交差する二つの世界――それはどちらも現実だ!!
- ★★★ Excellent!!!
この物語は、現実に倦み疲れた主人公たちが、お香というアイテムによって魔法ありモンスターありの異世界にトリップするという異世界転移ものというジャンルに分類される内容ではあります。
異世界ファンタジーが隆盛を誇る今日、もはや現世の人間が異世界に移る物語も珍しくはなくなりました。その中に在ってなお、この物語は他の異世界転移ものとは一線を画する内容となっています。
主人公たちは現世と異世界を行き来しながら物語が進むわけですが、現世はもちろんの事、異世界の中でも厳然とした事実が彼ら彼女らの前には立ちはだかっているのです。
そう。本作では異世界も「できる事」と「できない事」の線引きがはっきりとした、ある種のリアリティが他作品との大きな違いです。異世界に向かう事を単なる逃避に貶めず、異世界の中にもある揺るがぬ現実を、簡潔な文体で表現してあります。
異世界パートでもややハードな展開や主人公たちの葛藤が描かれる訳ですが、簡潔かつ温かみの感じられる文体なので爽やかな読み応えです。また、異世界へのカギであるお香の謎や、フローマーという屋敷に暮らす大猫の存在など、ミステリー的要素も含んでいます。
異世界物なんてどれも同じ。そう思っている方こそ一読してはいかがでしょうか。