全員、狂人。

(炎上する神社)
(本殿から這い出てくる火傷だらけの男)
(陰のあるイケメン)

 このレビューでは、本作「もこ神さまのいるところ」が如何に面白い作品か、不詳筆者がネチネチネチネチ語っていきたいと思います。
 あまり褒め殺してもよくないのではないか、とも思うのですが、本作に関しては作者を最大限に調子に乗らせた方がいいものが出てきそうな気がします。

 では、「もこ神さまのいるところ」とはどういった作品なのでしょうか?

 一言で言えば、「狂人が描いたギャグ作品」です。
 いわばアホのドグラ・マグラ。

「もこ神さまのいるところ」では、主人公である桐野くんが、神さまを拾い、そして捨てるところから始まります。
 正確に言えば、自称神さま(女の子)のパンツの真ん中のリボンを引っ張ったり、胸の大きさをけなしたり、「ラッキー、ええもん拾ったわ」とか言いつつ、気軽に存在を失念するのです。

「なに言うとんねんコイツ」とお思いでしょうが、レビューを書いているぼくも自分で言っていて意味がわかりません。
 でも本当なんだもん。

 さて、ここまでレビューを読んでいただければわかる通り、主人公はふつうにサイコパスです。
「もこ神さまのいるところ」において、大体の登場人物は軒並み頭のどこかがおかしな事になっているのですが、こと桐野くんに関しては頭一つ抜けています。

 自称神さま、事件を捏造する警察官、電子レンジで感電する巨女。
 それらの並み居る狂人たちに相対して、桐野くんは微動だにしません。「まあこういうものだからしょうがない」くらいの感じで、スルスルっと流していくのです。

 本来ギャグ作品というものは、ツッコミ担当者というものが必需品なのです。
 なぜなら人は何かを読む時に、感情をそこに注ぎます。
 ツッコミ担当は読者の感情移入先であり、代弁者なのです。

 けれど、この作品にはそういった存在が居ない。(今後出てくるのかもしれませんが。はやくきて)
 ツッコミが居ないということは、ブレーキがないということを意味します。
 事件を捏造する警察官は捏造をやめようとはしないし、感電する巨女は感電しっぱなしで喋るし、神さまはずっとアホのままです。
 けれど、桐野くんは動じません。
 大丈夫かコイツ。

 では、なんでそんな狂人ラノベが面白いのかというと、

 なんで面白いのかというと……というと……なんでやろ……面白いのです。

 多分、筆者のリズム感ある文体によるところが大きいのでしょう。
 ブレーキの壊れたトロッコのごとく、矢継ぎ早に繰り出されるナンセンスは、読者を無慈悲に轢殺し、振り返ることはありません。
 とにかく勢いがあるのです。

 そして、「勢いがある」ということは、技術がないことを意味するかというと、全然そうではないのです。
 むしろそれは唸るほどの技巧によって生み出された「勢い」で、つまりはイニシャルDなのです。
 ギリギリのラインを攻めた四輪ドリフトで、笑いのトロッコは猛烈な速度で読者を轢き殺しに来ます。

 もう、こんなのは小説ではなくて薬物とか暴力の類です。
 暴力シャブトロッコダンプカー文章です。
 だれか助けてくれ。
 そして、作者は早く次の話を更新してくれ。
 ぼくはもうもこ神依存症患者なのだから。

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