時は室町、ところは鬼が出ると噂の山の中。語るは葛籠負いし奇妙ななりした旅の僧。
僧に興味を引かれた男は、麓に案内するまでの短い旅路を共にする中でとある鬼の話を聞く。それはこの山に住む鬼とはまったく別の、地獄の鬼。親より先に死んだ子らを責め苛む賽の河原の獄卒と、誰にも死を悼まれずに石を積み続ける鬼子の話だった。
鬼の目にも涙とはよく言ったものだが、それは地獄の鬼には許されぬ。鬼子に情けをかけた鬼もまた、共に地獄に堕ちたという。
――では果たして鬼とは、地獄とは。
仄暗い和の雰囲気が香るにも関わらず、読みやすい文体で短い中でも世界観にどっぷりと浸れる本作。
和風な作品やお伽話が好きな方は、読むことを強くお勧めします。
昔話風の文体で、琵琶の音にのせられて最初から最後まで歌いあげられるような筆致で描かれる、旅の僧の語りが印象的な短編。これが長編の一話目であってほしいと思うぐらい、更なる続きを読みたくなる作品です。
和やかな昔話のようであり、これから何が起こるのかわからない深淵を覗き込むような。そこはかとない不気味さと、美しさが交差します。
鬼が出るという山に向けて足を踏み入れようとするは、変わった出で立ちの僧が一人。室町の戦乱の世の中で、旅の僧の存在は珍しい事ではないけれど、一人の男が声をかけてきて……。という導入からはじまります。
男に向けて語られる話と、その物語の主人公たる子供の事、そして鬼という存在について。
ああ、これは!と思わせる見事な構成と話のオチ、残酷だけどどこか物悲しくて妖艶な雰囲気もあったり。和の雰囲気溢れる物語がお好きな方、必見です。