疲弊のリアリズム

「手のひらで踊っているのはこいつらではないぞ。私と貴様だ……。この私の姿は未来の貴様の姿なのだ……ふはははは」
 タクティクスオウガ(クエスト)に、そんな台詞が出てくる。主人公が所属する少数民族を虐殺し続けたある権力者が、主人公陣営の反撃を受けて遂に処刑される時の最期の台詞だ。こいつら、とは民衆そのものを示し、貴様とは主人公の主君を指す。主人公本人ではないので念のため。
 さて、本作は異世界転生における非常に皮肉な、しかし大いに考えられ得る可能性を示唆している。本作の非凡な点は、現実に同じ立場に置かれたなら大抵の人間は主人公と同じ判断を取ると読者に思わしめることに尽きるだろう。更に踏み込むと、誰かが指摘せねばならないことでもある。
 私は異世界転生そのものをなんら否定や非難するものではない。ないが、テンプレートに極端に頼り過ぎると、本来現実を離れて自由に活躍するはずだった痛快な冒険の数々が非現実のための非現実に矮小化されかねない……身も蓋もない言い方をすると金太郎飴のように似たり寄ったりな話ばかりになる……のを危惧してもいる。
 だからこそ、その冒険は誰のためなのか、なんのためなのか、錨のように安定した手がかりを本作はもたらしてくれる。

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