方が面白そうだし」



「、、、、、、、。」

玲奈はそれを知ることなく沈黙を続けている。

「あ、あの、玲奈ちゃん!」

「!」

すると隣の席の奏斗が慌てて声をかける。


「パートナーじゃないけど僕でよければ色々教えるから!」

思ってもみなかったその厚意に驚くも玲奈は少し気持ちが和らぐような気がした。

「!ありがとう、、、、」

「うん!」


しかし、それと同時に自分のパートナーになった者の存在を意識する。

そうしてその彼が出ていった扉に目を向けるのだった。

(広瀬、、、翔、、、、、、)



ーーーーーーーーーーー

ーーーーーー


渡り廊下を歩く翔とそれを追いかける取り巻きの男達。

そのうちの一人が翔に声をかける。

「翔さん!大丈夫ですか?罰則くらったばっかなのにまた授業サボったりしたら、、、、」

「あ?じゃあお前戻れよ」

翔の機嫌は最悪である。

その言葉に次の言葉など到底出るはずもなく尋ねた男は黙る他ない。

「、、、、、、、。」

「あいつが来てから教室にいるとムカつくんだよ」

そう小さく零すとそのまま廊下を歩いていった。

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