本作は35歳のうだつの上がらないサラリーマンが、失踪した母親を探すために不思議なお香を使い、現実世界と異世界を行き来する物語です。
最初は見慣れぬ異世界に戸惑う主人公でしたが、エルフの美女や親友の賢者との出会いを経て成長し、ボスモンスター討伐と母親捜索のパーティを率いることになります。
そして、母親との再開、仲間たちの秘密、お香にまつわる真実が明らかになったとき、主人公はある選択を迫られることになるのでした。
一方通行の転移ではなく、現実と異世界の両方で物語が展開する他、各キャラクターの視点によるオムニバス形式で展開されるようですので、異世界転移ものが好きな方のみならず、ファンタジー一般や恋愛ものが好きな方にもお薦めの作品です。
2章途中までの感想です。
普通の異世界物の場合は元の世界に戻るという選択肢が無い場合が多いところで、この作品は多少の制限はあれども二つの世界を行き来できるところに大きな魅力があります。
現実世界では冴えない暮らしをしていると、異世界の方で暮らしたくなる(=現実逃避)となりがちですが、安易にその選択をしないところがとても現実的です。数十年暮らした世界は、そう簡単には捨てられるものではありませんから。作者さんは「30歳以上限定~」という企画を立ち上げられるだけあって、とても大人な感性を持たれているのでしょう。
各章は1視点とキャラに愛着が湧きやすいメリットを残しつつ、章が変われば視点が変わる群像劇となっており、多視点から1つの場面を読み解くことで物語に深みが増すように構成されています。とても優れた手法と感じました。
みなさまもぜひ一度お手にとってみてはいかがでしょうか。
この物語は、現実に倦み疲れた主人公たちが、お香というアイテムによって魔法ありモンスターありの異世界にトリップするという異世界転移ものというジャンルに分類される内容ではあります。
異世界ファンタジーが隆盛を誇る今日、もはや現世の人間が異世界に移る物語も珍しくはなくなりました。その中に在ってなお、この物語は他の異世界転移ものとは一線を画する内容となっています。
主人公たちは現世と異世界を行き来しながら物語が進むわけですが、現世はもちろんの事、異世界の中でも厳然とした事実が彼ら彼女らの前には立ちはだかっているのです。
そう。本作では異世界も「できる事」と「できない事」の線引きがはっきりとした、ある種のリアリティが他作品との大きな違いです。異世界に向かう事を単なる逃避に貶めず、異世界の中にもある揺るがぬ現実を、簡潔な文体で表現してあります。
異世界パートでもややハードな展開や主人公たちの葛藤が描かれる訳ですが、簡潔かつ温かみの感じられる文体なので爽やかな読み応えです。また、異世界へのカギであるお香の謎や、フローマーという屋敷に暮らす大猫の存在など、ミステリー的要素も含んでいます。
異世界物なんてどれも同じ。そう思っている方こそ一読してはいかがでしょうか。
物語は現在、第四章の半ばまで到達している。
ここまで至る道程で、読者諸兄は幾度となく作者の仕掛けた罠に引っ掛かってしまっているに違いない…私もその一人に過ぎないのだが…。
第一章にて提示される『死なずに異世界転生をする』と云う方法論が目新しいが筆致が易しい故に、他がテンプレ(失礼!)のよくあるライトノベル的な展開で、物語が進んで行くのだと私は勘違いしていた。
第二章にて人称視点が変化し、別の側面から物語を補完するようにトレースするのかと少し驚かされたのだが、作者の罠はそのように単純なモノではなかった。
第三章において、脇役にしか見えていなかった人物の視点から語られる前述二章の解決編とも云うべきまとめと、エピローグの内容において…物語がそのまま終結していたとしても、何の齟齬もなく何の不満も出なかったに違いない。
しかし作者は第四章〜第七章までの継続を予告する。
章タイトルから全てを推し量ることなど不可能ではあるが、現実世界の住人を異世界へ誘う『呪い』の謎と…私が個人的に気に入っている人語を語らぬ猫人(?)の謎が解き明かされる時にこそ、この異世界の存在と成立要件が開示され…作者の意図した物語の本質が浮かび上がるのだろう。
小難しく書いてしまったのだが、物語自体は読み易く…そして恋愛も絡めた展開が主体となっている素敵な異世界譚だと私は思う。
一読者として願わくば、この物語が最終章まで到達し…最後の最後まで私を、そして全ての読者を驚嘆させてくれるよう祈るばかりだ。
2021.3.1
澤田 啓 拝
あなたは自分に失望して、世界に絶望して、異世界転移、または転生したいと思った事はありますか?
残念ながら黒井はあります。
努力が報われるのは学生まで、社会に出れば結果の出ない努力に努力賞はくれません。
さらには、ひたすら努力して上司に気に入られても、先輩達から嫌がらせを受けたり、いじめられて辞めざる終えなくなったり、私生活では結婚を考えていた彼女が亡くなったり、立ち直る為に付き合った彼女に彼氏がいて殴られたり、再会した同級生と付き合ったら、可愛がっていた後輩に寝取られたり、あはは。
ファンタジーよりファンタジーかよ! とツッコミを入れつつ、もう涙も出なくて笑ってしまう事がありますよね?
もうやってられないから、異世界転移でも、転生でも良いからやり直したいと思った事があります。そして、本の世界に逃げ込んでいる。
伴瀬リカコさんの『呪われてしまったけど。~異世界で恋愛もして、呪いの謎も解く~』は、行き来ができるタイプの転移のお話です。だけど、ただ転移するだけの話ではありません。
転移のその先が描かれている。変身願望のその先が描かれている。そこがとても良い。
黒井のように転移でも転生でも良いからやり直したいと思った事がある、思っているという人に絶対読んでもらいたい。
おすすめです(●´ω`●)
第3章まででひとまずの完結─という事で、そこまで読んだ時点のレビューです。
冴えない中年会社員、自分に自信が持てないOL、怪我をしてしまった元プロバスケ選手が、異世界で冒険をします。第1章~第3章が同じ場面をそれぞれが主役の視点で繰り返される構成です。
第1章では「やや荒っぽい描写かな?」…と感じるかもしれませんが、第2章、第3章と繰り返される事で「ここはこんな風になってのか!?」「こっち目線だとこんな伏線が!?」…と新たな発見を楽しむことができます。
そして最後は急展開&予想外の結末を迎えます。読みやすい文章なので第1章で止まらずに…ぜひ第3章の結末まで読了して頂きたい作品です!(>_<)