「さあ、今日は行けるだけ行こう、東へ。王都アンダレアへ」――第2章 旅立ち より
神秘の山で豊かな自然に囲まれて育った主人公アベルは、ある日をさかいに王都を目指す旅に出ます。兄の命を救うため、王国の危機を救うため。旅の途中、さまざな困難が降りかかります。アベルは、旅の仲間たちは、無事に王都まで辿り着けるのか。
最後までハラハラドキドキの連続で、一度読み出すと止まりません。
特筆すべきは圧倒的な描写力。緻密で繊細でありながら、映像の切り取り方が非常に巧みなので、配慮の行き届いた描写は読んでいてつかれません。
クロースアップからロングショットまで駆使したメリハリの効いた情景描写が、映像的な美しさを保ちながらもテンポ良くストーリーを物語ります。
まるで一本の映画を観ているようです。
また作者さまはライトノベル執筆歴もあるということで、丁寧で分かり易い日本語を意識しながらもセリフに今時な感じを入れたり、文章にもちょっと遊びを入れたり。本格的な物語にも意識して軽やかさを取り入れていらっしゃるようで、スッと世界に入り込めます。
ライトノベルと本格的な児童文学の橋渡しになるような、絶妙なバランス感覚を持った作品です。
追記:
また淡泊な地の文を心掛けていらっしゃるということで、繊細な余韻がより伝わってくる見せ方はシーンによって雰囲気がガラッと様変わりします。心に沁みいる優しい筆致をぜひ一度味わっていただきたい。オススメです。
幼少期に患った病の治療のため、人里離れた山奥で育ったアベルディン。
彼が、自身が王弟であるとを知ったのは、王である兄が自分と同じ病に倒れたと知らされた時でした。
王へ薬を届けるため、そしてもし王が亡くなったら、その王位を継承するために、アベルは親友の薬剤師、リマールとともに王都を目指す旅に出ます。
たいへん美しく描き出された古典的ファンタジー小説です。
風景描写は圧巻で、そこには細部までしっかりと練り上げられた美しい世界を見渡すような壮大さがあります。
村や町や森や城がどこにあり、そこにどんな人々が暮らし、どんな生活が営まれているのかが、見渡す限りの情景の中から伺える、
小説で言えばトールキンの『指輪物語』を彷彿とさせるような、素晴らしい筆致でした。
旅の途中で出会う人々も、とても良く描かれています。
彼らの暮らしぶりが伝わってきて、風景から感じられた世界観へ、より奥行が生まれていました。
そして、もちろんアベルを始め、主要キャラクターたちも素敵です。
世界観を食ってしまうような強烈な個性ではなく、
あくまで地に足のついた素朴な魅力がそれぞれにあり、彼らが交わす心地よいやり取りに魅せられます。
特に、終盤、リマールが友のために身を挺そうとする場面では、彼の素朴な性格が非常によく生きていて、
そこには、お話だから、という嘘っぽさも薄っぺらさもなく、真っ直ぐに読み手の心に届いてきます。
古典ファンタジーの名作を彷彿とさせるような美しく織り上げられた作品でした。
実は王の弟であると知らされた少年、アベルは親友と共に王都へ…。
小学校高学年以上くらいの少年少女を対象としたというこの物語に引き込まれていった私が、ただ一つ、不満を感じたことがありました。
それは、作品にではありません。
私と一緒にこの物語を読んでくれる、弟妹なり、子どもなり、そうした年齢の子が周りにいないということでした。
主人公アベルや、その仲間となっていく少年少女と同じ年頃の子と一緒に読めたらどんなに盛り上がっただろうに、と思ったのです。
しかし、そんな不満は割と簡単に解決しました。
読んでいる私が、「あの頃」の心を取り戻したように、ハラハラドキドキしたり、レイサーというネコ科猛獣系でチョイ悪だけどエレガントで優しいさすらい戦士な貴族(長い!)に年甲斐もなくキャーキャー言ったりと、とても無邪気に楽しむことができたからです。
青少年向けの作品というのは、読者に青少年だった頃の心を取り戻させるものなのだなーと改めて感じました。
お子様と一緒に、でも一人でも楽しい。
そんな冒険の旅をどうぞ。
物語は、主人公アベル少年の出生の秘密からはじまり、王国の危機に立ち向かわざるを得なくなるところからスタートします。
兄弟のように育った薬剤師リマール少年や、旅の途中で出会う人々、裏切られたり、仲間になったりと様々で、少年たちと一緒に旅の緊張感を味わうことが出来ます。
追手に追われる緊張感の続く旅の中、周りに見えてくる景色が鮮やかで、昔ファンタジー小説を読んでいた大人たちには、どこか懐かしい空気を感じることができる作品です。
少しずつ、仲間と心の絆を繋いでいく様子や、友を守るため(旅の目的を果たすため)にそれぞれの登場人物が奮闘する姿に成長を感じる事ができました。
作者様が高学年~とされていますが、大人も十分に楽しめます。
これは小学生にぜひ読んでもらいたい作品!