第34話 冥府5

「この秘密は夕霧にだけは打ち明けました。夕霧は柏木が死ぬとき


二の姫様をよろしく頼むと言われたそうです」


「わしの二の姫を夕霧に」





「夕霧は柏木の遺言を忠実に守って、今二の姫は夕霧の正室です」


「そうかそれはよかった。源氏おぬしには最後の最後まで苦労を


かけたなあ。これでわしも安心して成仏できる。心から感謝する」





暗闇から朱雀院の気配がすっと消えていきかけます。


そこに遠くから女の声が聞こえてきます。





「朱雀院様ーっ、朱雀院様ーっ!」


朱雀院様と源氏の君が同時に声をあげられました。


「朧月夜!」


お二人顔を見合わせます。





見るからにあでやかな尼姿の朧月夜が現れます。


「これはこれはお二人お揃いで」





ばつが悪そうに院と源氏は顔を見合わせます。


朧月夜はそっと院の御手を取り寄り添っていかれます。


上目づかいに恥じらいながら源氏を見つめて、





「その節はいろいろとお騒がせいたしました。これからも


院とともにあの世で幸せに寄り添ってまいりますので、


決してお邪魔なさらないようにお願いいたします」





老いたる源氏は優しく手をあげて二人を見送られます。


お二人は幸せそうに天の奥へと去っていかれました。

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