第8話 病気は……どうして私なんかを選んだの?



「どうして……病気は私なんかを選んだの?」


 夕焼けの映えるアスレチックで、少女が一人涙を零していた。震える、小さな手を握りしめ、まるでこの世に味方などいないと言うように……



 僕の彼女、旗館香織は天然のフラグメイカーだ。しかも、大体死亡フラグ8、恋愛フラグ1、その他、の割合で建ててくる故少し困る事がある。まあ、そんな非科学的な事信じてないんだけどね!ね!

 そんな香織だが、何故か自分では死亡フラグを回収しない。世界観が違えば、それはスキルだとか呼ばれるのだろうが、他人ーー殆ど僕に回収させるスキルとは一体。


「瀬野さん」

「何かな」

「アスレチックに行きましょう」

「……多分ご存知だと思うけど、僕らって受験生だよね?」

「そうですね、ご存知です」

「家に来た時も言ったと思うけど……それなのにアスレチック?」

「それなのにアスレチックですが」

「まじかー」

「マジですよ」


 火曜日の昼下がり。何故か登校途中の記憶が無く、気付けば保健室のベッドの中という珍体験をしたのだが、身体に異常はないようなので大事を取って今日は帰りなさいと言われたその日の内に、アスレチックへ遊びに行こうとはどういう了見か。


「一応僕ら、結構危ない目にあったかもしれない身なんだよ?」

「いえいえ、あの後、宇宙人さんにキャトルミューティレーションされましたが、なんとか瀬野さんが隙をついて宇宙戦艦の自爆ボタンをポチッ!タコさん型やマンティスさん型の方達が『矮小な猿の身でよくぞ……』ってなんか意味深な言葉を呟くと同時、警戒音やら異常音の最中戦士的なハムスターさん型の方が現れて、瀬野さんと一騎打ち!小回りをいかした闘いに瀬野さんは終始苦戦していましたが、たまたま私が持っていたヒマワリの種で惹きつける事でなんとかハムスターさんを撃退!最後は爆発の中手当までしてもらってd('∀'*)って感じで救急脱出ポッドを手配してくれたじゃないですか」

「ちょっと話が盛りすぎじゃないかな?」


 香織はたまに、こんな設定が盛り盛りの小話をしてくれる。何故か話の最後は僕が痛い目にあったり酷い目にあったり不幸な目にあったりするのだけれど。そして……最後にこう言うのだ。


「カッコよかったですよ、瀬野さん」


 笑顔で、こう言うのだ。


「……ありがと」


 恥ずかしいやら嬉しいやらで顔が熱くなる。


「さて!アスレチックまでもうすぐですよ!」

「あっ、もうこんな所まで……」

「ぬっぬっぬっ、これも戦略ですよ」

「何その笑い方」

「相手さんの幹部的な方がやってました」

「へー」

「……むー……あ、見えて来ました!」

「………………香織っ!」

「ええ、瀬野さん!」


 下着姿の少女が、滑車の下で倒れていた。

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僕と彼女のデットフラグ ネコモドキ @nekomodoki

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