8 クソゲーとオクトパストラベラー
◾️懐かしのドット絵?
クソゲーを回避したければ、ゲームを発売日に買わなければいい。他者の評価を待てばクソゲーを掴まされることはない。
しかし私はゲームを発売日に買う。ダウンロード版を前もって予約しておき、発売日の0時から遊ぶ。
ゲームにも鮮度がある。発売日を心待ちにして当日に買うゲームが一番新鮮で面白味を感じる。だから発売日に買う。
結果クソゲーを掴むこともあるが、重要なのは買うか否か「自ら判断する」ことだ。
判断に際して「これもしかしてクソゲーでは?」と直感する、いわゆる地雷臭を感じる言葉がいくつかある。
豪華声優陣、あの◯◯のスタッフが集結、タイトルが「新〇〇」や「NEW〇〇」そして「〇〇シリーズXX年ぶりの完全新作!」
極め付けは「懐かしのドット絵」だ。
◾️ドット絵だから、なんだ。
絵は、絵だ。
ドット絵だろうと3Dだろうと技法の違いに過ぎず、ドット絵だから良い、3Dだから悪い、とはならないはずだ。
ドット絵なら内容がつまらなくても構わない、などと言う人はいないだろう。表紙さえ可愛ければ売れると(作家にまで)言われたライトノベルだって、読者は本文を楽しんでいるはずだ。たぶん。
ドット絵を売りにするということは、他に推せる要素が薄いのではないか? と、私は懐疑的な目で見ている。
百歩ゆずってドット絵を売りにするのは良いが、ドット絵のキャラクターを3D的に動かしてて「懐かしのドット絵」とか宣伝するのは何を考えているんだ? カニを食べたいと望んでいる客にカニカマ出して納得すると思っているのか?
などと捻くれて猜疑心に凝り固まる私の心を、オクトパストラベラーのPVは一撃で粉砕した。
◾️奇跡のグラフィック
スイッチ発表当初、まだ仮題だったオクトパストラベラーのPVを観た私は興奮した。こんなにも美しく3Dと融合したドット絵が動くことなどかつてあっただろうか。いや、ない。
昨今のゲームにありがちな、ドット絵のキャラクターが3D背景から浮いてしまう感がない。3Dでつくったキャラクターにドット絵を貼り付けただけ感もない。
2Dと3Dが完全に融合している。これは奇跡だ。奇跡が起きた。滅びたはずのドット絵が完全な進化を遂げて動いている!
そうして多大な期待を寄せた私は早々に家電量販店でスイッチ本体を予約し、興奮さめやらぬまま「スイッチを予約してきた」という短編小説を執筆しカクヨムに投稿した。人は何故ゲームを予約するのかという深淵な哲学的問答へひとつの回答を示した。と思う。
◾️指折り数えた発売日
グラフィックは綺麗だが内容はイマイチなゲームはいくらでもある。オクトパストラベラーも、もしかしたらその類かも知れない。一抹の不安を残しつつ、私は発売日当日を正座して迎えた。そして遊んだ。不眠不休でのめりこんだ。
◾️美しいグラフィックだけで終わらない。
オクトパストラベラーは無数の魅力で溢れていた。美しい映像はもとより、キャラクター固有のフィールドコマンドを使用した街の探索、街の住民ひとりひとりに割り振られた設定、美麗な景色の中に隠された宝箱探し、ストーリーの邪魔をせずつい手を出したくなる絶妙な長さのサブクエスト。
中でも最も魅力を感じたのは「シンプルかつ奥の深い戦闘」を最高のバランスで実現していることだ。
◾️最高の戦闘体験
ともすれば単調な作業になりがちなコマンドバトルに、オクトパストラベラーは「ブレイク」と「ブースト」というシステムで高い戦略性をもたらしている。
特定回数だけ弱点を突き、敵の行動を止めるのが「ブレイク」で、ポイントを消費して通常攻撃の回数を増やす(またはスキルの威力を高める)のが「ブースト」だ。
ブレイクした敵は「ターン中」と「次ターン」の行動がなくなる。つまり敵の行動後にブレイクすれば次ターンの行動1回分。敵の行動前にブレイクすればターン中と次ターンの行動2回分を封じることができる。
敵の行動前にブレイクした方が圧倒的に有利だが、敵味方の素早さごとに行動順が決まっており、なかなか思い通りにブレイクはできない。
1回しか動きを封じられないとわかっていても、次ターンの攻撃で壊滅しかねない場面ではブレイクして1ターンだけ時間を稼ぎ、その隙に回復するなど立て直しを迫られる場面もある。
ブーストで消費するBPもブレイク狙いで通常攻撃の回数増しに使うか、スキルに割り振って大ダメージを与える為に残しておくか、戦況に応じて判断を迫られる。
ボスに対して状態異常が効くというのもポイントが高い。敵の攻撃力を減らすことで一撃死するような攻撃に耐え、次のターンに回復して立て直すという作戦もとれる。行動順を最後にする状態異常を付与して、その隙にブレイクを狙う戦法もある。
一見シンプルなブレイクとブーストのシステムが「誰が」「どのタイミングで」「どうやって」弱点を突くのか、戦局を左右するという大きな戦略性を生んでいる。
常に一手、二手先を考え戦略を立てて強敵を撃破する。時には敗北する。敗北してもボス戦の直前には基本的にセーブポイントがあるのですぐに再戦を挑める。
私がオクトパストラベラーに熱中したのは、この最高レベルのコマンドバトルが楽しめたからだ。こんなに何度も全滅しながら、手に汗握る戦いをRPGで経験したのはいつ以来だろう。
◾️あくまでもシンプルであると感じさせる。
上記のように戦略性の高いバトルだが、いきなり高い戦略性が要求される構造にはなっていない。最初に受けた戦闘の印象は「シンプルだけど楽しい」に過ぎない。
序盤、戦闘システムに慣れる前にあっさりと全滅した。なるほど上手くブレイクとブーストを利用しないと戦えないのかと理解する。物語を進めて仲間が増える。仲間が増えれば戦いの選択肢が増える。敵の行動パターンも増え、アビリティを覚え、ジョブを解放し、できることが増えるたびに戦略性は増していき、シンプルに見えていた戦闘の底知れない奥深さに気付かされる。
いきなり深いところへ引き込むのではなく、取っ付きやすい印象を崩さないままでユーザーがのめり込むようにできている。
HD-2Dと呼称される美しいグラフィックと洗練されたシステムのすべてが上手く噛み合い、
この絶妙なバランス感覚でつくられたからこそ、オクトパストラベラーは懐古主義的な「ドット絵を採用しただけのゲーム」に陥ることなく「最新の技術で進化した最高のドット絵を最大限に活用したゲーム」になったのだと思う。
◾️システム面ばかりではなくシナリオも良い
主人公の8人は別々の理由で旅をする旅人で、共通する目的はない。理由は利他的なものがあるとしても彼らは自分の人生の為に旅をしている。それが8人の魅力をさらに引き立てている。「主人公と7人の仲間たち」ではなく「8人の旅人」の物語なのだ。主人公たちに愛着が湧くほど、彼らの旅路の終わりを見届けたくなる魅力がある。
システムはシンプルに洗練し、そしてシナリオも綺麗なオムニバスとしてまとめあげている。オクトパストラベラーは2018年を代表する傑作RPGのひとつであることは間違いない。
たとえクソゲーを掴まされることがあろうとも、これだけの名作に出会える感動があるから発売日にゲームを買うのはやめられない。
今日はここまで。
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