第28話 雲隠れ6

夜が明けると高僧がまた一人増えました。


さらにもう一人加わって法華経が庵に響き渡ります。





「然我實 成佛已來 久遠若斯 但以方便


教化衆生 令入佛道 作如是説 諸善男子


如来所演経典 皆為度脱衆生 或説己身」





続々と車が雲隠れ庵に集まってきます。


按察使の大納言もお見えになりました。


比叡山から座主がお見えになり高僧7名による


葬儀が始まりました。





身内の者は皆濃い鈍にび色の衣、棺には白単衣の源氏が


笑みを浮かべて収まっています。





読経は法華経方便品と寿量品が延々と続きます。


その間に焼香が始まり樒しきみを一人づつ棺に


納めて最後のお別れをします。





冷泉院、梅壺の中宮、女一宮。夕霧、女二宮、雲居の雁。


明石の君、明石の中宮、玉鬘、典侍。そのあと子供たちが


神妙に続きます。匂宮は紫上のおばあちゃんの時は梅の木


だったなあなどと思い出しています。





樒に埋もれた源氏はことさら美しく生きているように微笑んでいました。


棺の蓋は釘を石で打ち込まれ親族が担ぎ庵の出口に運ばれます。


黒塗りの平牛車に乗せられ家族が取り囲みます。子供たちも一緒です。





その後ろに高僧たち、さらに多くの僧、総勢20人ほどでずっと


法華経を唱えています。寿量品は何度も繰り返されます。


そのあとに多くの人々が続きます。長い行列は化野まで続いていました。





大きくやぐら状に組まれた檜と桐の上に棺はのせられます。巡りながら


最後の別れに僧が続きます。大きな読経の声の中パッと火の手が上がります。


炎はみるみる大きくなり棺を覆ってしまいます。





高まる読経と燃え上がる炎に棺は燃え尽き、煙が立ち上りみるみる鎮火しました。


高僧が清めの酒と水を振舞います。棺は白い灰の中に燃え落ちます。


赤い輝きが中心部に残ってこの世に名残を惜しんでいるように見えます。





とその時、ぽつりぽつりと雨が降り出しました。


僧たちは急ぎ骨壺を用意して親族に骨拾いをせかせます。


無常の煙と灰の香りが一帯に広がり、人々はこの世とあの世の境を


漂っているように見えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る