2mの中だけが、2人の世界。


 相手の考えを読める超能力は数多く取り上げられてきたが、その人気は衰えることを知らない。それは、私たち知的な生物にとって完全には理解し合えないことの一つであるからだと思う。
 その点、だからこそ考えを読めるということを軸として物語を進めていくことは難しい。

 この物語では、その主軸を踏まえた上で、さらに限定で”一人の声しか聞こえなくなる”という設定が盛り込まれている。
 彼と2mの中ならば、彼女の能力はほとんど封じられる。しかし2mの外では、彼が彼女に思考を読まれることは無い。

 他人の思考を読むことが日常であった彼女の、やはりどこか掛け違った価値観に思想を前に、彼もまた、やはり少しずつ変えられていく。
 面白いのは、その成長が確かに感じ取れるからだ。

 彼女に思考を読まれる。しかしそれさえも日常と思えるようになって、そしてその心は発展していく。その様が生き生きと描かれ、そして細かな言葉に感情が散りばめられている。

 また、成長を感じる一方で作者の独特な個性には笑みを絶やせない。他人の思考を読める彼女が、実は蜜柑好きで、しかもそれが結構重度だという……。
 ギャップをしっかりと取ることでより身近に感じるように采配された設定だが、蜜柑を重度に好きだという方向性は考えても居なかった。
 
 そこから、蜜柑好きの同志を登場させたり、観観(みかん)という名前を使ってみたりする部分が酷くユニークで面白い。
 恒例に則って、そういう人物こそ重要であることがさらに面白い。地味な事から発展した友情と蜜柑の輪が、やがて大きく彼女の運命を変えていく姿を読みながら感じ取る度に、作者のストーリー性の高さが伺えてくるのだ。


 多くの話の始めが、空白無し行空け無しの読み辛いようになってしまっているが、そこを乗り越えるだけの価値観は十二分に存在する。
 是非とも挫けたりせずに、最後まで読んでほしいと強く思う。

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