5 大冒険とグランディア
■夢と浪漫と冒険活劇
水色と黄色のストライプの竜を助けに行く「エルマーのぼうけん」
人間の子供と吸血鬼の子供の友情を描いた「ちびっこきゅうけつき」
少年海賊と魅力的な仲間たちの冒険「かいぞくポケット」
本の世界に飛び込んで冒険を繰り広げる「はてしない物語」
私は幼い頃、夢中になってファンタジー小説を読み漁っていた。
私が求めていたのは冒険で、非日常で、夢と浪漫とファンタジーが人生のすべてだった。そんな私がゲームに、大冒険を描くRPGに熱中するのは当然とも言える。
私は数あるゲームの中でもRPGが好きだった。子供の頃に夢中で遊んで、今でも心から愛してやまないゲームが無数にある。
1997年に発売されたセガサターンの傑作、グランディアもそんな作品のひとつだ。
■グランディアのテーマ
当時、ゲームを予約するとその場でもらえる予約特典が存在した。
グランディアの特典は体験版(グランディアプレリュードというタイトルだった)とミニCD付きのパンフレットで、体験版とパンフレットはもうないがミニCDは今も大事に取ってある。
ミニCDに収録されていた「グランディアのテーマ」は、私の心を一瞬で掴んだ。
大冒険の始まりを予感させる、壮大なオーケストラ。音楽にこめられた全身全霊の冒険活劇。作曲は岩垂徳行氏。
まだゲーム内容も知らずセガサターンも持っていなかった(のに、予約した)私はその曲を聞いて感動した。
音楽を聴くだけで主題がわかる。これがグランディアのテーマなら、グランディアというゲームは冒険活劇だ。
幼い冒険心を燃え上がらせた私は遊ぶ前から、グランディアの熱心なファンになった。
カセットテープに録音して、何度も何度もグランディアのテーマを聞く。
学校へ提出する宿題の作文を「グランディアのテーマがいかに素晴らしいか」という内容で書きまくって教師を困惑させた覚えがある。
発売前からグランディアに対する期待は天井知らず、指折り数えてグランディアの発売日1997年12月18日を待った。セガサターンも持っていないのに。
とにかくどうしても遊びたかった私は、発売日後にセガサターンを持っている幼馴染のK宅に入り浸って、グランディアをやらせてもらった。
■歴史と記憶に残るRPG
グランディアはキャッチコピーも優れている。
『歴史に残る映画があるように、歴史に残るRPGがある』
すばらしい言葉だ。歴史に残る映画があるように、歴史に残るRPGがある。
発売前から自分の中でハードルを上げまくったグランディアは、結論から言えばそのハードルを軽々と飛び越えて行った。
セガサターンの名作として歴史に残り、今も多くの人々の記憶に残っている。
冒険の始まりはパームの街。
まずこの街のつくりが素晴らしい。
パームの街は全容が明かされず、主人公であるジャスティンの移動できる範囲は工業地帯であるパームの街と港の一部に限られている。
ゲームというのは、当然だがマップに制限がある。どんなゲームであれプレイヤーの動ける範囲は決まっており、当時のゲームでは範囲がそれほど広くなかった。特に私はスーパーファミコンのゲームに慣れ親しんでいたので、飛行船や鳥に乗って世界を一周できるというのは珍しいことではなかった。
広い世界を冒険していると感じるのは、あくまでも脳内の出来事。
特撮でヒーローと敵怪人を見るときと同じだ。ヒーローも怪人も衣装、中身は人間だと気付いている。
だが、脳は補完する。
彼らが本当は人間で、見ているものは番組だとわかってはいるが、脳が錯覚をするからヒーローと怪人の戦いは手に汗にぎるのである。
ゲームのマップも同じだ。キャラクター数コマ分の距離を、何時間もかけて歩いたのだろうと感じる。だから余計に世界を広いと認識する。
パームの街も全容が明かされていないからこそ、広さを感じる。
ジャスティンが移動している範囲はあくまで彼の生活区の範囲なのである。
グランディアの、パームの街はとにかく広い。
そして、街の人々が生きている。
■情報収集ではなく、会話。
RPGにおいて街の人たちと話す目的は、情報収集のはずだった。
ゴールであるエンディングまでたどり着くための聞き込みの調査。
だがグランディアは違う。街の人たちと会話をしている。
誰も、街の西側にある洞窟に何が眠っているだとか、そんな話はしない。
足しげく食堂に通う労働者のおじさん。
ハイキングを何かの王様と勘違いしている少年ティオ。
新大陸の少女と文通をしているおじいさん。
彼らとの会話で得られるのは「主人公の冒険をゴールへと導くための道しるべ」ではなく「彼らがここに生きている」という実感。
情報収集ではなく、会話。ゲームの攻略には何の役にも立たない。
でもだからこそ、グランディアは街の人々との会話が面白い。
グランディアには語り尽くせないほどの魅力があるが、この住民との会話も大きな魅力のひとつだ。
小説を書いたことのある人なら、人物描写に苦労した覚えがあると思う。ただのキャラクターではなく生きた、血の通った人間にするためにどうやって表現すればいいのか。
グランディアはゲームという分野ではあるが、名もない脇役にいたるまでしっかりと生きた人間として表現されている。
広い世界、広い街。そこに暮らす人々。主人公のジャスティンもまた世界の住人の一人。偉大な冒険者だった祖父や父に憧れ、自分も冒険者になりたいと願う少年。
しかし時代は移り変わり、新大陸では世界の終わりにある巨大な壁『世界の果て』が見つかる。世界に果てが見つかったことで冒険者の時代は終わりつつあった。
それでもジャスティンは東を、世界の果てを目指す。
誰も見たことのない、世界の果てを越えた先を目指す。
大冒険活劇である。
■このエッセイは3000文字。
と決めたのに、主人公が冒険に出る前の思い出だけで2700文字も書いてしまった。
数ある名作RPGの、数ある名シーンの中で、ジャスティンの旅立ちは群を抜いて魅力的だ。
旅に出る不安、夢を追う期待、故郷を離れる寂しさと新しい場所を目指す喜び。そういった複雑に入り乱れるジャスティンの感情を、見送る母の心境を、グランディアは見事に表現している。
ゲームという制限の中で、グランディアはジャスティンの冒険を徹底的に描き切っている。
マシンのスペックがあがり、ゲームの表現は当時からは考えられないくらいに広がった。
ゲームの技術は広い世界の表現を「脳内補完」ではなく、文字通り「どこまでも広がる広い世界」として作り変えるほどに進化していった。
しかしグランディアは今から20年も前に、当時の技術で広い世界と大冒険を描き切っている。本当に冒険活劇の傑作だ。
もし遊んだことのない方がいれば、ぜひ遊んで欲しい。
PS版ならPSアーカイブスで買える。617円。
ゲーム機をお持ちでない方は、小説版のグランディア(著:細江ひろみ)もオススメだ。
私の未熟な腕では、このゲームの魅力を伝えようとしたら3000文字ではとても足りない。世界観や音楽、シナリオ以外にも戦闘システムや育成システムも非常に優れていて魅力的なのに。
どのように書いても文字数が足りないので、私はグランディアが冒険活劇の傑作だということを伝えたい。
しかしグランディアは公式に、たった一言でこのゲームの魅力を紹介している。
グランディアをあらわす言葉はこれしかない。
『忘れられない冒険になる』
今日はここまで。
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