走れモラス
※以下は双葉屋クソ小説大運動会に提出しようとして字数まで行けなかったブツです。漏らすルートか紙がないルートかはご想像におまかせします(???
仕事終わり、日が傾いて多少気温が落ちたとは言えまだ暑い真夏の宵の口。
それは唐突に訪れた。
――烈しい腹痛である。
それも「どこかに座れる場所は無いか」みたいな猶予がある感じのやつではない。最寄りのトイレを探して滑り込まなくてはあっという間に決壊しそうな、緊急度の高いやつだ。
左の腹部から出口にかけて、何かが流れるような痛みの波が打ち寄せている。これはまずい。相当、まずい。昼食に中ったにしては時間が遅い。何だ、何が原因だ。
暑い中ひとり冷や汗を掻きながら頭の中に近隣のマップを呼び出す。
最寄りのトイレはコンビニだろうか。いや、危険だ。コンビニに行くためには次に近いトイレがある最寄り駅から離れることになる。コンビニに行ったところでトイレを借りられるかはそもそも賭けだし、だったらやはり素直に駅に行った方がいい。
――走れるか?
時間だけを問うならば、もちろん走った方がいい。だがその振動に括約筋が耐えてくれるかどうか。漏らしたら終わりだ。社会的に終わりだ。なにしろここから一時間は電車に揺られなくてはならない。ズボンを茶色く染め、臭を撒き散らしながら電車に乗ることはできないし、かといってタクシーもだめだ。車の持ち主がかわいそうすぎるし気持ち悪い。もちろん徒歩で帰れる距離ではないし、一人暮らしなので家人の迎えも期待できない。
走って括約筋に負担をかけることと、ゆっくり進んで時間をかけること、どちらの方がリスクが低いか。尻に力を入れてそろそろと歩きながら、そのようなことを考える。
ぎゅるるるるるるる。
何かを訴えるように腹から音がして、出口付近に痛みが走る。冷や汗がひどくなり、顔から血の気が引いていく。しゃがみこんでしまいたいが、しゃがんでしまったら最後、全てが出ていくような気がする。人としての尊厳とかそういうのを含めて。
選択肢は消えた。走ることはできない。一歩ずつ着実に進まなくてはならない。
なのに、ああ、階段!
階段があることを忘れていた。地下鉄に乗るためには階段を下らねばならず、尻に力を込めたまま階段を下るのは難しい。エスカレーターは途中からしか無いし、エレベーターは片道二車線+右折車線の計五車線を渡った向こう側だ。トイレまでの直線距離で言えば、階段を下った方がいい。
事態は逼迫している。もはや腹を動かさないために呼吸すらも慎重に行わなくてはならない状態だ。腹式呼吸なんかしたら上から吸った分だけ下から出る。出口の
壁に手を付きそろそろと階段に足を下ろしながら――衆目など気にしている余裕は既に無い――襲い来る腹痛の波に耐え、一歩、また一歩とトイレを目指す。ひっひっふー。ひっひっふー。だめだ違う、それは出る方のやつだ。安産している場合ではない。というかこんなところで
意識を腹からそらしつつ、括約筋に全神経を集中させつつ、どうにか階段を踏破した。しかしその安堵感からか、ひときわ強い痛みと出口への圧が発生してくる。括約筋に全力を込め、腹の奥に吸い戻すイメージを脳裏に浮かべる。ここからトイレまで、あとは平坦な道しかない。距離にしたって100mは無いだろう。あと少し、本当にあと少しなんだ。
雑文置き場 豆崎豆太 @qwerty_misp
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