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みずかん
唯一心から愛する親友を救った、心優しき人間の英雄譚
わたしは、平気な振る舞いを周りに見せていたど、
本当は、すごく辛い。
わたしを助けてかばんちゃんは....
どうしてこんなに悲しいんだろう。
かばんちゃんだって、早くわたしに立ち直って欲しいはず。だけど...
かばんちゃんがいなきゃ...
わたし...
サーバルは図書館でずっと苦しんでいた。
....もう、空がオレンジ色になってる。
どれだけ、悩んでいたんだろう。
博士にも言われた。失った物は取り戻せないって。
気持ちの整理をつけないと...
伸びをして、椅子から立ち上がり図書館を出ようとした時、
ある本棚の前で足を止めた。
赤い床に一冊の本が落ちている。
黒い革質の表紙に何か文字が書いてあるが読めない。
本にはこう書いてあった。
『唯一心から愛する親友を救った、心優しき人間の英雄譚』
なんだろう...これ。
本棚から落ちたのかな?
サーバルは、その本をゆっくりと拾った
その瞬間、自身は眩い光に飲み込まれたのだった。
「ここは?」
見渡すと、見覚えのある景色。
さばんなちほーと似ている。
「サーバルちゃん、どうしたの?」
その声でハッとし、横を見た。
そこには、いなくなってしまったはずの彼女の姿があった。
「かばんちゃん...?かばんちゃんなの!?」
「何言ってるの?僕は僕だよ!」
涙がこぼれる。
「かばんちゃん...!会いたかったよ!」
泣き声で思いっきり彼女に抱き着いた。
「サ、サーバルちゃん...」
彼女は苦笑いを浮かべていた。
しかし、状況は一瞬で変わってしまった。
かばんはチラッと横を見ると、サーバルを庇う様な形を取った。
(えっ!?)
バン!バン!
草原に響く、聞いたことの無い音。
かばんは前に倒れる。
「えっ!?かばんちゃん!?」
「サ、サーバル...ちゃん...、は、はやく逃げ...て...」
やだよ...
ねぇ、どうして?
何でこんなことに?
まばたきをした様に場面が変わる。
「え...」
気がつくと、また彼女はそこにいた。
「どうしたの?サーバルちゃん」
外見は何ともない。
ただ単に彼女が笑顔を見せて立っている。
(さっきのは...夢?)
サーバルは理解が出来なかった。
そのせいか、彼女と一直線上で見つめ合っている。
サーバルが慎重に彼女に歩み寄ろうとした。
「あっ!」
かばんはそう声を唐突に上げると、逆にサーバルに向かって駆け出す。
「みゃっ!?」
かばんはサーバルを突き飛ばしたのだ。
後ろに飛ぶ中、
その一部始終はスローモーションの様にサーバルの目に映った。
上の方から、大きな岩が落ちてきた
言うまでもなく、かばんはその下敷きとなった。
後ろに飛ばされたサーバルは、すぐに起き上がって現場を見た。
無情にも差し伸べられた右手が見える。
下の彼女は...無事では無い。
また...
いったい...
どうして...?
また場面が変わった。
「みゃ!?ゴホッゲホッ!」
自分は川で溺れていた。
「サーバルちゃん!!今助けるから!」
かばんは川へ飛び込む。
「ゲホッ!ゲホッ!」
私は意識を失いかけていた。
朦朧とする中、彼女の手が身体を包みこむのがわかる。
ふと、そこで気が付くのだ。
(わたしを助けたら...、かばんちゃんは...、死んじゃう?)
意識がはっきりしたのは、自分が川岸にいた時だった。
かばんの姿は無い。
そこで、サーバルは気付いたのだ。
「かばんちゃんは、わたしを助ける度に死んじゃうんだ...」
また、場面が変わる。
(かばんちゃんを死なせない為には、わたしがかばんちゃんを守ればいいんだ)
理屈は簡単だ。
だが、おかしな事に上手くいかない。
今度は湖畔だった。
前方には切り倒された木が集積されている。
集まった木が倒れると予見したサーバルは先に進もうとしたかばんを引き止めた。逆の方向へ行こうとして走ろうとしたらかばんが石につまづいて転び、そこに普通に立っていた木が倒れ、またその下敷きになった。
かばんはサーバルを助ける為に何度も犠牲になった。
車に轢かれたり
雪崩に巻き込まれたり
セルリアンに食べられたり
何らかの理由で凶暴になったフレンズに
殺されそうになった所を庇ったり...
何度も、何度も、助けようとしては失敗した。
なんで...
なんで...
どうして、かばんちゃんは死んじゃうの?
何回自分はかばんが悲惨な死を遂げるのを見て来たのだろうか。
もう、こんなのは見たくない。
これは何回目だろう。今度は雨が降っている。
自分とかばんは小屋の中にいた。
彼女は寝ていた。
彼女を起こさぬ様に、そっと立ち上がり窓の外を確認する。
そして、次に起こりうることを推測した。
(雨が降ってる中に、後ろに山の斜面...、山が崩れる!)
そう考え、サーバルはそっと彼女を抱きかかえた。
その体勢のまま落ち着いて考え始める。
(そうだよ...。
かばんちゃんが死ぬ前に、私が死ねばいいんだ)
サーバルはかばんを抱きかかえたまま小屋を出て、かばんを小屋の外に置いた。
彼女を起こさぬ様に、そっとドアを閉めて鍵を掛けた。
一人になったサーバルは大きく深呼吸をした。
(かばんちゃんを...、守るため)
そう言い聞かし、野生解放する。
自分の光ったツメを自分の腹に突き刺したのだ。
「はぁっ...」
痛い。
だけど、彼女が今までに味わった痛さよりは軽いはずだ。
サーバルは血を流したまま、窓の前に立った。
耳が良かったので、ゴゴゴという小さな地鳴りの音が聞こえた。
(さぁ...、早く)
ドンドンドンッ!
後ろから扉を叩く音がして振り向いた。
「サーバルちゃん!サーバルちゃん!」
雨の音と混ざって彼女の声が聞こえた。
サーバルは、扉の方へ行きこう言い放った。
「かばんちゃん。前は守れなくてゴメンね。今度は、わたしがかばんちゃんを守ってあげるから!」
「サーバルちゃん!開けてよ…
サーバルちゃんと一緒がいい!一生離れたくないのに!」
皮肉にも、彼女は心の底で、そう思っていたのだ。
サーバルは下唇をそっと噛み、彼女の声を聞いてから
「へーきへーき!わたし達はまた一緒になれるよ!」
明るい声で言い返し、再び窓の前に立った。木々がバキバキと音を立てながら近づくのがわかる。
(ありがとう...、かばんちゃん。
かばんちゃんはわたしの...大切な友達で
大好きな人で...英雄だよ)
小屋は崩れて来た土砂に埋もれたのだ。
その瞬間、再度自分の腹にツメを深く刺した。
すぐにサーバルの視界は闇の世界となったのだ。
「サーバル...何でこんな所で寝ているのですか。起きるのです。
サーバル。サーバル?」
博士は揺さぶるのを突然止め、
息を一瞬止めた。
「助手!大変なのです!サーバルがっ!!」
そう叫ぶと直ぐに助手がやって来た。
「どうしたのですか」
「サーバルが...呼び掛けても反応しないのです...」
「そんなまさか!」
助手も確認する。
だが、サーバルが起き上がる事は一切無かった。
博士はサーバルのすぐ脇にあった本を手に取りページを捲る。
かなり分厚くなっている。
字が多く、読みにくかったが今ある知識で読めるとこまで黙読した。
“サーバルが落石に気付かなかったところをかばんが助けるも、自分が下になり死ぬ”
似たような内容がいくつも書いてあった。
「助手、こんな本図書館にありましたか?」
黒い革質の本を見せた。
「いや...初めてみたのです」
博士がその本の表紙に戻すと金色の文字でこう書いてあった。しかし、博士がその意味を理解するのは当分先ことである
『親愛なる友人を見殺しにして逃げた臆病な偽善者で屑野郎の物語』
ーーーーーーーー
<元ネタ>
【終わらない英雄譚】
アイテム番号:SCP-268-JP
オブジェクトクラス:Euclid
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