神話の雰囲気ただよう世界で手に汗握る冒険を。正統派、行きて帰りし物語

「さあ、今日は行けるだけ行こう、東へ。王都アンダレアへ」――第2章 旅立ち より

神秘の山で豊かな自然に囲まれて育った主人公アベルは、ある日をさかいに王都を目指す旅に出ます。兄の命を救うため、王国の危機を救うため。旅の途中、さまざな困難が降りかかります。アベルは、旅の仲間たちは、無事に王都まで辿り着けるのか。

最後までハラハラドキドキの連続で、一度読み出すと止まりません。

特筆すべきは圧倒的な描写力。緻密で繊細でありながら、映像の切り取り方が非常に巧みなので、配慮の行き届いた描写は読んでいてつかれません。
クロースアップからロングショットまで駆使したメリハリの効いた情景描写が、映像的な美しさを保ちながらもテンポ良くストーリーを物語ります。

まるで一本の映画を観ているようです。

また作者さまはライトノベル執筆歴もあるということで、丁寧で分かり易い日本語を意識しながらもセリフに今時な感じを入れたり、文章にもちょっと遊びを入れたり。本格的な物語にも意識して軽やかさを取り入れていらっしゃるようで、スッと世界に入り込めます。

ライトノベルと本格的な児童文学の橋渡しになるような、絶妙なバランス感覚を持った作品です。

追記:
また淡泊な地の文を心掛けていらっしゃるということで、繊細な余韻がより伝わってくる見せ方はシーンによって雰囲気がガラッと様変わりします。心に沁みいる優しい筆致をぜひ一度味わっていただきたい。オススメです。

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