9 クソゲーとリトルドラゴンズカフェ
◾️あの〇〇シリーズのスタッフ最新作?
クソゲーを回避したければ、ゲームを発売日に買わなければいい。他者の評価を待てばクソゲーを掴まされることはない。
しかし私はゲームを発売日に買う。ダウンロード版を前もって予約しておき、発売日の0時から遊ぶ。
ゲームにも鮮度がある。発売日を心待ちにして当日に買うゲームが一番新鮮で面白味を感じる。だから発売日に買う。
結果クソゲーを掴むこともあるが、重要なのは買うか否か「自ら判断する」ことだ。
判断に際して「これもしかしてクソゲーでは?」と直感する、いわゆる地雷臭を感じる言葉がいくつかある。
豪華声優陣、懐かしのドット絵、タイトルが「新〇〇」や「NEW〇〇」そして「〇〇シリーズXX年ぶりの完全新作!」
極め付けは「あの〇〇のスタッフが集結」だ。
◾️「牧場物語」生みの親が送るオリジナル完全新作
牧場物語が好きだ。畑を耕し、家畜の世話をし、街に降りて人々と交流して、山に登ってタケノコを採って温泉に浸かる。
癒しの全てを煮詰めたような牧場物語シリーズが好きだと知人に話したら「人を殺さないゲームもやるんだね」と人格を疑われるような発言もされたが、好きだ。
そんな牧場物語の生みの親が送るオリジナル完全新作。期待するなという方が無茶だろう。ゲームの出来がどうかなんて疑いもしなかった。例によってあらかじめダウンロードで購入し、発売日の0時を迎えると同時に早速遊び始めた。
◾️あれ……これ……ひょっとして……これは……
薄くないか?
最初に受けた印象はそれだった。
「カフェを経営するゲーム」か「ドラゴンと一緒に冒険するゲーム」なのだと思っていた。
ところが、カフェ部分はほとんど面白味がない。
料理を作る。
カフェのメニューに追加する。
接客をする。
料理は音ゲーのようなもので、タイミングが良いと完成品の出来が良くなる。質の良い材料や、エビグラタンでエビの代わりにザリガニを使うなど変わった素材を選ぶこともできる。
完成した料理はカフェのメニューに追加できる。客には好き嫌いがあり、甘い辛い熱い冷たいといった料理の特性により評価が変わる。
接客は、基本的にNPCがこなす。プレイヤーは仕事を手伝ってもいいし、手伝わなくてもいい。手伝わずにいると混雑して客が怒って出ていくこともある。
この3要素に意味が感じられない。
プレイヤーが効率良く店を回転させると、評判が上がる。NPC任せにするとうまく店は回らないが、少しは評判が上がる。
結局、上がる。
どんな料理をつくろうと何を並べようと、客の相手をしようが無視しようが、変わるのは「店の評判の上がり幅」だけ。
評判が上がるとどうなるのかと言えば、ストーリーが進む。適当に過ごしているだけで評判は上がるので、あまりやる気は起こらない。お金やレベルの概念もないので、カフェを経営する意味が薄い。
しかも評判には、ストーリーの進行度によって上限が決まっている。上限に到達してしまえば、お金もレベルもないのでいよいよカフェ経営をする意味がまったくない。
ではドラゴンとの冒険は?
冒険の目的は素材とレシピ集めだが、基本的に両方ともフィールドに落ちているものを拾うだけ。開始直後は行ける場所も少なく、家の周りをちょっと散歩して終わる。ドラゴンは一緒にいるだけ。
「カフェ経営」も「ドラゴンとの冒険」も、何もかも薄い。
ゲームのメインとなる楽しさが見つからない。
あれ……これ……ひょっとして……これは……
◾️でもお金、払っちゃったし
深夜、私は溜め息と共に布団に潜り込んだ。
期待を裏切られることだってある。もう慣れているよ。傑作を生み出したクリエイターの作品が毎回傑作とは限らない。今回は残念な出来栄えだけど、払ったお金は次回作へのお布施と割り切ろう……
もやもや考えること一時間。私は再び起き出してコントローラーをにぎった。
もう少しだけ遊ぼう。
これ以上の楽しみが増えるとは思えなかった。何しろ飽きる云々以前に最初期の段階で「やることがない」のだから。
しかし私は遊んだ。もう少しだけ遊んだ。
翌日も仕事が終わるとすぐに遊んだ。
やることがないな、と思いながら何時間も遊んだ。
もう少し、あとちょっと。
言い続けて続けるうちに、止められない程にのめり込んでいた。
◾️なんで?
ヨチヨチ歩きのドラゴンを連れて無意味に家の周りを散歩し、撫で回し、ハグをした。
集める必要もないのに魚を釣って、オマケ程度のカフェの手伝いをして、物語の続きを見る為にカフェの評価をあげた。
やることがないな、と思いながらも止められない。何故だろうか。私は考えた。
もしや金を払った為に無理して遊ぼうとしているのではないだろうか。
自分が損をしたと受け入れられず、あばたもえくぼと思い込もうとしているのではないか? プラスのバイアスで目が曇っているのではないか?
ゲーマーがそんな心の弱さに惑わされるわけにいかない。時間は有限で貴重だ。つまらないのならつまらないと非情に切り捨て、次のゲームを始めなければならない。世にはまだ見知らぬ名作が山ほどあり、これから発売される傑作も待っているのだから。
◾️このゲームはクソゲーなのか?
私は冷静になって考えた。
このゲームはクソゲーなのか。
何度考えても答えは「NO」だ。
悪い点ばかりに目が行く。なのにどうしてこんなにも私を惹きつけるのか。このゲームの魅力はどこにあるのか。
まず思い浮かぶのはドラゴンの可愛さだ。
これは遊び始めればすぐに気がつく。とにかくドラゴンは可愛らしい。主人公の後ろをヨチヨチとついてくる。放っておいても良いのだが、立ち止まって追いつくのを待ってしまう。物語を進めるとドラゴンは成長し、走る主人公に追い付けるようになる。邪魔な木々を破壊して、さらに遠くへ行けるようになる。やがては成長して主人公を乗せて飛べるようになる。
ひとりでは辿り着けなかった場所に行けるようになる。ようやく「ドラゴンと共に冒険している」実感が湧く。
最初は気になっていた画面のカクつきも、慣れればなんとも思わない。クレヨンで描かれたようなパステルカラーのフィールドと耳心地の良い音楽が、心に残る。拾うだけと思っていた素材集めも、次々と新しい素材が見つかるのでつい嬉しくなって探し回ってしまう。
登場人物も個性豊かだ。
食い逃げ野郎、キレて暴れる凶悪女、男なのか女なのかよくわからないナルシストのオーク。
見た目も中身も一癖二癖あるのは客も同じで、物語を進めると様々な人物がカフェを訪れる。
悩みを抱えた彼らが店を訪れて、少しだけ晴れやかな表情になって帰って行く。第一印象は最悪だった仲間たちも、奥深い人間性を見せてくれる。いつの間にか愛着が湧き、大事な仲間になっていく。
そうして物語を進めるうちに、やっと私は気がついた。
「このゲーム、面白い」
◾️飛び抜けた、わずかな魅力。
悪い部分はいくつもある。魅力はわずかだ。
だがこのわずかな魅力が何よりも飛び抜けている。カフェの仲間たち、訪れる客、そしてドラゴン。世界観と登場人物に掛け替えのない魅力があり、好きになってしまったらもう抜け出せない。
リトルドラゴンズカフェを良いゲームと感じるか悪いゲームと感じるかは、この魅力が合うか合わないかによって変わるだろう。
それにしてもこの世界観と人物で牧場物語つくってくれたら最高じゃねえ? と、往年の牧畜は思うのであった。
今日はここまで。
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