おいでませ、ペンギンの國

本作における主人公はペンギンである。それもただのペンギンではなく「ミニチュアペンギン」という名称の、癒しの力を持った暴力的なまでに可愛い新種のペンギンだ。
まるで人を癒し、寄り添うためだけに生まれてきたようなペンギンは「カミサマペンギン」という異称とともに、あっという間に国民を虜にしていく。

――だが、果たしてそんな都合の良い「カミ」はいるのだろうか?

得てして、神と呼ばれるモノは大なり小なり対価を求める。それが賽銭であったり人柱であったりと様々だが、何のデメリットもなくその恩恵を享受できるというのはあまりにも都合が良くはないだろうか。

「美味しい話には裏があるんですよ」という作者の皮肉が聞こえてきそうな見事なオチに、私のような捻くれ者は思わずニヤリとしてしまった。
一見すると非常に可愛いが、その実、内容はしっかりと作者お得意の清潔なディストピア味が詰まった一作。今回はそこに噛みごたえのあるハートフル要素が足された形になり、なんとも味わい深い読み心地になっている。

レビューが読者候補の楽しみを奪うわけにはいかないので、この愛らしいペンギンがもたらした結末については割愛するが、「かわいい」だけでは物足りないと思っている方には是非とも読んで欲しい一作だ。


また、レビューとして蛇足となるのは百も承知だが、本作を気に入った方には是非とも同作者の連作中編「願望交換局」を読まれることも強くお勧めする。