今日もまた俺は彼女に思考を読まれている

作者 城崎

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★★★ Excellent!!!

 自分の学生時代にこんなことは起きなかった。
 ヒロインが「心を読み取る」超能力を持っている時点でそれは当然なのだけど、それを抜きにしても、友達以上恋人未満のさらにそのまた未満みたいな、精巧なガラス細工じみたエピソードとは縁のない生活を送ってきた。
 だから彼らが羨ましいし、できることならもっと眺めていたい。

 そして、彼らの関係性という名のガラス細工は、物語が終わる頃には今よりも美しく、かつ見た目より遥かに頑丈に出来上がるのだろう。
 結末にたどり着いていなくてもそう思わせてくれるくらいには、この作品は温かくて綺麗だ。

 試しに読んでみてもらいたい。
 気づけば不器用で繊細で優しい二人のやり取りを、ディスプレイ越しに陰ながら応援してしている自分が見つかるはずだ。

 憧れるけどおそらく自分には訪れることのないであろう世界。
 この作品が持つ価値と、現実世界と決して埋まることのない隔たり。この二つを言い表す言葉を私は一つしか知らない。

 この作品は、尊い。

★★★ Excellent!!!

心の声が聞こえてしまう女子・如月と、やたら心の中の独り言が多い男子・北斗の高校生ペアが織りなす日常の物語。

心の声絡みの特殊能力は目新しくないが、こと小説というメディアにおいては独特の位置づけになる。たとえば一人称が話者の"心の声"が全て筒抜けであるような文体である一方で、三人称は神の視点とも言われ、しばしば複数の作中人物に成り代わりその心中を代弁するものだから、まさに神の所業である。
これで調子に乗ってあらゆる人物の心境を説明されると作品にならないのだが、うまく利用すると叙述トリックにもできる。

本作ではトリックが駆使されてはいないが、他の人の心の声に脅かされないようにするために、如月が北斗のそばにぴったりと張り付いているという形で必然性が演出されている。
このことで二人だけの会話で進行することも正当化され、付随的に二人だけの世界が展開する。

能力はファンタジーというよりはラブコメのための舞台装置であった。月並みだが、この能力を逆手に取った駆け引きの展開を期待する次第。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)