第3話 特許法タンは要らない子?
たかしくん家の、不思議な人形。
今日も胸のところに、牛タン形のバッジをつけていました。
日によって、口調も見た目も性格も変わるのに、それでもなぜだか、同じ人形だと分かる。そんな不思議な人形。
遅くまで仕事を頑張るお父さんからのプレゼント。
◆
夜。
たかしくんがお風呂から上がると、じゅうたんの上に置かれたその人形の様子が、またも変わっていました。
「今日のキミは、どんな感じなの?」
部屋へと戻った、パジャマ姿のたかしくんがそう聞くと、人形はしゃべりだしました。
「僕は、特許法……」
牛タンバッジをつけた人形は、消え入るような、元気の無い声でそう言いました。
「どうしたの? 元気が無いみたいだけど。……ええっと、キミのことを、『トクたん』と呼ぶね?」
「それでいいよ……。たかしくん」
トクたんは、胸の牛タンを、ゆっくり点滅させながら言いました。パジャマ姿の子供がたかしくんであるということは、常に認識しているご様子。
「……聞いてくれるかい?」
トクたんは、迷うように、うーん、うーんと何度かうなって、それから、ぼやきはじめたのでした。
「僕はね?
「トクたん? 何があったの?」
すると、トクたんは、弱気そうな声で言いました。
「『トクたんは要らない子だ』って、言われたんだよ。面白い事を思いついたのに、他の人から『それは私の権利だから、勝手にやっちゃダメだよ』って言われる。自由な発想がじゃまされるからって」
「そうなんだ……」
「逆にね? 『居てくれなきゃ困る』って言う人も居てね……。思いついた事をみんなに教えて、使ってもらおうっていうのもあるから……」
「えー?」
「他にもね? いろんな人が、いろんな事を僕に対して言ってくるんだ……。もう、僕は、どうしていいか分からなくて……。たかしくんは、どう思う?」
「ボクは……話し相手がいなくなるのは、さみしいな。嫌われそうな所を直すんじゃ、ダメなのかなぁ……?」
「そうか……そうだね。僕自体が要らないっていうことじゃないのかも、しれないね……。ありがとうたかしくん。僕、みんながどう思ってるか、もっとたくさん、聞いてみたいと思ったよ」
トクたんはそう言って、人形の体の中から、お菓子と、ペットボトルのミルクティーとを、ガサリ、しゅぽーんと出しました。
「あのさ、トクたん。ボクが食べたり、飲んだりしてもいいのかなぁ?」
ミルクティーが大好きなたかし君。でも、大はしゃぎはしませんでした。
「だってボク、トクたんに、なにもしてあげられてないよ?」
トクたんは、優しい声で言いました。
「そんな事無いよ? だって、僕の話を、聞いてくれたもの。たかしくんのお父さんが頑張って、はやく、お母さんが帰ってくると良いね。お父さん、そのためのお仕事をしてるんでしょ?」
たかしくんは、「うん」と大きくうなずいて、言いました。
「だからボク、ひとりでお留守番、頑張るんだ」
〈続く?〉
(Tips)
【特許法】
特許法第1条には、法目的が、以下のように書かれています。
「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」
産業の発達という目的を達成するために。
新しい発明を公開する代償として、(審査をクリアできれば)一定期間の独占権を与える、という構造になっています。
要は、「鋼の錬金術師」案件ですね。
真理の扉「特許が欲しければ、新規発明を差し出せ!」
ただし、代価を払って、パン! と手合わせをしたからといって、特許権が練成されるとは限らない。審査ではじき返されることもあります。
新規発明をした人は、「発明を秘密にして儲ける」か、「発明公開の代償に特許権をもらう」か、選択するわけです。(オープン・クローズ戦略)
そして、独占権というエサをちらつかせて、発明を公開「させて」、それに乗っかって、産業を発達させよう。そういう、法のもくろみなわけですが……。
どうやら今は、オープンイノベージョンの方が流行りのようでして。
ざっくりとした認識だと、「こんなの作ったで」と公開しちゃって、乗っかり有りでドンドンとブラッシュアップしていく方法ですかね? (合ってます?)
正直、こっちの方が速そうです。
(特許の出願公開は、原則、出願から1年6月後ですし)
あと、特許権になると、他者はマネできないわけですが、
著作権とは違って、「そんなのが既にあるなんて、知りませんでしたー!」が、特許権では通用しないです。(著作権の「依拠性」要件。特許権は依拠性を問わない)
ほかにも、ほんと色々ありそうですがね?
これ、憶測になりますが。
特許権で儲けてる人は、「特許権潰すとかふざけんな!」って言いそうだし……。
起業家さんとかは、「いちいち特許を気にしながらアイデア出しするなんて、効率悪くなるわ! 自由に発想させろや!」って怒りそうですし。
特許ゴロ(パテントトロール)なんかは、「法律で認められた権利を行使して、何が悪いのですか?」と言いそうだし。
結局、立場によって、意見色々なんじゃないだろうか?
私見としては……実はスタンス決まってなくてですね……。
特許制度「全体」として、産業の発達にプラスなのかマイナスなのかも、ちょっと相手が巨大すぎて分かりません……。
あと。
特許制度をぶっ潰すなら、日本だけじゃなくて世界みんなで潰さんと……と思うんですけど、そこはどうでしょ? 日本だけ「特許制度無しー!」って出来るかなぁっていうのも。
うーん、難しい。オイラの頭には入りきらないー。
条文タンはぼやきたい にぽっくめいきんぐ @nipockmaking
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。条文タンはぼやきたいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます