第1話 真っ黒な少女

ピカーーーー

暗闇を明るい光が照らしつける。

(暑い、、、、)

(眩しい、、、)

バサッ

黒い日傘を指して地上を歩く。


「見てみて!!あの子凄い綺麗!!」

「ホントだ!可愛いー♡」

「でも見かけない顔だねぇ」

「本当!中等部の制服着てるけど」

「新しい転入生かな?」

離れたところから様々な生徒の声が聞こえる。後ろでキャッキャ、いろんな視線を浴びため息を吐く。

(うるさい)


(それにしても暑い、眩しい)

(太陽の光ってこんなに眩しかった?)

黒い日傘をさしながら眩しそうに太陽に手を伸ばした少女の顔は確かに美しい。

綺麗な腰近くまである黒髪をハーフアップし、栗色の瞳を持っている。

(ううー、早く建物の中に入りたい。待ち合わせがあるからこの時計塔の下で待ってるように言われたけど)


じゃりっ

「!!!」

キッ

背後に現れた気配に一早く気付き殺気じみた目つきで気配に向き直る。

するとそこにはクリーム色の毛先がカールした美男性が立っていた。

「流石、、と言うべきかな。気配を消してもこんな一瞬で気づかれてしまうなんて」

ニコと自然に笑う笑顔を少女は怪しく睨みつける。

「、、、、。」

「そんなに警戒しないで。君に危害を加えるつもりは無いから。僕は春賀。君を迎えるようある人に頼まれてね。待っていたんだよ」

「、、、、。」

スウと少女から殺気じみた空気が消える。

「急に近づいたらそりゃビックリするよね、ごめんね。改めまして橘 玲奈ちゃん!魔法学園へようこそ」

優しく笑顔で伸ばされた手に玲奈と言われた少女は手を重ねた。



ーーーーーーーー


ーーーーー


「コーヒー?紅茶?ミルク?何飲む?」

「ミルクで」

「はあい♡」

魔法学園の4階の控え室に玲奈と春賀は移動し、玲奈は慣れない客室用の大きなソファーに腰を下ろしていた。

「はい、どうぞ」

ミルクの入ったマグカップがソファーの前の机に置かれる。

「これから君の入学手続きを済ましてくるから少しの間ここで待っててね。あ、もし何かあったらココのサイレンボタン鳴らしてね、飛んでくるから」

春賀はそう言うと扉のそばにある赤いサイレンボタンを指さす。

「、、、、。」

「まあ、君には必要ないか」

玲奈は常に無表情で春賀を見つめている。半分呆れながらため息を吐くとそのまま春賀は扉を開けて出ていこうとする。

すると、あっ。っと声を上げ振り返り

「その制服よく似合ってるね☆」

とウインクをして出ていった。

バタン

その光景を無表情で見送り、マグカップを持つとミルクを口に運ぶ。

(うるさい人だな)

(悪い人ではなさそうだけど、、、)

(私のこと知ってる風だし、、、)

(、、、、、、。)

(、、、どこまで知ってるんだろう)


そう思いふけっていた瞬間


パリーーーーーン


4階の窓が割れたと同時に黒髪の少年が飛び込んでくる。

玲奈は割れた方を見るでもなく、飛び込んできた少年に目を向けるでもなくただマグカップを持って一点を見つめていた。


「ーっはっ、はぁ」

少し息を切らし飛び込んできた少年は見事に着地すると汗を手で拭って立ち上がる。

そしてワインレッドの美しい瞳がその部屋に唯一いた人間、玲奈をとらえる。

玲奈は何事もなかったかのように持っていたマグカップを口に運びミルクを飲む。


「、、、見慣れねえ顔だな。お前、こんな所で何してやがる!?」

その美しい美少年の顔は歪み、機嫌が悪いのが目に見て取れる。

「、、、、。」

ズズ

玲奈は視線を動かすわけでもなく、ただミルクを飲んでいる。

「、、、、ーっ、答えろ!!」

ドサ

少年は歯を食いしばるとそのまま瞬間的速さでソファーに行き、玲奈をそのまま押し倒す。

左手は首を囲うように掴み、右手は長い黒髪を人房掴んで引っ張っている。

マグカップは手から零れ落ち、少し残ったミルクを流して床に転がった。

「何してるかって聞いてんだよ!こんなとこ滅多なヤツが入れる場所じゃねえ。、、正直に言わねえとこのまま殺すぞ」

声は至って冷静だが、気が荒ぶっているのかその少年の目は年相応ではなく、いつでも本当に殺してしまうほどの殺意を感じる。

しかし玲奈は怖がるわけでも言葉を発する理由でもなく、ただ無表情でその少年を見つめている。

今までここまでして怯えたり泣かなかったりしない者はいなかった。少年は少し驚きながら一つの疑問を口にする。

「、、、、てめぇ、何者だ!?」

「、、、、。」


次の瞬間ーーーー


バリーーーン!!

もう一つの窓から次は金髪の少年が飛び込んできた。

パラパラとガラスの破片を落としながら立ち上がるその少年の声はいかにも楽しそうだ。

「ふぅ、着地成功!はぁー楽しかった!スッキリ〜」

「遅かったな、レン。無駄に遊びやがって」

体制を変えることなく顔だけを向けるとそのレンと呼ばれた少年を睨む。

レンと呼ばれた少年は特に気にするでもなく笑いながら答える。

「酷いな〜、翔。そんな事言うなんて。」

「間違ってねえだろ」

「まあ半分あってるかな?半分間違ってるけど」

「、、、相変わらず読めねえ野郎だ」

意味深な表情を浮かべるレンに翔はより怪訝な表情になる。

「、、ところで、さ。なにしてんの?」

当然か、ソファーの上の光景にレンは疑問の声を漏らす。

「、、、ここに来たらコイツがいた。」

「へえー、ここに一般生徒がいるなんて珍しいね」

「何してんのかって聞いても無表情で何も言わねえから、こうして聞いてる」

「ふうーん。制服着てるし新入生かなにかじゃないの?、、、ってか何で魔法使わないの?その方が早くない?」

「さっきから使ってるんだが調子が出ねえのか発動しないんだよ」

「、、、、。」


「、、、離して」

「!!」



「玲奈ちゃん!!!」

バーーーーン!!!

春賀が扉を開け、部屋に入ろうとした瞬間、翔が扉横の壁に飛んでくる。

ダンッ!!!!

「うわぁ、翔くん!?」

「ヒューー」

春賀の驚きと同時に、レンの凄いと言わんばかりの口笛が部屋に響く。

「ーっ、なんつーチカラ、、、だ。」


春賀は飛ばされ頭に手を回す翔と、ソファーの前で座り直す玲奈を見やりすべての状況を察する。

「なるほど、、ね。」

(状況から察するに玲奈ちゃんになにかをしたんだろうけど、、、、相手が悪すぎるよ)

「大丈夫かい!?翔くん!」

「うるせえ!!てめぇ、よくも」

「あーあ」

眉間にシワを寄せ、怒りをより露わにした翔を見て、春賀とレンは状況を察した。

「まずい!!!伏せて!!!」

ドオオオオオオン!!!

翔を核として4階のその部屋は大爆発!!

残っていた窓もすべてチリに変わり、ウウウウウウと火災報知器のサイレンが鳴り響く。

「ーっ!」

強い爆風にのまれ、思わず玲奈の表情も崩れる。

「あーあ。こんなことしてどうなるかわかってるの?危なくないうちにここを離れた方がいいんじゃない?翔くん」

日常茶飯事とでも言うように春賀が言い放つと爆風がおさまらないうちに翔とレンは窓から飛び出していった。

(ふうん。玲奈、、、か。翔にあんなことする子初めて見た。面白い子みーつけた)

レンは脱出の直前に玲奈を見ると楽しそうに出ていった。


サアアアと窓からの風で爆風は流れていく。

「ふうー。やれやれ。ごめんね、騒がしくなっちゃって。4階に彼・翔くんが入っていったのを見て慌てて戻ってきたんだ。」

「、、、、。」

玲奈は無表情で制服についたホコリをパンパンと払っている。

「大丈夫?何もされなかったかい?」

「、、、、。」

(やれやれ、なかなかそう打ち解けてはくれないか)

「じゃあ、入学手続きも済んだし君の教室に行こうかな」

少し付き合いの難しさを感じながらそれを表に出すことなく笑うと、爆風で空いた扉の先を指さす。

そう言って歩きだす春賀の後から玲奈が言葉を発する。

「、、、その、ありがとう。春賀先生。ミルクもだけど、助けに来てくれて」

「!!」

振り返った春賀は予想もしていなかったその言葉に驚きを隠せない。

「、、ごめんなさい。私こういう時、どういったらいいのかわからなくて、、、」

先程までの無表情とはうって変わり、そこにいたのは可愛らしい年相応の女の子の顔だった。

「そんな堅苦しくしないで。ハルでいいよ。こちらこそありがとう、玲奈ちゃん」

そう言い、頭にポンと手を置くと玲奈は安心したようにふわっと笑う。

(なんだろう、この感じ、、、、)

(少し、、ほっとする、、、、)

「そうそう!その笑顔!難しく考えなくても思ったこと、そのまま口にしたら良いんだよ。そしたら皆優しく返してくれるからさ。そうやってコミュニケーションは生まれるんだ。」

「さあ行こう!クラスのみんなが待ってるよ!」

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