私が物語に踏み込むと、物語も私に入り込んでくる

一度読了してから少し時間をおいてもう一度読み返したときに、どうにもスラスラ読み進むことができませんでした。それは何故だろうと自問した時に、自分があまりに登場人物に感情移入していたことに気がづきました。

ウィルキンソンの炭酸水やミャンマーのロイヤルミルクティーといった生活の断片が、登場人物の心情とともに作品のリアリティとなって迫ってきます。さらに一人一人のキャラクターが丁寧に、かつ生き生きと描かれているため、私は否応なく作品の中に投げ込まれてしまいました。それくらい、求心力の強い作品です。

求心力が強いからこそ、好き嫌いがはっきり分かれるかもしれません。けれど誰にでも好かれる陳腐で無味乾燥な作品よりも、訴えかける「誰か」のいる物語の方がはるかに心に刺さります。その個性の強さゆえに誰しもが「無関心」ではいられない、読者全員が作者の世界に入り込んでしまう、そんな炭酸水のような刺激を持った物語だと感じました。

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