回された歯車を選ぶのは

主人公は殺し屋。ヒロインはロボットと人の間に生まれた存在。
本来なら噛み合うことの無い歯車が結びつけられ、運命という名のギアが加速するーーと、ありきたりな謳い文句を載せるならこうなるのでしょうが、本作のギアは違法改造でもされているのかというくらいの加速度で回り出します。
なにせいきなり最初からクライマックス。この結論に至る道程を追うのが、とても楽しい。

情報量が多くなりがちなSF作品において、まるで洋物映画でも見ているような爽快感を味わえるのは、ひとえに作者の文章力の高さと、登場人物達の軽妙洒脱な言い回しの巧さにあるのでしょう。
「全員口が悪い」のタグに偽りなく、出てくる人物は誰もが口が悪い。ただ、それを褒め言葉にしたくなるような「洒落た」言葉回しは、永遠に読んでいたくなるほどです。
1話の量が少ないのでサクサク読め、気がついたら前述したように加速しまくった歯車から目が離せません。
だからといって世界感が薄いわけではなく、むしろ濃い。濃厚なSF世界をたっぷりと堪能できるので、気がついたら脳内に街の風景や人物が行き交うところが浮かんできます。


伏線の張り方、回収の仕方。その結末としてあるべきところに歯車が組み込まれ、物語を美しく組み上げていく様は圧巻です。
一度読み出せば最後までトップギアに入りっぱなしの本作、是非とも読まれることをお薦めします。

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