できるならずっとこの会話を読んでいたい

 自分の学生時代にこんなことは起きなかった。
 ヒロインが「心を読み取る」超能力を持っている時点でそれは当然なのだけど、それを抜きにしても、友達以上恋人未満のさらにそのまた未満みたいな、精巧なガラス細工じみたエピソードとは縁のない生活を送ってきた。
 だから彼らが羨ましいし、できることならもっと眺めていたい。

 そして、彼らの関係性という名のガラス細工は、物語が終わる頃には今よりも美しく、かつ見た目より遥かに頑丈に出来上がるのだろう。
 結末にたどり着いていなくてもそう思わせてくれるくらいには、この作品は温かくて綺麗だ。

 試しに読んでみてもらいたい。
 気づけば不器用で繊細で優しい二人のやり取りを、ディスプレイ越しに陰ながら応援してしている自分が見つかるはずだ。

 憧れるけどおそらく自分には訪れることのないであろう世界。
 この作品が持つ価値と、現実世界と決して埋まることのない隔たり。この二つを言い表す言葉を私は一つしか知らない。

 この作品は、尊い。

その他のおすすめレビュー

赤猫柊さんの他のおすすめレビュー76