与えられた名前

 彼ははじめイプートと呼ばれ、その名は父であるパンヒルと母であるメノエンマによって与えられた。彼らの一族が持つ蝸牛を思わせる肌によって、ジュアマパム王の治世で祓い清めのため捕らわれ、二四五八三番の刺青を与えられた。トーパルの軍勢がジュアマパムを破ると解放されたが、自食のため体の多くを失い、自分の名を忘れていた。皮膚に傷跡でない部分は残されておらず、傷跡に重ねられた傷跡が、見る者を劫罰の幻に誘う紋様を形作っていた。

 三年にわたる放浪の後、叔父であるザンカタによって見出され、呼びかけられたことで、自分の名を思い出し、自分に名があることを思い出した。ザンカタは何度も彼をイプートの名で呼び、両親の古い写真を見せた。

 彼は学校に戻されたが、ほどなくして、ザンカタと、教師たち、学友たち、一度でも彼の名を呼んだ全ての者を殺し、二四五八三番の刺青を食い散らかし、ゲネレの山に逃げ、そこでナの者となった。


 次に並ぶものは、それから彼に与えられた名である。


「ルンウタ61人殺し」「ルンウタの獣」「ゲネレの禍」「ニッテパの怒り」「軍団長吊るし」「ジュアマパムの禍」「軍勢をあざける者」「さまよいて殺すもの」「這いずる傷口」「許さざるもの」「永遠に呪うもの」「忌むべき者の神」「まなざしを血で覆うもの」「忘れえぬもの」「慈悲によりて殺すもの」「劫罰を与えるもの」「最後に裁くもの」「ただ呪うもの」「首を集めるもの」「断罪するもの」「子と獣を殺さぬもの」「城壁を憎むもの」「第一の神敵」「血の滝をもたらすもの」「能弁なる叫び」「七王殺し」「国々を平らげるもの」「牧場主」「国々を刻むもの」「滅びを蒔くもの」「血の流れ」「さよなら様」「名を隠すもの」「灰に変えるもの」「救済を取り消すもの」「名を食うもの」「月を隠すもの」「怒りを忘れぬもの」「はらわたを混ぜるもの」「呼び覚ますもの」「大地獄絵巻」「永遠に呪うもの」「証だてるもの」「日没をもたらすもの」「歴史を燃やすもの」「天地を隔てるもの」「血により苗を育てるもの」「老いたる死神」「滅ぼして呆けたるもの」「気まぐれで巨大なもの」「多くの名で伝えられるもの」「理を矯めるもの」「多くの顔」「嘆きし主」「最初の王」「最も年古りた闇」「獣を知るもの」「雨雲を伴うもの」「歩ききたる龍」「天下第一古物語部上人」「名忘れ者」「われらの最初にして最後のもの」「お眠り様」「お鎮め大石」


 ニーマル・ムーヌールスによると「雨雲を伴うもの」が人間と関わることは稀だったそうだが、ただ一人だけ可愛がられ、超常の力で遊んでもらっていた少年がいたという。少年の名はイプートといった。

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ナ界綺譚 日曜ヶ原ようこそ @nichiyounoyoru

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