春休物語

ヤマ

壱日目

 ――この物語は、僕の、そして、私の、限りなく長く感じた、春休みの物語である。

 伝えたい思いはたくさんある。少しばかり、我々の物語に目を向けてはくれないだろうか。




 ――目を覚めると、そこはいつもの部屋だった。時計の針は、12時をとうに超えていた。

 何も変わりなく、だが僕の心だけは変化を催していた。

 ――つまり、あれだ。『春休み』というやつだ。初日なので、つい、寝すぎただけだ。

 しかし、問題もある。日課となっていた『神社参り』を、今日は昼から、しかも、今日は明日の祭りの前日準備によって、神社には13歳の僕が入れる状態ではないのだ。

 しかし、日課をさぼってしまっては、それが癖になってしまう。今からでも行くべきだろう。

 ――ベットの棚にしまってある眼鏡を手に取り、軽く伸びてから眼鏡をかける。

 ゆっくりとベットから降りると、僕は意識を耳へ傾けた。

 幸い親はいないようだ。これで神社に向かうことができるわけだ。

 何故、親がいると抜け出すことができないかには、触れないでほしい。

 ともかく、パジャマのまま、スリッパで駆け出し、神社に向けて走った。

 ――案の定、というべきか――やはりたくさんの人、それも大人たちでガヤガヤとしていた。

 しかしそれは参道だけで、その奥には人がいないことが肉眼で分かった。だから、参道を通らず、草むらに身を隠し、腰をかがめて進んだ。




 ――見た通り、大人は誰一人いなかった。これでようやく、今日分の『神社参り』ができるわけだ。

 ほっと安堵し、石の道を歩く。

 二分もしないうちに神社が見え始め、同時に僕は驚愕した。

 人が――しかも、僕と同じぐらいの、不思議な衣服をまとった女の子がいたのだ。

 あまりに予想外だったので、僕は立ち尽くしてしまった。――あんな少女、この町では見たことない。

 サーッと風が流れる音に合わせ、少女が顔を上げ、こちらを振り向いた。

 黒くなびいた髪が光を吸収して輝いて見える。振り向いた顔の造形は、この町の誰よりも美しかった。白い肌が光を反射しているように見える。高い鼻に、少し垂れ目な瞳、そして何より印象的だったのは、頭の左上に着けているお面だった。


 ――それが、僕と彼女の最初の出会いだった。

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