現実は夢の中

「最近、変な夢を見るんですよ...」


「夢?」


「どんな夢なの?」


「それが、“高い所から落ちる夢”なんです」


火を取り囲む形で、話しはじめた。


「単刀直入に言うと、高い所から落ちる。それだけなんです」


「そんなの、よくある夢じゃないか。


どうせ落ちてもすぐに目が覚める奴じゃないのか?」


「違うんです。なんか景色もここの島とそっくりで...」


「もしかして、本当にこの現実で落ちているのと何ら変わりないってこと?」


「そうなんですよ...。怖くないですか?」


「もし、それが本当に正しいなら...」


「夢から覚めないと死んじまうってことだよな?」


「オーダーキツいっすよ...そんなおっかない夢見続けるなんて...」


「だったら眠らなければいいじゃないか」


「...先輩!その案いいですね!やってみます!」


「そっちの方がオーダーキツそうな気がするけど...、大丈夫?」


「キンシコウ先輩、大丈夫ですよ。

だって眠らなければ良いだけの話じゃないですか!」


「まあ...私も気付いたら起こしてあげるから」


「ありがとうございます!」








「...とは言ったものの、やっぱキツいっすね...。なーんもやる事ないし、

先輩達は寝ちゃったし....

セルリアンでも出てくればいいんですけど...、出てくるのはあくびだけですよ...」

次第にうとうとし始める。


(ちょっと目を瞑っても、意識さえあれば...)







「・・・・」


風を感じ、目が覚めた。

空がどんどん、遠くになって行く。



(あっ!しまった...。寝ちゃったんだ...。早く目が覚めないと...)



だが、期待とは裏腹に一向に夢から目覚めない。



「早くしろ...、早く...」



落ちるスピードは意外に早い。

ふと下を確認すると、地面まで後数十メートルしかない。



「やだっ!まだ死にたく...」






「なっ....はぁ...はぁ...」


気付くと、元々自分が寝ていた所だった。


「あれ、リカオン...」


不思議な顔をして、キンシコウがこちらを見つめていた。

その次に発せられた言葉が、リカオンの背筋を凍らせた。


「あなた、何処へ行っていたの?」


「えっ...」


(ということは...やっぱり...)


「キンシコウ先輩!やっぱり、これは夢なんかじゃなくて現実なんですよ!どうすればいいんですか!まだ死にたくないですよ...」


「そ、そう言われても...」


キンシコウはリカオンに懇願されたが、打つ手立てが無かった。

だが、少しでも彼女の不安を払拭してあげることが出来たならと、思ったのだ。


「...じゃあ、私が一緒に寝てあげるから」


「ほ...、本当ですか...」


「別に良いのよ。あなたが不安で怯えてる顔、見たくないから」

笑った顔を私に見せてくれた。






その日も再び夜がやって来た。


ヒグマはすぐに寝てしまった。

少し遅れて、私はキンシコウと共に横になった。

何も起きないでくれ。


それが唯一の望みであった。



だが、またしてもその夢は叶わなかった。


また、体に風が当たり目が覚める。



(ああ、またダメだった...)



そう落胆した時ふと右を見た。



「キ、キンシコウ先輩!」



私の声で、目覚める。


「ん...、これって...」


「私の言っていた“夢”ですよ!」


「ウソ...」


彼女も、まさか毎晩私がこんな夢を見ているなんて思わなかっただろう。


「だ、大丈夫です!きっと目が覚めるハズですから!」


今までの自分のパターンから行けば、助かる。そう予測していた。

しかし、ここは現実の世界でもあり、夢の世界でもあるのだ。


この前の様に必死に願うしかない。


私は無意識に彼女の手を取っていた。



(せめて...先輩だけは...!)



地面まで数十メートル、8メートル、5メートル...



(頼むっ!)







私は目をそっと覚まして開いた。


無意識に、彼女を握っていた手をそっと見たのだ。


なんの理由も無く、辺りを見るよりも先に...



「あっ....」


手は赤い色に染まっていた。



唖然としたまま、騒ぐ事も、泣く事も出来なかった。

ただ、心からこう思ったのである。



“夢であってほしかった”と



ーーーーーーーー


〈元ネタ〉


【夢であってほしかった】



アイテム番号:SCP-1315-JP


オブジェクトクラス:Keter

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