歯車のエストレ

淡島かりす

episode0:いつかのエピローグ

0.運命の歯車

 遠くでカラスの鳴き声がする。夜明けはすぐそこまで迫っていた。

 ビルとビルの隙間から見える地平線の出来損ないは、朝日の赤を滲ませている。


「約束よ」


 男の前で少女はあでやかに笑って見せる。

 一昔前に流行した広告のキャッチコピーのように、それは不自然な調和を持っていた。


 ハロー、ハロー、死んでほしかった。

 この世の終わりで殺してあげる。


「私を殺してくれるでしょう?」


 朝日が迫る。

 男はまるでそれにき立てられるかのように、手の中の銃を握りしめた。

 血で濡れた銃身を見下ろして、男は短い溜息をつく。

 その脳裏には、数日前に彼女と出会った時のことが鮮やかに思い起こされていた。

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