ハートフルメイド喫茶
「あっ!ハカセ、助手!」
「サーバル...、今日は美味しいものが食べられると聞いてやって来ましたが…」
「何なのですか、その服は?」
博士と助手に指摘され、サーバルはすぐに解説を始めた。
「これはね、“めいどふく”って言うんだって!かばんちゃんに教えてもらったんだ!」
(食べ物となんの関係があるんでしょうかね?)
(ヒトが考える事などわかるわけないじゃないですか...)
二人は別々に心の奥でそう思った。
「まぁまぁ、入ってよ!」
サーバルに背中を押される形で二人は店の中に入った。
「よ、ようこそ...、じゃなかった
お、お帰りなさいませ...、ご、ご主人様!」
かばんがサーバルと同じ格好をして、
恥ずかしそうにしながら、挨拶をした。
「か、かばん?」
「な、何なのですかそれは...」
当然、こんな物を見るのは初めてなので博士たちも困惑する。
「えっ、えっと...、アルパカさんと相談してこうなったんです…。まさか、こんな感じだとは思わなくて...」
「ま、まあ料理が食べられれば良いのです」
「大事なのは見た目より味なので...」
二人は椅子に座り、かばんに差し出されたメニュー表を見た。
(なんですかね、この長ったらしい名前は)
(読むのが面倒なのです)
「えっと...、おススメメニューは?」
博士が尋ねた。
「これがおススメですよ」
と、かばんは指でそのメニュー名を囲うようにして見せた。
「じゃあ、その、真っ赤なハートの雪降トマトジュースと、...さばんな妖精のドキドキオムライスを」
「私も同じ物で...」
「わかりました。アルパカさん!」
「はいよぉ!」
調理場の方で、アルパカが調理を始めた。
「かばんが作るのではないのですか?」
その様子を不思議に思ってか、助手が質問した。
「わたしが教えたんですよ。本人が作ってみたいって言っていたんで」
しばらくして料理が出てきた。
黄色いオムライスに赤いトマトジュース
「では、頂くとしますか」
「そうですね」
「ちょっと待って下さい!最後に大事な工程が残ってるんで!」
そう言ってケチャップを持ってくると上手にサーバルの顔を描いてみせた。
「どうですか?」
「じょ、上手だと...思います」
「ええ、っとそ、そうですね」
何故か二人は息の詰まる様な言い方をしてしまった。
(我々は料理に芸術性は求めていないのですが...)
(我々は単に食べれればいいのですが...)
心の奥でそう思いながらスプーンを持って、口へ運んだ。
「...これは!かばんの教え方が上手いのです!」
「いえ、アルパカの適応がすごいのでしょう!」
二人を褒め称えた。
「お飲み物の方は如何ですか?」
「この“トマトジュース”でしたっけ。新鮮な味がするのです!」
「ですよねぇ!」
かばんはニコニコ笑っていた。
そして、料理を食べ終えた。
「ごちそうさまなのです」
「ごちそうさまです」
博士たちは満足気に店を出ていった。
「また来てくださいね!」
店を出てから10分後のこと
「あんな美味しい料理が食べれるなんて思ってもいませんでしたよ」
「ええ。ですが...」
「どうしたのですか?助手」
「我々は1つの大きな重大な見落としをしている気がしませんか?」
「見落とし?どこも変な所は...」
「何かが、“書き換え”られてませんか?」
そう助手が言った所、突如として異変が起こった。
「あっ...」
突如意識が飛びそうになり、助手は目を閉じて眉間を抑えた。
しばらくその場から動く事が出来なかった。
「...っ、すみません博士...って、博士?」
博士が地面に倒れている。
突然のことで驚いた助手は博士を叩き起した。
「博士!?どうしたのですか!?」
「ふぁ...。じょ、助手?いったい何が...」
「何って、倒れてたじゃないですか」
「....」
博士は黙って、助手の顔を見つめていた。
「あぁ、なんでもないですよ。助手」
「...やっぱ何か変じゃないですか?」
「考え過ぎなのです。我々は至って普通です。助手の方こそ変ですよ」
そう言って、博士は先に進み始めた。
「...」
今度は先へ進み始める博士の後ろ姿を助手は黙って見ていた。
「考え過ぎ...ですよね。だって、世界は“一つ”しかないのですから。
きっと、さっきのは日頃の疲れであるのでしょう...」
助手は自分に、そう言い聞かせた。
翌日...
「お帰りなさいませ!ご主人様!」
今度はサーバルだった。
「また来てやったのです」
「どうも」
そう言って二人は再び昨日と同じテーブルに座った。
「今度はこの、ドキドキパラダイスフルーツティーとスイートスイーツセットを頼むのです」
「私も同じのを」
「また来てくれて嬉しいです!」
かばんがまた、笑いながら二人の元へ来た。
「昨日は生まれて初めてあんな美味しい物を食べさせて貰って、すごく感動したのです」
「お、美味しかったのです」
そう助手が答えた所、チラッとかばんがこちらを見た気がした。確証はない。
「はいどうぞぉ〜」
アルパカの作ったケーキがかばんを経由して、テーブルに置かれた。
すぐ後に空のティーカップと、湯気が立ち上るティーポットも運ばれ置かれた。
「美味しい紅茶を入れますからね!」
かばんはティーポットを持ち、高い所からこう言って注いだ。
「もえもえ〜!」
博士も似たような返答をしたような気がしたが、助手はそれを確認出来なかった。
少し、頭が痛い。
出されたケーキを口へ一応運んだが、
ベタな甘さが余計に助手の気分を悪くさせた。
チビチビと紅茶を飲み、ケーキには触れなかった。
そして、かばんの顔を直視する事も出来なかった。
「ごちそうさまなのです」
博士が立ち上がったので、助手も立ち上がった。
「また来てくださいね!」
「また来ます」
博士はそう言って先に店を出た。
助手も出ようとした時、ふと足を止めてこうかばんに質問した。
「...かばん。自分のことなんて言いますか?」
「えっ?わたしですか?わたしですけど?」
「そうですか...」
そう呟き外へ出た。
その瞬間、何かから逃げる様に走り始めた。
すぐに博士に追い付く。
「博士!ここは我々の知っている世界ではありません!我々は何者かに騙されれいるのです!」
「何を言っているのですか...
我々は至って普通ですよ。それに世界は“一つ”しかないと何度も言っているのです」
「確かに、世界は一つです!ですが、私が言いたいのはこの世界は何かによって...、うぐあっ!?」
唐突に心臓を誰かに抉られるような痛み。
立っていられる筈もなくその場に崩れ落ちる。
「は...はか...せ...」
博士の方を見ると彼女もまた倒れてる。
助手は薄れゆく意識よりもこの世界のおかしな点を確認する事を優先していた。
(かばんは...、自分のことを“ぼく”と言っていた。それに...、かばんは
セルリアンに吸収されて居なくなってる。更にいえばサーバルも死んでしまっている...。じゃあ、我々に届いたあの店の招待状はいったい誰が...?
何故、我々はあの空間で違和感を全く感じなかった?
おかしい。明らかに...、
この世界は
“誰 か に 書 き 換 え ら れ て い る”)
助手は、具体的な結論を出す前に意識を失った。
「記憶処理完了、万事休すだったね」
「とりあえず助かってよかったのだ
だけど、こっちでミーム汚染が広がっているとは思わなかったのだ...」
「ミーム汚染...、簡単に言えば“常識が書き変わること”。それがこの世界...
いや、空間に広がっていると断言してもいいね」
「二人をどうするのだ?」
「図書館に戻すけど、その前に連絡を入れないと」
“...こちら■■。コード■■■
SCP-122-JPの被害者の記憶消去完了。今後どうしますか?”
“引き続き調査を行なってくれ。近いうちに本部の者をそちらに送るかもしれない”
“それは、私達も“保護されるべき者”と認識されているから?”
“一応だ。君達には異常性は見られなかったが、話を聞いて上の会議でそう決定されたからな”
“私達を“保護”する事だけはやめてね?カワラダ博士”
“それは私が決める事じゃない。上が決める事だ。じゃあな”
「....さ、二人を図書館に戻そう」
「お任せなのだ!」
「あれ...私はいったい何を...」
記憶が無い。ここ2日ばかりの。
「助手...おはようです」
博士は何事も無かったように目を覚ました。
空にはいつもの様に太陽が昇っている。
いつもと変わらない。
日常だ。
何故か助手はその光景を見て安堵した。
(世界は、一つですよね)
ハァーと、深く息を吐いたのであった。
ーーーーーーーー
〈元ネタ〉
【問題あるメイド喫茶】
アイテム番号:SCP-122-JP
オブジェクトクラス:Euclid
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