条文タンはぼやきたい
にぽっくめいきんぐ
第1話 異議申立タンはお疲れ
たかし君の家には、不思議な人形が居ます。
いつも胸の所に、牛タンの形をしたバッジをつけているからでしょうか?
日によって、口調も見た目も性格も変わるのに、でもなぜだか、同じ人形だと分かる、そんな不思議な人形。
去年のクリスマス。
サンタを自称するお父さんからのプレゼント。
◆
朝。
たかし君が起きると、じゅうたんの上に置かれたその人形の様子が、また変わっていました。
「あれ? 今日のキミは、どんな感じなの?」
ベッドからじゅうたんの上へと降りた、パジャマ姿のたかし君がそう聞くと、人形はしゃべりだしました。
「あたしは、特許異議申立」
牛タンバッジをつけた人形は、疲れたように、息漏れの多いウイスパーボイスでそう言いました。
「そっかぁ……。じゃあ今日は、キミを、『イギたん』と呼べばいいね?」
「それでいいよ。たかし君」
イギたんは、胸の牛タンを点滅させながら言いました。パジャマ姿の子供がたかし君であるということは、常に認識しているご様子。
「イギたん。どうしてそんなに息切れしているの?」
「……捨てられたり、戻ってこいって言われたり、振り回されて疲れているからだよ」
「えー! 誰に?」
「あたしのお父様に」
「大変なんだね……。ボクでよかったら、話をきかせてよ」
たかし君は無垢な目をして、そう言いました。
「ありがとう、たかし君。聞いてくれるかい?」
イギたんは破顔して、ぼやきはじめたのでした。
「あたしはね? 人を助ける為に生まれてきたんだ。
審査っていうのは大変で、間違いが無いとは言えない。審査をする人だって、完全じゃないから」
「ボクも、よく父さんから怒られるよ? 『たかし、また間違ったな?』って」
「たかし君も大変なんだね……。人は間違う生き物だから、みんなで、間違いを見つけようと思った。そしてあたしが生まれたの。あたしを呼べば、間違いを直せるし、誰でもあたしを呼べる」
「すごいんだね……みんなから呼ばれて、疲れないの?」
「大変だよ。だから、6か月だけがんばろうって。その後は、つかれちゃうから、がんばらないようにしたんだ。でもね? あたしのお父様から急に、『無効審判君と結婚しろ』って言われて」
「えー! お父さんに、結婚を決められちゃうの? どうして?」
「あたしと、無効審判君は、『間違いを正したい』って所が似てるから、お似合いのカップルなんだって。あたし、親には逆らえないから、言われたとおりに結婚して、しばらく生活してたんだけど。そしたら今度はね? 『やっぱり、無効審判君とは別れなさい』って」
「えー! なんでなんで?」
「理由はよく分からなかったわ……」
「そっかー。イギたん、たいへんだったんだね……」
「たかし君、ありがとう。愚痴を聞いてもらえて、あたし少しスッキリしたわ。これはお礼よ」
イギたんはそう言って、人形の体の中から、お菓子と、ペットボトルのミルクティーとを、ガサリ、しゅぽーんと出しました。
「わーい! イギたん、ありがとう!」
ミルクティーが大好きなたかし君は、大はしゃぎ。
「あまり飲みすぎないようにね? そう言えばたかし君。たかし君はどうして、お父さんから怒られたの?」
「えっ、ボク? えっとね。かけ算の順番を間違えるなって」
イギたんはびっくりして言いました。
「お父さん! 可換性可換性!」
そうしたら、たかし君は、首をかしげました。
「カカンセイって、なあに?」
〈続く?〉
(Tips)
【無効審判と異議申立】
どちらも、特許権を消滅させる手段である点で、共通してます。
肝は、異議申立は「何人も」申立て可能であったのに対し、無効審判の請求は、「利害関係人」しか出来なかった点。(他にも違いあり)
異議と無効とが結婚していた時代は、何人も請求可能にしてました。
ざっくり言うと、目的が違うんです。
無効は、「当事者」間の紛争解決が目的。
異議は、「公衆」によるチェックが目的。
目的の違う制度を、一緒くたに統合しとくか、別制度として運用するかっていう、要はさじ加減。
(追記)
ちなみに、イギたんが6ヶ月だけ頑張るっていうのは、特許法第113条に、以下のように規定されているからです。
『何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。……(後略)』
【可換性】
a x b=b x a
のように、順番を変えても成り立つ事(交換が可能だから、可換性)。
今は、かける順番を間違うと、先生からバッテンをくらうらしい。なんで?
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