第2話 商標法タンは断れない
たかしくん家の、不思議な人形。
今日も胸のところに、牛タン形のバッジをつけていました。
日によって、口調も見た目も性格も変わるのに、それでもなぜだか、同じ人形だと分かる。そんな不思議な人形。
やもめなお父さんからのプレゼント。
◆
夕方。
たかしくんがお昼寝から起きると、じゅうたんの上に置かれたその人形の様子が、やっぱり変わっていました。
「今日のキミは、どんな感じなの?」
ベッドからじゅうたんの上へと降りた、部屋着のたかしくんがそう聞くと、人形はしゃべりだしました。
「私は、商標法」
牛タンバッジをつけた人形は、苛立たしげに、少ししゃがれた声でそう言いました。
「そっかぁ……。じゃあ今日は、キミを、『ショウたん』と呼べばいいね?」
「それでいいよ。たかしくん」
ショウたんは、胸の牛タンを点滅させながら言いました。部屋着姿の子供がたかしくんであるということは、常に認識しているご様子。
「ショウたん。どうしてそんなにイライラしているの?」
「……尻拭いばかり、させられているからだよ」
「しりぬぐい、って、なんだろう? 話をきかせてよ」
たかしくんは無垢な目をして、そう言いました。
「ありがとう、たかしくん。聞いてくれるかい?」
ショウたんはうなずいてから、ぼやきはじめたのでした。
「私はね? みんなが間違ったものを買わないようにと生まれてきたんだ。
似た名前のものってさ。パチモノって言ったりするんだけど。ハズレを引いて、『おいしくない』『こんなはずじゃなかった』ってガッカリしたくはないでしょう?」
「ボクは……ミルクティーがおいしくなかったら、嫌だなぁ」
「そうだよね。信頼できる相手が作った、おいしいミルクティーを飲みたいよね。だから、誰がそれを作ったかわかるように、マークや言葉を付けるの。商標っていうんだ。だから、私はショウたん」
「そうなんだ……ショウたんがいるから、ボクは安心してミルクティーを飲めるんだね。でも、それが、『しりぬぐい』なの?」
「ちがうんだよ。世の中には、ずるい人たちがたくさんいるみたいで。その人たちをつかまえる為に、なぜか私がこきつかわれるんだ」
「ずるい人を、つかまえちゃだめなの?」
「ごめんね。私の言い方が悪かったね。『なんで私が』つかまえなきゃいけないの? って、つい、イライラしちゃって。別の法律タンがつかまえるなり、そういう法律タンを産んだりして、その人たちがやればいいのにって」
「そっかー。ショウたん、やさしすぎて、なんでも頼まれちゃうんだね……」
「私、断る勇気も必要なのかもしれないなぁ。たかしくん、ありがとう。だいぶスッキリしたよ。これ、お礼だよ?」
ショウたんはそう言って、人形の体の中から、お菓子と、ペットボトルのミルクティーとを、ガサリ、しゅぽーんと出しました。
「わーい! ショウたん、ありがとう!」
ミルクティーが大好きなたかし君は、大はしゃぎ。
「夕餉の紅茶」という
そして、たかしくんは、少しかなしそうな表情になりました。
「あれ? たかしくん。どうしてそんなに悲しそうなんだい?」
「ショウたん……あのね? 『ゆうげ』って、夕ごはんのことなんだよね? お父さんから教えてもらったんだけど」
「そうだよ。たかしくんは、言葉を知ってて、とてもえらいね」
「ありがとう。でもね? ボク、お父さんと、夕ごはんを食べたいんだ……」
……。
ショウたんは、しゃがれてはいるけれど、とても優しい声で言いました。
「冷蔵庫に夕ごはんがあるから、温めておいで? お父さんが帰ってくるまではさ? 私とお話、してようよ。私達は、そのためにここに来てるのも、あるんだから」
〈続く?〉
(Tips)
【商標法】
自他商品(又はサービス)の識別機能が、商標の肝の1つです。
「この名前やロゴが付された商品やサービスなら、安心の品質だ!」と、需要者が安心してモノやサービスを識別して、それを買えるのが、社会においては大事。(法目的1条のうちの、「需要者の利益」)
ですので、似た名前(車の「フェラーリ」に対して「フュラーリ」など)でパチモノを売る行為等の時に、ショウたんが呼ばれるのは、これは本望でしょう。
では、ネットダフ屋の、「チケットの価格を吊り上げる」行為で、ショウたんが駆り出されるのはどうでしょう?
パソコンのOSのライセンスキーを販売する行為に対し、ショウたんが駆り出されるのはどうでしょう?
もっとドンズバの、別の法律タンで、相性良い子がいないのかなぁ? (あるいは、そういう子を作らないのかなぁ?)という、青い疑問を、第2話として仕立ててみました。
ま、不正競争防止法、ってのもあるんですけどね? ふひひ。
とにかく難しいってか、ちゃんとやると、尺が大変なことになって力量オーバーになっちゃうので、このへんで。
m(_ _)m
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