古典ファンタジー小説を彷彿とさせる、美しく織り上げられた世界観

幼少期に患った病の治療のため、人里離れた山奥で育ったアベルディン。
彼が、自身が王弟であるとを知ったのは、王である兄が自分と同じ病に倒れたと知らされた時でした。
王へ薬を届けるため、そしてもし王が亡くなったら、その王位を継承するために、アベルは親友の薬剤師、リマールとともに王都を目指す旅に出ます。
 
たいへん美しく描き出された古典的ファンタジー小説です。
風景描写は圧巻で、そこには細部までしっかりと練り上げられた美しい世界を見渡すような壮大さがあります。
村や町や森や城がどこにあり、そこにどんな人々が暮らし、どんな生活が営まれているのかが、見渡す限りの情景の中から伺える、
小説で言えばトールキンの『指輪物語』を彷彿とさせるような、素晴らしい筆致でした。

旅の途中で出会う人々も、とても良く描かれています。
彼らの暮らしぶりが伝わってきて、風景から感じられた世界観へ、より奥行が生まれていました。
 
そして、もちろんアベルを始め、主要キャラクターたちも素敵です。
世界観を食ってしまうような強烈な個性ではなく、
あくまで地に足のついた素朴な魅力がそれぞれにあり、彼らが交わす心地よいやり取りに魅せられます。
特に、終盤、リマールが友のために身を挺そうとする場面では、彼の素朴な性格が非常によく生きていて、
そこには、お話だから、という嘘っぽさも薄っぺらさもなく、真っ直ぐに読み手の心に届いてきます。
 
古典ファンタジーの名作を彷彿とさせるような美しく織り上げられた作品でした。

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