学生時代に戻りたい。(あるいは、あわよくば女子高生になりたい)

「海行こう」「いいねー」みたいな会話は若い時分にはよくあって、だいたいそういう会話が発生するのは天気のいい日だったりします。
 本作「女の子が海に行く話」でもそれは例外でなく、冬の晴れた放課後の屋上から物語は始まります。

 ところで皆様は、「海行こう」「いいねー」を実現させたことが何回ありますか?
 恥ずかしながら、筆者はあんまりないです。
 だって学生時代って基本的に時間なんて無限にあると思っているし、計画を立てるのって結構体力を使うし、何なら別に絶対海じゃないとダメってわけではないのです。
 花見でもいいし、クリスマス会でもいい。
 何なら山でもスペースワールドでもなんでもいいのです。

 結局大事なのはどこに行くかではなく誰と行くかで、だから本作の主人公であるミキちゃんとアサミも、海に行くことについて真剣に考えようとはしません。
 でも、学生なんてそんなものでいいし、それがいいのです。
 
 本作では、ミキちゃんとアサミの何気ない会話を骨子として、ゆったりとした流れで時間が進んでいきます。
 そこには魔王を倒すとか、世界を救うような目的意識はなにもなくて、ただただ丁寧に二人の関係性が描かれていくのです。
 作者の描く女の子は、瑞々しく、どこか儚い印象を与えます。
 丁寧で必要十分な文体が出力する女の子たちは、息遣いが聞こえるほどに存在感を持っていて……いや、もうなんか……レビューっぽく喋るのけっこう大変なんでぶっちゃけるんですけど、すごく、すごい可愛いのです。すごいすごーい!

 なんというかこう、作者の描くキャラクターからは「銀髪とかオッドアイとかエルフとかそんなんいらんし。十代の女の子ってだけで十分かわいいし」みたいなパワーがあるのです。
 ていうか説明が難しいのでもうこんなレビュー読んでないでさっさと本編を読んでほしい。
 ビジュアルのケレン味だけに頼らないストロングスタイルカワイイはホント身につまされますので、書き手の方に是非読んでほしいと思います。
 

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