童心に帰る魔物


みなさんは、小さい頃、どんな玩具で遊びましたか?



男の子なら、ミニカー?怪獣やヒーローの人形?

女の子なら、お人形?おままごとセット?



他にも、水鉄砲、けん玉、メンコ...

近代ならゲーム機という人もいるかもしれません。



小さい頃に遊んだ玩具を今でも持っていますか?

久しぶりに、玩具箱の中を開いて見てください。


きっと懐かしい気持ちになることでしょう。

しかし、懐かしさは、大人になると恋しくなるものです。あの頃に戻りたい。

そんな思いを食らい尽くす魔物がいたとしたら...






あなたは、どうしますか?












「アラーイさーん、置いてかないでよ〜」



「お宝を見つけるのだ!」



この二人は相変わらず、お宝を探し求めて森の中を駆け巡っていた。



静寂な森の中に、突如、奇妙な音が予告無く音が響いた。



ガラン...、ガラン...



「フェネック、なんか音聞こえなかったのだ?」



アライグマは足を止める。



「うん...?」



もう一度耳を済ませたが、音は聞こえなかった。



「気のせいじゃないの?何も聞こえなかったよ?」



「そうなのか...」



少し、アライグマは腑に落ちない様な言い方をした。



二人はその後も森の中をあちこちと歩き回り、いつの間にか夜になっていた。



「あー、もう暗くなっちゃったねー」



「そうなのだ...。この辺で今日はお休みするのだ」



「そうしよーかー」



二人は大きな木のそば寄り添いながら眠りに付く。

彼女たちはかばん達と行動していた時の名残りで、昼夜逆転した生活を送っていた。



森に響く音は、虫の声、そして時折吹くそよ風の音。

自然の音は心地よいと言う人もいるが、

逆に不気味で恐ろしいという人もいる。

森の中は、現実と隔離された一種の奇妙な空間なのかもしれない。

月がちょうど、夜という舞台のセンターに立とうとしていた。



ガラン、ガラン、ガラン



その時から、聞こえ始めたこの音で、耳の良いフェネックは静かに目を覚ました。



ガラン、ガラン、ガラン



(なんだろう、この音)



その機械的な音は止むことがなかった。

こんな森の中に、違和感を生み出すその音。



ガラン、ガラン、ガラン



(...どこか、遠い遠い昔に聞いたかもしれない)



その音は、騒音というよりか、どこか哀愁があり、懐かしくも感じた。



ガラン、ガラン、ガラン



「...おた...から...」



最初はアライグマの寝言かと思って見たがうっすらと瞳を開けていた。



「アライ...さん...」



ガラン、ガラン、ガラン



アライグマは立ち上がった。

それに合わせ、フェネックも立ち上がる。何故だろう。

その音の方向へ向かって自然と足が動く。

まるでその音に導かれるように。



ガラン、ガラン、ガラン



その音が近くなるにつれて、二人は楽しい気分になる。それは、今までの人生で経験したことのない事でも。


懐かしさという気持ちは彼女らは知らないし、わからない。


そのはずなのに、導かれるのだ。



ガラン、ガラン、ガラン



プラスチックのおもちゃを寄せ集めにしたような生物が鳴いている。

何を彼は求めているのだろうか。

それは恐らく、彼のエサだろう。

懐かしさで、獲物を食らう。

それが彼の狩りの仕方。


彼女らが動物のままなら、この音は環境音として処理されていたのかもしれないが、今彼女らは人間と動物のハーフと言っても過言ではない。

ここで強調しておくべき点は、彼女らが人間の特性も併せ持つという事だろう。



「見つけたのだ...」



「すごいね...アライさん」



彼女達は警戒のけの字も思い浮かべず、

抵抗すること無く彼に近付いた。



「フェネック!一緒に遊ぶのだ!」



「えへへ...いいよ、アライさん」



彼女達は彼の体を一緒に探り始める。

とても童心に帰ったように懐かしく、楽しい気分になる。

どんどん彼女達は彼の中に踏み込む。

玩具をかき分けながら。



彼女達は笑いが止まらなかった。

それは、楽しく、一番幸福だったからだ。



この玩具の海がどれ程広く続いているのかは、彼女達にも、また、彼にもわからない。

出口があるのかさえも。



もしかしたら、子供の時という時間の枠に嵌ってしまったのかもしれない。



彼は満足気にガラガラと声を出し、体を大きくさせた。

二人が彼の中から出てくることは一生ないのかもしれない。



でも、幸せなんだからいいじゃないか。

子供のように無邪気に遊び、無邪気に笑い、無邪気にはしゃいで。

それに、海はとっても、広いのだから。

宇宙のように。







ーーーーーーーー


〈元ネタ〉



【恐竜 - イミテーション】


アイテム番号:SCP-173-JP


オブジェクトクラス:Euclid

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